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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
11/52

けだものフレンズ

 べつのひっ!


「サイカちゃん、動物園に行きましょう♪」


 朝食の席で、母上様がそんな事を言い出した。


「……えっ、いや、何で?」


 こう見えて動物園とか水族館は好きだけど、どうして急にそうなるのか。

 その疑問に、母上様がビシッとサムズアップして答える。


「だって、今日はサイカちゃんの誕生日じゃない♪」

「あー」


 そう言えば、僕は本日吉日今日この日、四歳の誕生日を迎えるのだった。


 ◆◆◆◆◆◆


 さて、正直な考えを聞きたいと思います。

 皆さん、誕生日を迎えて嬉しいですか?

 僕は別に嬉しくありません。少なくとも、自分で自分をハッピーバースデイするのは虚しいと思うのですが、どうでしょう?


 ……真面目な話、前世の僕は立場上、誰かに祝ってもらう機会が無かった。部下は所詮部下だし、そもそも僕は他人との交流が殆ど皆無に等しかったし。

 大体、自分が死に向かっている事を再確認して何が嬉しいの? Mなの?


 しかし、それも前世までのお話。


『お姉ちゃん、誕生日おめでと~♪』『きゃるーん♪』

『『いぇ~い♪』』『バッファロ~ン♪』


 今世の僕には、心の底から祝ってくれる、対等な仲間が、家族がいる。誰も腫れ物のように扱ったり、神だ魔王だとおべっかをしたりしない。全くの対等、平等な世界である。それが堪らなく嬉しい。

 僕も、誕生日をこんな風に思える日が来たんだなぁ。ハッピーバースデイ、僕。


「……で、ここが経済都市ディーテか」

『おっきいねー』


 という訳(?)で、僕たちは魔女界(ハデス)最大の経済都市ディーテシティに来ていた。

 咎人と亜人、一部の魔獣や精霊が共存する共栄都市であり、それぞれの特技を活かした産業をメインに、観光や開発事業にも力を注いでいる。景観維持も兼ねて自然保護にも余念がない。

 そんな内情だからか、経済都市の割りには非常に緑が溢れている。各々の種族に住みやすい場所を確保しているのだろう。エルフなら森の中、ドワーフなら坑道の中、人間なら町の中、みたいな感じに。魔獣に関しては結構好き勝手に暮らしているようだ。

 とは言え、異種族がそう簡単に共存出来る筈も無く、様々な問題も抱えている。生息環境や生活様式、根本的なロジックの違いとか。それでもこうして繁栄を極めているのは、統治者が優れているからだろう。

 まぁ、それに関してはどうでもよろしい。目下の話題と目的は、この一大観光都市を遊び尽くす事だ。

 予定としては三泊四日。何の因果か、僕に続いてユダとマンティコア姉妹の誕生日が順次やって来る為、それならいっそ家族旅行にしたらどうだ、という事になったのである。

 というか、こんな馬鹿デカい観光地を一日そこらで回れる訳がないし、何なら三泊四日でも足りないくらいだ。今回も「幻魔獣エデン」「煉獄ハイランド」「豪華客船テセウス」の三つを一日一つすつ観るだけなので、これでも大分厳選したと言える。

 ちなみに、字面から想像出来るとは思うが、幻魔獣エデンは世界各国の幻獣・魔獣・神獣の園で、煉獄ハイランドはディーテシティ最大の遊園地、豪華客船テセウスはそのまんまである。初日は落ち着いた感じに、真ん中ははっちゃけて、最終日は飲んで食って最高にハイって奴だ。素晴らしい。

 そして、僕たちは今、初日の目玉・幻魔獣エデンに来ている。

 共通の入り口こそ何処にでもある動物園って感じだったが、奥に進むと三つの分岐路が設けられており、それぞれ「幻獣」「魔獣」「神獣」の三コーナーに続いている。「幻獣」「魔獣」は西洋寄り、「神獣」は東洋寄りのアーチが印象的である。


「さて、どこから回りましょうか?」

「そうだなー……まずは魔獣コーナーからにしようかな!」


 母上様の質問に、僕は溌溂と答える。何だかんだ言って、英国じゃ魔獣が一番オーソドックスだからな。幻獣や神獣は後のお楽しみにしておこう。

 そんな感じで、僕たちは物凄く地獄の門な魔獣コーナーのアーチを潜った。考える人はこっちを見んな。


「あ、オルトロスだ」

『ケルベロスもいるよー』


 まず手始めは双頭の魔獣オルトロスと地獄の番犬ケルベロス。

 オルトロスとは頭が二つある巨大な狼で、邪神テュポーンと女神エキドナの間に生まれた怪物だ。冥界でハーデスの警護をしているケルベロスも兄弟の一体で、こちらは三つ首。どちらも「頭部が複数ある狼」の姿をしているの特徴と言える。テュポーンがドラゴンでエキドナは半蛇神なのに何で狼が生まれるんだと言いたくなるが、暇を持て余した神々の火遊びの結果なので気にしてはいけない。一応、蛇の兄弟はいる。

 それにしても、やっぱり迫力があるな。魔法の掛かった強化ガラス越しでも食われそうな威圧感がある。その癖、時折見せるイヌ科の仕草がギャップも相俟ってかなり可愛い。もふもふしたい。


