表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
14/52

ユダトラマンパワード

 ラース地区。


「わぁ……イラとグラだぁ!」

『イラァッ!』『グラ~♪』


 水と霧の楽園でマスコットキャラたちと戯れるカインを見て、リュシルはほっこりしていた。


「あんなにはしゃいじゃって。可愛いですねぇ。いくら辺獄の神童とは言え、まだまだ子供。職場が滅茶苦茶になったのは残念ですが、クビになった訳でもないですし、これはこれで良かったのかもしれません」

「そうですね。サイカお嬢様にも見習ってほしい物です」


 同伴したメイド長も同意しつつ、ちゃっかりとサイカをディスる。それでいいのか。


「……彼女の方が彼よりも年下では?」

「お嬢様がお嬢様でなければ“やんちゃ坊主”とお呼びしているところですよ」

「ははは……」


 メイド長の物言いに、リュシルは苦笑いした。それ殆ど女の子として見てないって事じゃん。


「それにしても、ここは奇麗ですね」


 と、周囲を見渡しながら、リュシルが呟く。

 現世のロンドンを参考にした、今や失われて等しい英国調の建造物の数々。清らかな水の流れる水路からは常に霧が立ち込め、やんわりと古き街並みを包んでいる。夕暮れ時である事も相俟って、ついつい黄昏たくなってしまう。


 ――――――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!


 しかし、そんな幻の古都に似付かわしくない、近代的な警報が鳴り響く。


『フゥゥゥ……』


 さらに、茜色に染まった霧越しに見え隠れする、巨大な影。あれは一体……?

 だが、リュシルたちの困惑を余所に、事態は混迷を極めていく。別方向――――――グラトニーとスロウズの方でも異変が起きているようで、巨大な爆音と震動の後に、やはり大きな影が蠢く。

 一体何が起こっているのか。それは分からないが、こう霧が濃くては何も出来ないし、分からない。


「行きましょう」「そうですね」「ああ」


 そして、リュシルたちは行動を開始した。


 ◆◆◆◆◆◆


「『うごごごごごっ!』」


 揺れる揺れる、視界が、意識が。

 というか、実際に揺れているし、揺らされている。この駄女神様の、偽物にな!


《イdなoレo知lもfカるeキr生iにf久永gベn食iてrッb取もoラtか木tノn命aベw伸ヲd手nはa彼!》

「……クリフ○ートかな?」


 ……あれから五分。ベルフェゴールそっくりの巨神像は相変わらず暴走し、僕たちを振り回している。バーテンダーのように振り振りシェイクされないだけマシだが、やはり辛いものがある。

 とにかく、このままでは埒が明かない。さっさと脱出させてもらうとしよう。安全対策の無いスリルなんぞ御免だ。


「【混沌の覇者(カオス・グリード)】!」『【火炎放射プロミネンス・ナパーム】!』


 ユダと同時に発動した魔法は窓を破り、巨神像の指を直撃、人差し指と親指を粉砕した。


《くぁwせdrftgyふじこlp!》

「『にょわああああああ!』」


 そういう仕草がプログラムされているのか、巨神像は僕らを乗せた超時空戦闘機モドキを放り投げると、痛がるように悶えた。まるで本当に生きているかのような動きだが、今は感心している場合ではない。


「よいしょっと」


 しかし、遅れて脱出した母上様が何事もなかったかのように先行して着地し、そのまま超時空戦闘機モドキを受け止めた。魔力の障壁で慣性力を失わせたのか、不思議と何の衝撃もなかった。安堵したからか、皆がみんなリバースしていて、コクピットの中が大変に素敵な事になっているが、ひとまずは問題ないだろう。


「さてと……」


 乗客たちの無事も確認したし、反撃開始と行きますか。


「……とは言うものの、こんなクソデカい奴相手に、どう戦ったもんか」

『お姉ちゃん、あれ!』


 すると、突如として森の一部をひっくり返して、ビカビカと光る円盤が現れ、暮れなずむ夕日へ向かって飛び去って行く。


◆『分類及び種族名称:円盤生物=クリッター』

◆『弱点:中央の口』


「クリッターか!」


 クリッター。電離層に棲む、電子生命体。電気を吸収し、逆に操る事も可能と言われている、電子戦のプロフェッショナル。

 その正体は諸説あるが、実際は陸生をすっ飛ばして空に暮らし始めた、飛行するクラゲである。円盤生物と言ってもいい。

 成長過程こそ一般的な海月と同じだが、ポリプ(海月が咲く根っこみたいなもの)は完全陸生な上、エフィラ(成長途中の海月)以降は空に生活圏を移す。

 さらに、獲物となる生物をキャトルミューティレーションした挙句、消化時に発生した腐敗ガスと電磁力を合わせて空を自由自在に飛び回り、周囲の電子機器まで狂わせてしまう、割と恐ろしい魔物だったりする。

 あの個体は目測で二十メートル。かなり成長している。あの大きさなら、単純でパターン的な行動プログラムしかされていない巨神像を遠隔操作するなど、造作もない事だろう。

 問題は、奴が何時からスロウズに潜み、何故今になって行動に移ったかだが、考えている暇はない。今取り逃がして、それこそディーテシティに潜り込まれでもしたら、大惨事になってしまう。もしくはそれが狙いで、障害となる僕たちの来訪で行動を早めたのか……。

 とにかく、これ以上カインの職場がある街を荒らすのは偲びない。

 今こそ、狙われた街を守るのだ。カインのご機嫌取りの為に!


