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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
21/52

極上パンジャン・ドラム~英国面を求めて~

《それでは、お待たせしました、PDレース決勝ブロック開始です! 3、2、1……レッツ・パンジャン!》


 一瞬の静けさの後、七つの罪深き自走爆雷が一斉に走り出す。予選より二台多い為、余計手狭に感じる。間違いなく衝突事故が発生するだろう。


《まず先頭に立ったのはジャーパン3。ジャパニーズ・ホラーはいつだって世界の陣頭に立つんだと言わんばかりの走りです》

《頭文字Jだな》

《だが、そこにジャンガードFが火を噴きながら追突。あっと言う間にイ〇ークされました》

《迷う事なく突っ込みやがった》


 というか、故意的に突っ込んだ奴が約一名。


《次にトップに躍り出たのはパンドラモン。すぐ後ろをギガントマキュラが追い掛けます。

 しかし、復活したジャンガードFが飛翔・燃焼し、空爆を敢行。パンドラモン、空に逃げようとしますが一歩遅く、撃墜されました。先に吹っ飛んだジャーパンの顔パーツ諸共、ドラ〇もんの破片が四方八方に飛び散ります。爆笑》

《グロテスクだな、おい》


 さらに、墓地より蘇生し天を舞い、炎纏いし不死鳥となりて、パンドラモンをイワ〇ク。見るも無残な大惨事を引き起こした。それでも吹っ飛ばない辺り、ギガントマキュラの装甲厚は相当なものである。さすがカルマとアルマ、としか言いようがない。


《どうにか耐えきったギガントマキュラ。さすがの硬さです

 だが、そこにスパイダージャンの炎熱ネットが炸裂。これには堪らず爆散しました》


 しかし、スパイダージャンのえげつない燃える投網を諸に食らってしまい、爆破。アンカー付きの炎上ネットとか、えぐいにも程がある。


《衝撃耐性は高いようだが、燃焼対策が若干甘いようだな》

《タイヤ周りやブースターの近くはどうしても装甲が薄くなりがちですからねー》


 爆発炎上が前提で、事故と自爆が必須のレースって何なんだろうね。「お前を殺す」って事かな。そこは原作通り生存フラグにしてほしいのだけれど。……あ、駄目ですか、そうですか。


《さぁ、他の連中のいざこざなどどこ吹く風と言わんばかりに、ジャンバラードXとレディパンジャンが前進します》

《親子みたいだな》

《あるいはドラ〇エみたいですね》


 どっちも嫌だよ。

 もちろん、カブトムシ野郎を先に行かせたのは、言うまでもなく後続からのヘイトを買わせる為だ。小さい分こちらの方が装甲厚で負けているし、馬力でも差がついている。使える物は存分に使わなくては。

 さて、そろそろ最初のカーブだな。

 ……そう言えば伝えていたかったが、予選と決勝では若干コースが変わっている。

 予選だとΩ→Αだったが、決勝だとα→ω→√となる。αが螺旋状の上下で、ωは波打ち、√は傾斜のキツい上り坂。その後はパチンコの代わりにロン〇ルキアっぽい洞窟ゾーンとなり、少し下った後は真っすぐな一本道と来て、恒例のジャンプポイントを経てゴールとなる。お邪魔壁はωと√の間に出現する。飛行ポイントは予選と同じく最初の直線と最後の直線のみ。

 全体的に予選コースをグレードアップさせたような感じである。

 とにかく斜面が厳しい。パンジャン・ドラムは傾斜に弱いからな。上下している最中は方向転換が難しい為、攻撃を受け放題になってしまう。

 だが、一番の問題は洞窟ゾーンだ。

 この洞窟、中が薄暗い上にスプリガン(やはり一匹だけメタル使用)がうろつき、おまけに左側の壁が最初の直線コースに接しているので、上からどころか横からも空爆される危険地帯である。多少の高低差はあるが、飛行ユニットの前では何の意味もない。ついでに壁が物凄く脆い為、崩落やコースアウトの危険度が鰻登りに上昇していく。

 パイロットだけでなく、コースそのものが殺意に満ちている。ゴールさせる気あんのか。主催者出て来いと叫びたいところだが、関係者が一名すぐ近くにいるのでそれも出来ない。ちくせう。

 とにかく、僕は最初のαカーブに差し掛かったのだが、


《おっと、リスポーンしたスパイダージャンの焦熱地獄ネットが再び》


 対空防御ぉ!


《しかし、ジャンバラードXもテントウムシ花子も前翅を展開、燃える投網を受け流しました》

《仲良いなこいつら》


 別に仲良くねぇよ!

