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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
20/52

おい、レースしろよ

 天空の賭場、テセウスの一角。

 そこは異様な熱気に包まれていた。誰も彼もヘッドギアをしているので静かなものだが、今頃味わっているであろうバーチャル世界の出来事に対する興奮が漏れ出し、ムンムンとしているのである。これが現実なら拍手喝采と歓声の嵐で、鼓膜が破壊されるのではないか、と言わんばかりに。

 そんな頭のおかしい連中の中心に、七つのレーシングチェアに座った、七人の男女が仮想空間にダイブしていた。その内の数人は見知った顔で、サイカ・エウリノームもいる。ちょうど第二レーン用の椅子だ。

 しかし、時たま通りすがる者や、電脳世界に潜っている者たちは知る由もない。彼女が今、たった一人でデスレースに挑もうとしている事を。

 そう、テコナ・エウリノームとアンタレス、一足先に抜け出したユーダス・カスパール以外は。


『お姉ちゃん……』

「……アンタレス」

「分かっていますよ」


 だが、ユダこそ心配と罪悪感でいっぱいになっているものの、テコナもアンタレスも動こうとはせず、二人が止めるのでユダも動けなかった為、結果的に全員が静観する形となっていた。

 しかし、テコナとアンタレスが冷血で冷酷という訳ではない。二人はサイカの事を大切に思っているし、害を為す輩には鉄槌を下す。これまでも、これからもそうであろう。

 だが、まだだ。まだ動く時ではない。感情に任せて下手を打つなど、愚の骨頂である。

 むしろ、今は必要な“仕込み”をしなければ。


「さて、アタシたちも始めましょうか」

「はい」

『………………』


 テコナたちは動き出した。愛するサイカの為に……。


 ◆◆◆◆◆◆


 やぁ、皆、おはこんばんにちは♪

 英国面に堕ちた暗黒卿たちが、自走爆雷パンジャン・ドラムを駆り爆ぜる、PDレースの決勝戦がはっじまるよぉ~♪


 ……あーあ、やってやんねぇわ。少しでもふざけておかないと、マジで汚染されるわ、精神が。


 あの後、ユダと再会して事情を話せたのだが、ログアウト出来ないのは相変わらずであり、おまけにユダが罪悪感で泣き出してしまい、慰めている内に決勝リーグが始まってしまった。コースインのタイミングに悪意があり過ぎんぞ、こん畜生。絶対に僕が誰かを頼れないようにしてるだろ、これ。一瞬だけど時間がぶっ飛ばされたような感覚があったし。キンクリなんですか、ボスなんですか?

 一応、母上様たちに助力を求めるようお願いは出来たが、果たして畑違いのこの場所で、どれだけ助けてもらえるのやら……。

 そんな事より、今は生き延びるのが最優先だ。決勝ともなれば、予選以上にレースが荒れるに決まっている。参戦機体もロクな奴がいまい。解説者さんの説明を、しっかりと聞こうじゃないか。


《さぁ、始まりますはPDレースの決勝戦。解説は予選に引き続き、メグ・ミルキーと強欲王マモン様です》

《よろしく》

《ちなみに、リュシルさんはDブロック通過者として決勝に参加する為、残念ながら実況席には居ませんが、その分レースで大暴れしてもらいましょう》

《おう、あくしろよ》

《そうですね。いつまでもくっちゃべっていても仕方ありません。さっそく、決勝戦の舞台に上ってきた、偉大なるパンジャン・ドラムたちを紹介しましょう!》


 予選よりも二機多い、英国が生みし七つの大罪が、そのベールを脱ぐ。


《まずは第一レーン、「スパイダージャン」。

 コクピットと爆弾を収めた頭胸部とエンジンを目一杯積み込んだ腹部、メインの車輪に加えて放射状に広がる八本の補助輪付きの脚という、名前通り蜘蛛型の機体で、耐久性にやや難があるものの積まれた爆弾の威力は凄まじく、更に自爆と同時にコクピットを中心に八本脚と繋ぎ合わされたワイヤーが投網の如く広がり、拘束・炎上させてしまうという恐ろしい罠を体内に潜ませた、悪魔のパンジャンです。

