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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
13/52

煉獄の風景

 それからそれから。


「………………」

「なー、機嫌直せよ。これっぽっちも悪いとは思ってないけど、一応は謝るからさー」

「お前……いや、いい。確かにお前が原因って訳じゃないからな。はぁ……」


 僕の誠意のこもった謝罪を、カインが溜息交じりに受け入れた。

 あの後、母上様とアンタレスさんに物凄い勢いで心配され、とりあえずはお咎めなしで許してもらえた。

 まぁ、よく考えれば当然だよね。別に僕、何もしてないし。施設側が勝手にやった事だし。というか、逆にこっちがされた方、被害者である。

 だので、賠償金は請求されず、カインがクビになる事もなかったが、エウリノーム家は仮にも貴族かつ地方領主なので、施設とは資金援助という形で合意する事となった。悪いのは向こうなのに。

 ま、別にいいさ。大天使に降臨されたり、獣たちに逃げられたりした訳じゃないからな。そうなったら弁償とか援助とか、そんなレベルじゃ済まないし。

 それよりもこれからだ。幻魔獣エデンはしばらく営業出来ないだろう。となると、カインは暇を持て余す事になる。

 ならば、お誘いしても問題あるまい。


「じゃあ、罪滅ぼしって訳じゃないけど、一緒に遊ばない? ちょうど予定も開いた事だし」

「完全に予定外だけどな!」

「ほらほら、代わりにウチのマンティコアたちで存分にモフモフして」

「……し、仕方ねぇなぁ!」『みゃー』『みー』


 とてもチョロい男がそこにいた。

 そんなこんなで、カインも今回の旅路に加わる事と相成った。


『シェオル大迷宮の事思い出すねー』

「あの時は散々な目に遭ったけどね」

『今回も、の間違いじゃない?』

「それを言っちゃあ、おしめぇよ~」


 本当にね。


 ◆◆◆◆◆◆


「――――――という事で、やって来ました、「煉獄ハイランド」!」


 その後、僕たちは予定を繰り上げて、ディーテシティ最大のテーマパーク「煉獄ハイランド」にやって来た。


 今回のテーマは、煉獄だ!


 ……ようするに「神曲」を題目としたテーマパークで、過ぎ去りし時を求めた七大魔王が建造した、言わば国営施設である。

 特に「煉獄篇」を模した様々なアトラクションで溢れ返っており、「ラース」「プライド」「グラトニー」「グリード」「エンヴィー」「スロウズ」「ラスト」の七地区に大別される。マスコットキャラは、怒り顔の鼬といかにも欲しがりそうな栗鼠のコンビ、「イラとグラ」。色々と危険な香りがするが、気にしたら負けだろう。

 余談だが、国際上の問題で地獄篇や天国篇のテーマパークはない。地獄はここで、天国は敵地だから仕方ないね。

 そんな大人の事情はさておき、


「遊ぶぞー!」

『『『おーっ!』』』『バフ~ン♪』『きゃる~ん♪』「……おー」


 僕たちは駆け出した。

 さすがにこの大所帯で動くのは迷惑だし非効率的なので、三つにグループ分けしている。僕とユダ(とドラコ)に母上様、カルマ&アルマ+スップリンにアンタレスさん、カインにメイド長と監査役のリュシルさんの三班だ。

 子供に保護者が同伴する形なので年齢制限や身長制限もある程度はクリア出来るし、当然フリーパスもあるので乗り放題かつ順番待ちに煩わされる事がないという、隙の無い布陣である。

 さぁ、あっそぶぞ~♪


『お姉ちゃんはどこ行きたい?』

「そりゃもちろん、絶叫マシーンでしょ!」

「なら、スロウズ地区かしらねー」


 僕自身の提案で、僕らはスロウズ地区に行く事になった。

 ちなみに、マンティコア兄妹たちはグラトニー地区、カインたちはラース地区に行くらしい。前者は食道楽で、後者はイラとグラと遊びたいだけだろう。可愛いなお前ら。

 という事で、僕たちは適度な恐怖を求めて、スロウズ区へ向かった。


「スッゲェ!」『これ、全部絶叫マシンなの!?』


 到着した僕とユダは、さっそくその威容に圧倒される。何せ目に付く全てが絶叫マシーンなのだ。

 スロウズ地区はとある山脈を丸ごと魔改造したアトラクションで、休憩所や食事処以外は全部が絶叫系という突き抜けたテーマが特徴である。ジェットコースター、フリーフォール、ウォータースライダー、ウェーブスインガー、バイキングなどの目ぼしい物から、スペースジョッキーにノストローモと言った「なぁにそれぇ?」な物まで、多種多様なマシンが揃っている。怠惰(スロウズ)なのにスローテンポの物が何一つないとは、これ如何に。テーマが煉獄なので、そこまで違和感はないが(怠惰の煉獄は怠け者が山々を延々と周回する罰が待っている)。