「逃がすか! 【合成魔術(シンセンス・スペル)】!」

『えっ、お姉ちゃん【合成魔術】使えたの!?』

「ハハハハハッ、妹より劣る姉がいると思っていたのかぁ!」

『さすがお姉ちゃん!』


 ……ごめんなさい、嘘です。卒なく何でもこなしちゃう義妹に焦りを感じて、必死に練習しただけなんです。

 と、ともかく、僕は【合成魔術】で手持ちの折り畳み箒と超時空戦闘機モドキを合成、中の乗客とゲロを排出しつつ、全く別の戦闘機へと作り変えていく。

 見よ、これぞ我が自家用機「ラスターマシン」だっ!

 昔馴染みの科学者が作っていた戦闘マシンを参考にしました。ちょっとアレンジを加えているので、「新ラスター」とでも呼ぶかな。

 さぁ、こいつに乗って、あの円盤生物(クリッター)を追跡だぁ!


『………………!』


 と思ったが、クリッターは偽ベルをこちらに向かわせてきた上に、自分が飛び立った場所に謎の怪光線を発射。その瞬間、森からエイ○アンの親玉みたいなモンスターがわざわらと現れたではないか。

 クソッたれ、産み付けておいたポリプを無理やり戦闘形態に変化させやがったな!?


「母さん、奴らの殲滅を頼む!」


 僕は母上様に奴らの殲滅と乗客の保護をお願いした。あの怪物共、蟻みたいにいっぱいいる癖に中級魔獣並みに強い。ユダは多対戦向きの能力だけど、火力的に乗客まで焼き払ってしまう。ここは肉弾戦でも無敵な母上様に頼る他ない。


「……あの偽物はどうするのかしら?」


 殲滅自体はノープログレムという感じで、母上様が聞き返してくる。


『それはワタシたちに任せて!』『きゅるるん!』


 すると、自信あり気にユダとドラコが挙手した。その根拠はどこから来るんだと言いたいところだが、生憎時間がない。任せるしかないだろう。ユダじゃ飛んでも追いつくのは無理だろうしな。


「分かった! サイカ・エウリノーム、出るっ!」


 僕は可愛い義妹とそのペット、心強い母上様に木偶(マリオネット)たちを任せ、直接繰り手(マリオネッター)を叩くべく、新ラスターマシンを発進させた。マッハ3のスピードで飛び立ち、アッという間にクリッターの後ろを取る。


『………………!』


 焦ったクリッターは更に速度を上げ、複雑怪奇な軌道を描きながら、牽制にプラズマ光弾を発射してくる。さすがは電離層の住人、プラズマを操るのはお手の物って訳か。

 だが、こっちも負けてはいない。即席とは言え、魔術と科学が超融合したモンスターマシンなのだ。その速度は音速どころか、亜光速すら達する事が出来る。

 そもそも、僕と皆の楽しい休日を滅茶苦茶にしたテメェを生かして帰す理由なんざねぇんだよぉっ!


『死ねぇえええええっ!』


 僕の新ラスターマシンの兵器群が火を吹いた。


 ◆◆◆◆◆◆


『お姉ちゃん……!』


 ワタシの――――――ユダのお姉ちゃんが、戦っている。

 あんな意味不明な戦闘兵器を一瞬で合成してしまうあたり、お姉ちゃんは魔法使いとしても凄いが、科学者としても一級品であるらしい。

 事実、あの巨大だが音より速い円盤生物を翻弄しつつ、今にも撃ち落とそうとしている。テコナ義母さんも恙なく怪物たちを虐殺してるし、心配する必要はないだろう。

 ならば、ワタシの……否、ワタシたちのやる事は一つだけ。敵の撃滅である。


『行くよ、ドラコ!』『きゃるるーん!』


 ワタシの合図で、ドラコが待ってましたとばかりに光り輝く。


『【超融合ウルトラ・ポリマライゼーション】!』


 さらに、右手で頭上に掲げると、その光はより一層強くなり、ワタシの身体を丸ごと包み込む。

 しかし、ドラコはそれで留まる事なくもっとずっと輝きを増していき、ついには巨神像とほぼ同じ大きさにまで達した。


『デュワッ!』


 そして、光が晴れると、ワタシは巨大な白銀騎士の姿になっていた。

 これぞ、WODのアバターを参考にして組み上げた、ドラコとの合体技。彼女の持つ【巨大化(マクロ)】のスキルと【融合(フュージョン)】の魔法(マンティコアたちの【奇跡融合ミラクル・フュージョン】も参考にした)を複合させ、一体かと同時に巨大化も可能とした、対巨大不明生物用の切り札。それが【超融合ウルトラ・ポリマライゼーション】である。

 持続時間がスップリンのプリン・ア・ラ・モードと同じく約三分間しかないのが欠点だが、それでも破格の性能と言えるだろう。思わず自画自賛しちゃうくらいには。


 ……お姉ちゃんにあれだけ大見得を切ったんだ。負ける訳にはいかないよ!