 しかし、危なかった。標的が先行したジャンバラードXだった為、何とか直撃を受けずに済んだが、諸に食らった場合、燃焼は凌げてもアンカーで拘束されるので、逃げられなかっただろう。

 だが、さすがに凄いな殿堂入りの実況者。あれを直撃したにも関わらず平然と防ぎ切り、その上ドリルで網を引き千切りやがった。魔女の名は伊達じゃないって事か。


《おっと、螺旋の頂点に達した所でジャンガードFの特攻空撃。斜め下から放たれた破片がジャンバラードXを直撃、コースアウトさせました》


 しかし、さすがに下からの掬い上げには対抗出来なかったようで、炎上こそしなかったものの、コースから弾き出されて爆散した。怖っ!

 何かパンドラモンも似たような事をしようとしてるし、さっさと下ろう。坂道運転は慎重に。

 その後、横に波打つωラインに到達した瞬間、ジャーパン3の追突とスパイダージャンの投網を食らったが、追い上げて来ていたギガントマキュラが盾となる形で回避に成功、先に進む事が出来た。殆ど対角線上なのに届かせるなよ、蜘蛛の巣!

 そして、石壁を慎重に叩き割り、坂道√を駆け上って、いよいよ最難関の洞窟へ突入。

 ちなみにこの近辺に狙撃手が配置され、結構な威力の魔弾を撃ってくるのだが、レディパンジャンの装甲なら問題ないので気にしないで進み、中に入ってからは、横槍を入れられないように右寄りで進んでいく。

 分かっちゃいたけど、暗いなここ。色とりどりのプリンが発光してるおかげでぼんやりとは見えるけど、それでもなお薄暗い。こうなると逆に風穴を開けてもらった方が嬉しいかも。

 うん、少し待とう。どうせ野生のスプリガンに当たられても大した事ないし、メタルな野郎に接触しなければ問題ない。

 むしろ、少しでも明るくしてもらわないと、落とし穴が怖過ぎる。耐久力に関係なく即リスポーンされるからだ。そんな所までリスペクトしなくていいのに。これでシルバーデ〇ルとか出て来たらぶっ飛ばしたくなる。


《花子ちゃんの後を追うはジャーパン3とパンドラモン。そのすぐ後をギガントマキュラが行きます

 おおっと、ジャーパン3、曲がり切れず√坂で大破。パンドラモンと仲良く散りました。ギガントマキュラはジャンガードFに追突されましたが何とか耐え、洞窟ゾーンに突入。

 だが、入って間もなくジャンガードFの横槍とスパイダージャンの投網が炸裂。洞窟の壁諸共破壊されました》

《さっきからギガントマキュラが可哀そうだな》


 処刑人みたいな名前なのに。名が表した体がデカ過ぎるのが、確実に仇となっている。当てやすいし、邪魔だもんね。大人しく引っ込んでろ。

 だけど、おかげで光明が見えた。追撃されない内に最後まで持って行く。


《おや、洞窟からなかなか出て来ないと思っていたテントウムシ花子が、ようやく抜け出してきました》

《たぶん、嵐が過ぎるのを待ってたんだろうな》

《そうですね。洞窟は暗くて狭いし、落とし穴まである。誰かが生贄となって、壁が崩落するのを待っていたのでしょう。姑息な手を……》


 やかましいわ。そうじゃないと生き残れないんだよ、機体スペック的に。


《ともかく、花子が最後の花道を走ります。リスポーン組としては、是非ともここで仕留めたいところ》


 余計な事言わなくていいから!

 つーか、パンドラモンとジャンガードFとスパイダージャンが雁首揃えて狙ってるぅ!


《まずはスパイダージャンのヘルファイヤーネット。しかし、これは翅で受け流される。

 次はパンドラモンの飛行攻撃。だが、これは後ろから来たジャーパン3の八つ当たりで失敗。ジャンガードFも巻き込まれて焼き鳥になりました》


 うぐぐぐ、加減速と展開機構、それと事故のおかげで、どうにか凌ぎ切った――――――と思いきや、ここで天界の笛が鳴り響き、最初の直線と洞窟を繋ぐショートカットの坂道が開通。蘇った害悪たちが一気に勝負を仕掛けてきやがったぁ!

 足の速いジャーパン3とパンドラモンが先行するも、まーた坂の入り口で事故を起こし爆散。だからグロいって。

 さらに、ジャンガードFが空を飛びながら洞窟に突入。背後からのデスネットを神業的な着地&ドリフトテクで回避。代わりに遠回りで洞窟に突入していたギガントマキュラが被弾し砕け散った。またお前か。一緒に走ってたジャンバラードXは無事だったのに……。


《おっと、ショトカ開通と同時に事故と自爆が多発し、その中を見事に生き延びたジャンガードFとジャンバラードX、卑怯で姑息な手を使い必死で生に執着するレディパンジャンの三機による、デッドヒートが始まりました!》


 うるせぇよこの野郎、他人事だと思って!