『何から乗る?』「まずは「キメルスピナー」かな!」


 まず向かったのは、ジャンルで言えばウェーブスインガーに属するマシン「キメルスピナー」。

 しかし、ここはあの世で地獄で、煉獄のテーマパーク。単なる回転ブランコな訳がない。

 キメルスピナーは七大魔王が一人、怠惰のベルフェゴールを模した人型の巨大ロボットが、面倒臭そうな態度とは裏腹に、超絶的なテクでヨーヨー型の乗り物をシェイクしてくれるという、素敵なアトラクションだ。他のマシンも、概ね「ベルフェゴールが何かをしている」という形状の物が多い。

 エルフとドライアドを足して二で割り翅を生やした、金髪碧眼の巨乳美女に遊んでもらえると思うと色々と邪推してしまいがちだが、マシンの威力は本物なので安心して恐れ戦こう。


「……どこがまずはなの?」


 母上様がポツリと呟いたが、そんなの知らんなぁ。


「『「キャーッ!」』」


 という事で、シェイク★シェイク☆シェイクだぁ!

 ソニック・ホール、スパイダー・ベイビー、ジャイロ、スピア・ループ、ダブル・アラウンド・ザ・ワールドなど、マスター級の妙技により僕たちの三半規管は狂わされ、精神と肉体は分離する!

 催せ、オロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!


「た、楽しかったね……」『そうだオェ……』


 魂まで振り回された僕たちは、半笑いで、それでも本当に楽しかった。


「うん、まぁまぁね」


 母上様は相変わらず無敵だった。どういう身体構造してんだアンタは。

 お次はベルフェゴール様の暇を持て余した、ミニマムなレーシングカーのおもちゃ遊び、「レッツでゴー」だ!


『「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」』

「風になる~♪」


 現世でやったら確実に死人が出るようなスピードと地獄まっしぐらなコースをフォーミュラして、僕たちはサイバース族になった。まさに新世紀っ!

 その次は、ベル様のやるせない駒遊び、「BBB」だよ!


「『みょわああああああああああああああああああああ!』」

「回る回る、ピ○クドラム♪」


 ベイゴマがブレードでバーストしましたよ!

 さらにさらに、ベルっちの楽しい横スクロール、「超☆配管工だ!」。


「『マホトラァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』」

「ホップ・ステップ、ワン○ップ♪」


 バイキング同士が連携して搭乗者を次々とプワァンしてくれる、死亡事故待ったなしの絶叫アトラクションに、僕たちの脳味噌はピチューンした。これで君も幻想入りだよ、やったねユダちゃん!

 全く、どれもこれも、楽しませてくれるぜ!

 途中、何度もユダの頭がもげて吹っ飛ぶ事故が発生したが、それを差し引いても素晴らしい一時だったと言えるだろう。母上様が文字通りどこ吹く風だったのが悔しいが、母上様だから仕方ない。

 さて、そんな楽しい時間も、次の「ムゲンダイサーガ」で最後。いい加減日が沈み掛けているし、今日はここまでだろう。なぁに、明日があるさ。

 蛇足だが、ドラコは最初の時点で気絶したままだったりする。そうか、絶叫系は苦手か。


「ウボァ!」『ヴァー!』

「もはや人語を介してないわね」


 現実と幻想の区別も付かないくらいに楽しんだ僕たちは、ウキウキゲロゲロしながら、ムゲンダイサーガに乗った。

 ムゲンダイサーガは、駄女神ベルちゃんがコースターを持ってジェットの限りタイダルしてくれるという、ジェットコースターとウォータースライダーの要素にマジもんのスカイアクションを加えた、スロウズ地区最大にして最恐の絶叫マシンである。

 ただでさえ適当なベルフェゴールが野放図にマシンをブンブンするのだから、怖くない訳がない。その上、モーションが何パターンもあり、それらをランダムで使用してくる鬼畜使用。

 これぞまさしく、いよいよ以て死ぬがよい、そしてサヨウナラだ。誰か助けて。


《え~い♪》

「『……んんんっ!』」「テイク・ミー・ハイヤー♪」


 三世界を制覇した超戦闘機を模した乗り物を、マシンで魔神なベルちゃんが、間の抜けた声で上に持っていく。そのぽやんとした声色とノリとは裏腹に、乗せられている方は強烈なGと超音速の景色を見せられた後、特大の浮遊感が襲ってくるという、大変心臓に悪いコンボを食らう破目になる。