『デュァアッ!』

『いおあsfっはsckzmしsdvんsl;しあjcn!』


 もはや回文でも逆読みですらもない、完全にバグってしまった巨神像と同じ目線、同じ土俵で対峙する。遠目には、夕日をバックにラースの街並みとスロウズの山並みが茜色に燃えている、幻想的かつ哀愁漂う舞台で向かい合う、魔王と暗黒騎士が向かい合っているように見えるだろう。

 反逆、裏切り、謀反。何も語らずとも、様々な言葉が目に見えない音になって伝わってくるに違いない。


 行くぞ、偽物! カードは切り札、ジョーカーだ!


『ダァアッ!』

『::亜d・」亜ss¥:dzc;xccヴぉss!』


 ワタシと巨神像が同時に駆け出す。この美しいアトラクションを壊すのは偲びないが、仕方ない。


『デュワッ!』『5641086!』


 跳躍、激突。ワタシたちは真っ赤な夕日の中でぶつかり合う。得物はワタシと槍(巨神像)。巨神像のは翅の下に生えている一対の棍棒のような器官(平均棍というらしい)を変質させた物で、腐っても魔王のコピーなのか、ワタシの剣と相打ちとなる形で砕け散った。

 すぐ近くではお姉ちゃんとクリッターが壮絶な空中戦を繰り広げており、やがて逃げるのは不可能と断じたのか、クリッターが一転して攻勢に回り、一騎打ちのようにお姉ちゃんの戦闘機とビームの撃ち合いをしている。


 ――――――ドギャアアアアン!


 撃ち合いを制したのは、お姉ちゃんの方だった。クリッターが爆発し、空中で四散する。その際、内臓と思しき物が見えたので、アレが嫌でも生物なのだと再確認させられる。気持ち悪い。


 ……負けていられない!


『ハァッ!』『5656565464654545114151!』


 武器を失い、着地したワタシたちは反転、再び向かい合い、距離を縮める。こんな奴、拳一つで充分だ。向こうもそう思っているのか、太陽に吠えるように華奢な剛腕を振るってくる。


 ――――――掛ったな、阿保が!


 ワタシは拳が交差する直前に身体を分離、瞬時に再構成する事で、巨神像の後ろを取った。


『………………!』


 これはまずいと巨神像は空中へ退避しようとしたが……逃がす訳ないだろっ!


『デュオッ!』


 ワタシはアバターの【火炎刃(ヴォルフレイム)】を参考に、炎のブーメランを作り上げ、投擲。巨神像を真っ二つにして戻ってきたそれをキャッチ&リユース。エネルギーを無駄なく再吸収する。


『ダァッ!』


 さらに、お姉ちゃんの【混沌の覇者(カオス・グリード)】を参考にして編み出した、光熱魔法【破滅の光ライト・オブ・デストラクション】を発動。

 【破滅の光】は、ワタシが生み出す地獄の炎とドラコの精霊魔法を融合させ、混沌魔法に類似するに至った、【超融合】中限定の必殺技。L字に組んだ腕から、破壊しか齎さない光がぶっ放される。


『@:あskf。;mdfsbmdf;おmvdsいmv;s!』


 その威力は絶大で、身体を一刀両断されながらも機能停止までは至らなかった巨神像を跡形もなく粉砕・玉砕・大爆砕した。


『ふぅ……』


 ワタシは夕暮れの山間に立ちながら、一息吐く。クリッターは撃墜されたし、怪物たちも一掃された。

 しかし、これで終わりという訳ではない。この異常事態を巻き起こした奴らが、まだ二体残っているのだから……。

◆クリッター(飛行音:宇宙人とは思えないくらいに武断派な、宇宙から来た鳥人の乗る円盤)


 電離層に住むと言われる不定形のプラズマ生命体。電気を吸収し操る力があり、周囲の電子機器を狂わせてしまうと言われている。

 正体は淡水海月の一種が突然変異の末に種として確立した生物。ポリプが陸に根付く上に、成体は空を複雑怪奇に飛び回る。

 また、コロニーを形成する習性があり、雌雄同体で単為生殖が可能な上に、成長の著しい個体は女王化して一気に増殖する性質を持つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