 その威力たるや、攻撃型が四機も集まった混沌とした予選Aブロックでも最多のKILL数を誇り、どさくさに紛れて一位をもぎ取った策士な機体でもあります。

 果たして、決勝では一体何機のパンジャンを葬り去るのでしょうか?》

《おい、レースしろよ》


 第一レーンは、カインの駆るスパイダージャン。

 チラッと見たから知っているが、あの機体はヤバい。

 見た目はアシダカ軍曹だが、スピードはそこそこで、蜘蛛らしく耐久力も低いものの、それを補って余りある程に過剰な攻撃力を有する、超攻撃型のパンジャンである。ホウパンジャンの投網を更に大きく広範囲にしたMAP兵器持ちであり、その攻撃力で唯一参加していた防御型のパンジャンをも撃破していた。炎上効果のある投網で雁字搦めにするとか、悪意があるにも程があるだろう。加えて爆発そのものもかなり威力があるというのだから質が悪い。

 まぁ、中の人が爆裂卿だから仕方ないね。


《第二レーン、「レディパンジャン」。

 テントウムシを模した防御型の機体で、展開式の前翅を展開する事で脆弱な車輪を保護しつつ、破片や紐を跳ね返すギミックを仕込んだ、芸術性も高いパンジャンです。

 予選Bブロックでは、その圧倒的防御力で全ての攻撃を弾き返し、何とノーリスポーンでゴールしました。Bブロック最大の害悪兵器、桃色ホウパンジャンの空爆を幾度となく耐え、逃げ切ったその硬さは、この決勝ブロックでも遺憾なく発揮される事でしょう》


 うるせぇよ。こちとら死にたくねぇんだよ。さっさと次行け。


《第三レーン、「ジャーパン・ドラムmk-3」。別名「テトランジャン」

 Bブロック、Eブロックにいた朧車型の同系機で、ドリルみたいなツインテールが特徴の重ねて歌える可愛らしい顔立ちに、牛車と言う名の悪意満載な棺桶がジョイントした、ダークアクセルシンクロモンスターです。

 走行性はmk-1やmk-2に劣るがそれでも速く、何より「追い越されるのはムカつくので攻撃力に極振りしました」と言わんばかりの攻撃力を持つ過激派テロリストであり、轅と顔面サイドのダブルドリルでドリドリしてくる上に、軽金装甲の車体は自爆時に貫通性の高い鉄片を巻き散らす、走るパイナップル爆弾と言える、超危険な攻撃型のパンジャンです。

 予選Cブロックではそのえげつない攻撃で、道を譲ろうが立ち塞がろうが逃げ出そうが関係なく、少しでも自分に近付く機体を容赦なく爆殺してきました。

 次の犠牲者は……乞うご期待!》


 乞うご期待じゃねぇ。

 まさか、決勝に来てUT○Uの代表格と戦う破目になるとは。しかも、またしても朧車型。

 つーか、機体コンセプトが危険過ぎんだろ。こいつもレースする気ないな。確実に泥沼化する。近付かないように気を付けよう。


《第四レーン、「ジャンバラードX(クロス)」。

 予選Dブロックを震撼させた、我らがリュシルさんの駆る強力パンジャン。

 凶悪凶暴で有名なコーカサスオオカブトをモチーフにした防御型かつ攻撃的な機体で、ギミックや形状はレディパンジャンに近い物がありますが、逆三角形に配置された三連ドリルと頑丈なボディに物を言わせたごり押しは、まさに「防御は最大の攻撃」を体現した、漆黒のダークパンジャンです。

 自爆時の威力が低い、スピードがそこまでないという弱点はあるものの、レディパンジャンに輪を掛けた防御力とドリルによる突撃は誰に止められず、同じくほぼ無傷で決勝入りを果たしました。同じ甲虫同士のお相撲対決が楽しみです。

 ムシキ○グの称号を手にするのは、果たしてどちらなのでしょうか?》


 ほほう、これがリュシルの機体か。悔しいけどカッコいい。

 確かに僕のレディパンジャンと似ているが、こっちは戦車って感じがするな。体当たりされたらレディパンジャンでもひっくり返されるだろう。解説はお相撲対決とか言っているが、正面衝突は是非とも避けたい。

 油断せずに行こう!