 その後は好き勝手に色んな所を“ごっこ遊び”させられる訳だが、


《え~い、え……エ……E……Eliminate!! Eradicate!! Exterminate!!》

「『「ゑ?」』」


 何だろう、様子がおかしい。というか、明らかにバグを起こしている。


《ルメトモ ヲンエウユシ ツメハ イカハ!》

「『何か言い始めたぁ!』」「ヴ○ルズかな?」


 そして、怠惰の悪魔をコピーした筈の巨神像は、僕たちの乗ったマシンを持ったまま、暴走を始めるのだった。


 ◆◆◆◆◆◆


 一方その頃、マンティコアたちはと言うと、


『おいし~♪』『うんみゃ~い♪』『バフバフ~♪』


 暴食の限りを尽くしていた。

 グラトニー地区は食い倒れの街。施設の全てが飲食店と言うグルメなタウンで、文字通り腹がはち切れるまで暴飲暴食をする事が出来る。入店の合言葉は「食べていい?」。

 シェオル大迷宮のオアシスにして魔境インガの森で暮らしていただけあって、カルマもアルマもスップリンも例外なく食いしん坊で、既に何軒も店を梯子している。それでも止まる様子がないのだから、もう驚きである。子猫やプリンのような身体の一体どこに収まっているのだろう。

 これには同伴したアンタレスも、顔を青くした。食べ過ぎて気持ち悪い、という意味で。


「うっぷ、吐きそうです。……貴方たち、よく平気ですね」

『きょうかまほうをかけてるからね~』『まだまだいけるよ~』『バフゥ~♪』


 聞いた自分が馬鹿だったと、アンタレスは思った。身体強化魔法使ってまで食うな。


「で、まだ食べるんですよね?」

『そうだねぇ。つぎはてんてんどんどん、てんどんにま~す』『かつどんもいけるよ~』『スップリン!』

「おぇ……」


 強化してるとは言え、よくもまぁ、そんな重たい物がいけるものだ。

 という事で、一行はオススメ度五つ星の丼物屋「大柳」に来ていた。

 ちなみに、ここの従業員はベルゼブブ配下の悪魔や出稼ぎの魔物が勤めており、どいつもこいつも「店で扱われる食材の動物」の姿をしている。「大柳」ならオークや牛鬼、クトゥルフ神話の皆さんが勤務している。組み合わせに悪意があるのは気のせいだろうか。


『すいませ~ん、かいせんてんどんくださ~い』『わたしはおーくどんで』『スプリクト!』「……「牛かつセット一つ」と言っています」


 よく出来た座敷席に着いたマンティコア兄妹とスップリンがオーダーを取る。アンタレスは吐きそうなので何も頼んでいない。

 しばらくすると、香ばしい匂いを漂わせながら、海鮮天丼とオーク丼、牛かつセットが運ばれてきた。どれもこれも衣がサクサクの揚げたてで、一部が透けて見える程に豪快な大きさの中身が詰まっている。ご飯も炊きたて、汁も煮立て、漬物も出してきたばかり。タレモついさっき掛けたものだろう。


 嗚呼、何て美味しそうなんだ……。


 皆、目をキラキラと輝かせ、だらしなく涎を垂らしている。


(ウボァー)


 アンタレスは吐き気を催す邪悪な顔になっている。つーか、マジで今にもゼロ・リバースしそう。


『『いっただきま~す♪』』『スプリガ~ン♪』


 そんな貧弱ぅな彼を余所に、三匹は仲良く手を合わせ、頂きますの体勢に入った。


『……って、おわぁああああっ!?』『にゃんだぁあああ!?』『プリンプリーン!』「オェロッ!」


 だが、いよいよ一口目という所で、特大の揺れが一行を襲った。

 しかも、治まるどころか、何度も何度も断続的に引き起こされている。まるで何かが練り歩いているかのように。


『な、なにが……』


 何だなんだと店外に飛び出した三人と一匹が見たものは、


 ――――――スロウズ、ラース、そしてここグラトニーで暴れ回る、巨大な三つの魔神(マシン)たちであった。

◆煉獄ハイランド


 ダンテの「神曲」にける「煉獄篇」をモチーフにしたテーマパーク。七つの大罪の名を関する七地区に大別され、それぞれが持つ特色を活かしたアトラクションを楽しむ事が出来る。

 ちなみに、従業員は殆どが悪魔か魔物で、取締役はマレブレンケの皆様である。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石に直接ミ○四駆と書くのは不味いかと。(レッツゴーがわかる世代(ギリギリ5人目が敵でセイバー時代から見ていた。)) [一言] アンタレスさんドンマイ(笑)
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