《そこに全てを泥沼に沈めんとスパイダージャンがネット通信で招待状を飛ばすも、三機揃って飛翔し回避。そのまま首位争いを続行しましたぁ!》

《奇しくも鳥が甲虫二匹を追い掛ける形になってるな》

《食物連鎖、乙☆!》


 誰が乙るかぁ!

 やらせはせん、やらせはせんぞ、ドルァアアアアアアアッ!


《テントウムシ花子、必死に飛んでいますが、すぐ後ろからはジャンバラードXの三連ドリルが、ぶっ貫いてやんよとばかりに迫ります!

 おっと、ジャンガードFがパンドラモンとスパイダージャンの横槍で空中爆発。結果的に甲虫同士の一騎打ちとなりました!》


 来る、来る、ドリルが来る!

 僕をケツから粗挽き肉団子にせんと、螺旋力を見せつけながら、物凄い勢いで迫って来ている!


「ジャンプ台だ!」


 あれが見えたという事は、ゴールは目の前である。

 くそっ、何としてでも先にジャンプ台に辿り着かなくては。僕のレディパンジャンは、ジャンバラードXよりも僅かに遅い。ジャンプ台に設置されている風魔法の力を上手く使って加速しないと、確実に掘られる。

 頑張れ、レディパンジャン!

 僕はこんな所で死ぬつもりは、更々ねぇんだよぉおおおおおっ!


「ぐっ……!」

『………………』


 だが、ジャンプ台を目の前にして、とうとうジャンバラードXのドリルが射程圏内に入った。ここかは見えない筈のコクピットで、パイロットがニヤリと笑ったのが見えた気がする。


 ……嘘、僕、これで、終わり……?

 ユダ、母上様、アンタレスさん……カルマ、アルマ、スップリン、ドラコ……カイン……あ……嫌だ……、


『キィアアアアアッ!』

『ゴガァアアアアッ!』

《ああっと、だがしかし、蘇ったジャンガードFのゴッド・フェニックスがジャンバラードXに真横から直撃。道連れにする形で撃墜しました!》


 しかし、殺意のドリルがレディパンジャンのケツを捉える寸前、リスポーンしたスパイダージャンのアンカーネットが絡まり、更に炎の中から蘇ったジャンガードFのV2アタックが直撃。ヒート&エンドで大爆発し、ジャンバラードXは捕食された。

 さぁ、これで僕を邪魔する者はもういないっ!

 偶然だろうけど、ありがとうカインと鳥の人!


「行っけぇええええええええええええええええ!」

《レディパンジャン、誰もいない空を突き進み、ジャンプ台の加速をも利用して今……ゴーォォオオオオルゥッ!》


 そして、殺意と爆炎が入り乱れる焦熱地獄を踏破し、僕は一着でゴールを決めた。


「……にゃあああああああっ!?」


 あとは後続の爆発に耐えるだけぇっ!

 ひぃぃやぁっ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!

 コクピットの殻が、壁が、装甲がぁ!


「あああああっ、もう二度とPDレースなんか出てやるもんかぁっ!」


 その後、壮絶な潰し合いの果てにジャンバラードX、ジャンガードF、パンドラモン、ジャーパン・ドラムmk-3、ギガントマキュラの順でゴールした。

 相変わらず色物二つが大事故を起こし、それにギガントマキュラが巻き込まれる形で泥沼化して、その隙を突いたジャンバラードXとジャンガードFがほぼ同時にゴールインしたらしい。あとは野となれ大和撫子って感じに自爆と事故を繰り返しながら三機が争い、気が付いたらこの順位になっていたそうな。ギガントマキュラ涙目。性能は良いのにね。

 こうして、何が起こるか分からない……というか、押し合いへし合い潰し合いしか起こりえない、とんでもレースは幕を下ろしたのであった。


 ――――――ってアレ? 僕、結局出られてなくね?

◆マモン(イメージCV:空はいい……)


 地獄の七大魔王の一柱にして、七つの大罪の「強欲」を司る悪魔。別名はアマイモンだが、別に食べても甘くはない。七十二人の堕天使を率いる、地獄の東側の王と言われている。容姿は一言でいうなら「鳥人間」。どこぞの双頭怪獣のような二つの烏頭と鋼の肉体を持ち、背中に一対の翼を生やしている。

 元々はアラム語で「金銀財宝」や「富と名誉」を意味する言葉でしかなかったが、後に聖書で具現化され、悪魔の一柱となった。そのせいか、徹底した合理主義者かつ金にガメつい。

 ただし、金の使い方を知っている者は例え人間だろうと重宝し、実利さえ伴えば何だかんだで助けてくれるなど、案外面倒見が良かったりもする。

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