《第五レーン、「パンドラモン」。

 デ○モンみたいな名前ながら、その見た目は未来からやって来た青ダヌキの生首に車輪が二つ付いた、際物系パンジャン。

 しかし、決勝ブロックに勝ち進んできただけあって実力は高く、その単純な見た目故に安定性があり、車輪を上向きにスライドさせる事で飛行する事も出来る、汎用性の高い機体です。

 さらに、内蔵された爆弾は威力が高い上に、破片の塊りを四方に散らすので、妨害性能もかなりあります。それを空中から散布してくるという鬼畜な戦法も可能です。

 朽ち果てた彼が生まれ変わって何をしでかすのか、それはぐーたら小学生にもわかりません》


 僕にも分かんねぇよ。

 しかし、この機体もまた要警戒だ。何せドラ○もんだからな。ほんの些細な事で、どこぞの元コマンドーが如く、ヤロウぶっ殺しに来るかもしれない。誰か助けて。


《第六レーン、「ギガントマキュラ」。

 名は体を表す今大会最大の機体で、分厚い装甲と頑丈過ぎる車輪で全てを轢き潰すラフファイターパンジャン。

 見た目は迷宮のハゲが駆る魔戦車に似ていますが、色合いはむせるグリーン&レッド。

 パイロットは合体能力を持つマンティコアであり、予選Fブロックでは「俺たちが魔戦車だ」と言わんばかりに他の機体を圧倒、次々と轢殺していきましたが、決勝ブロックでは誰がイワークするのでしょうか。

 決め台詞は「これ母さんです」》


 おい、マンティコア姉妹、そんな所で何やってんだよ。カードゲームしてたんじゃなかったのか。母さんですじゃねぇよ。戦車を二台も持ち出すな。

 というか、カインもそうだけど、また身内に襲われるのか僕は……。


《最後は第七レーン、「ジャンガードF(フェニックス)」。

 トリコロールの戦闘機を思わせる速度特化型の機体で、カーブは少し苦手ですが、初速から最大速度に達するまでの時間が異様に短く、常時トップスピードで走る完成度の高いパンジャンです。

 また、Fの名に恥じず飛行能力があり、おまけに機体各所から常に火を吹いているので、妨害も空爆も行える厄介な機体でもあります。予選Gブロックでは流星の如く駆け抜け、コース全体を火の海にしていました。

 第四レーンのジャンバラード共々優勝候補の機体で、その活躍に期待が掛かります。

 行け、ジャン・ファイト!》


 ラフファイトの間違いでは?

 機体コンセプトはどことなくユダのホウパンジャンを彷彿とさせるが、こいつも立ち上がり、蘇って襲ってくるのだろうか。フェニックスなだけに。……ゴリラ語で奪えないかなぁ?


 さて、ともかくこれで全機体の解説が終わった。マジで色々と終わってるし、狂ってる。まともなレースなどハナから期待してないが、これは荒れるどころか地獄絵図と化すだろう。

 だが、負けない。だって女の子だもん!


 さぁ、PDレース決勝戦、行ってみよう。

◆メグ・ミルキー(イメージCV:軍曹さ~ん♪)


 リュシルと共にPDレースを盛り上げる魔女。召喚系の魔術に秀でており、戦場では主にゴーレムを駆り暴れまわる。……召喚されるゴーレムがどいつもこいつもパンジャン・ドラムなので、別の意味で戦場をかき乱す存在なのだが。

 ちなみにリュシルとはプライベートでも交流があり、休みの日によく一緒に出掛けるのを目撃されている。好きな物はスィーツと女の子。

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