『つぎはキマイラだ』『おなかまもいるねー』『バフッリ~ン』


 次に見えてきたのは、地域を越えた似た者同士であるキマイラとマンティコアだ。ペルシャとギリシャという違いはあるが、双方共にライオンをベースにした魔獣である。「ぼくのかんがえたさいきょうもんすたー」を体現した存在であるが、こうして見ると、ただの馬鹿デカい猫だ。可愛いからいいけど。

 ちなみに、キマイラはオルトロスやケルベロスと親を同じくする兄弟だったりする。エキドナさん頑張り過ぎ。

 その隣にはスフィンクスがいた。エジプトとギリシャの二地方で繁栄した、人面獅子の化け物だ。ある意味キマイラとマンティコアの先輩格とも言える。ただしクイズに負けたぐらいで自殺するぐらい豆腐メンタルなので扱いは慎重に。さすがATMの住む国の出身の怪物、情けない。あとこいつもエキドナの関係者だったりする(エキドナとオルトロスの禁断の火遊びの結果生まれた)。

 余談だが、同じような合成生物であるグリフォンは幻獣コーナーにいる。どうやら「危険度の高さ」や「凶暴性の有無」などを基準に割り振られているようだ。グリフォンも相当に凶暴だと思うけど、縁起物として担がれた歴史があるからだろうか?


「次は爬虫類系統のようですね」

「おー、ワイバーンだ」


 それからしばらくは哺乳類系統が続いたのだが、今度は爬虫類系統に切り替わった。

 トップバッターはワイバーンだ。前脚のないドラゴンの一種で、所謂「飛竜」と呼ばれる系統である。もちろんこれは総称であり、細かな種類に分けられ、過去に様々な亜種が生まれたが、今はどれも絶滅危惧種になっている。飛行特化で耐久力が低いから仕方ないね。

 蛇足だが、ワイバーンには確かな神話という物が存在しない。王家の紋章に使われがちなドラゴンに対する見栄で生まれた架空生物なのだから当然である。絶妙にドラゴンより弱い設定をされがちなのも、その辺が関わっているのかもしれない。


「うわっ、ファフニールだ……」


 ワイバーンの次に見えてきたのは、いい思い出が一つもないファフニールだ。こちらは暗所に棲む為か、マジックミラーで光を制限され、掘られた巣穴の中で宝を抱きながら気持ち良さそうに眠っている。

 土壌生物かつ元ドヴェルグのこいつがこんな所で丸まっているのは何とも言えない気分になるが、一応は邪竜というカテゴライズなので、一応は問題ないと言える。違和感は拭えないけど。


『おー、ヒュドラだ』

「ラードーンもいますね」


 その先には、定番中の定番とも言える、ヒュドラが蜷局を巻いていた。

 九つの頭を持つ毒蛇のような姿で、切った傷口から頭が倍々ゲームで再生するという、何とも面倒臭い能力を持つ。ケルベロス、オルトロス、キマイラに続く、エキドナファミリーの一員でもある。

 ラードーンは百の頭を持つ巨大なドラゴンで、エキドナファミリーでも一番父親(テュポーンも百頭の竜)の影響を色濃く受け継いだ存在である。

 だが、そんなカッコいい設定に反して、旅の勇者に殺されてしまう不憫な奴でもある(しかも、使われたのが先に倒された弟のヒュドラの毒)。


「ほら、リンドブルムがいるわよ」

「ニーズヘッグもいるね」


 その次は北欧地方出身の地竜、リンドブルムとニーズヘッグだ。

 リンドブルムは「犬の竜」を意味しており、その名の通りフサフサの毛が生えたワーム型のドラゴンである。夜空に流星を降らせるという何ともロマンチックな特技を持つ。特に人気が根強いデンマークでは「美女と野獣」みたいな逸話を持っていたりと、案外「異種族婚」の素養がある連中だったりする。古代人の想像力はたまに怖い。

 ニーズヘッグは北欧神話における敵対者で、世界樹ユグドラシルの根本で無数の蛇神たちと暮らし、常に世界樹を枯らそうと噛り付いているという。根切り虫かお前は。そのせいか、彼の入れられている檻は植木鉢みたいな構造になっている。それでいいのか地竜。


「あ、ムシュフシュだ」

『か、可愛い……』『きゃ~ん』


 お隣さんは、メソポタミア出身の地竜ムシュフシュ。ドラゴンの身体にライオンの前脚と鷲の後脚を持つ合成獣で、全身に白いモフモフとした毛が生えている。本人はそこまで邪竜ではないのだが、お役目が殲滅要員なので、ここにいると思われる。

 こちらは陸生の四足動物だからか、広めの草原の中を群れで行動している。サファリゾーンでも放し飼いにされているらしいので、今度見に行ってみよう。


『ル・カルコルだ』『きもーい』


 さらに、フランス出身のル・カルコルというマイナー奴もいた。見た目はドラゴンみたいなカタツムリだ。全身がヌメヌメで非常に気持ち悪いが、これでも性質はかなり大人しいという。外敵に対しては苛烈なようだが。

 近くにはタラスクというドラゴンみたいな亀もいる。巨大海獣レヴィアタン(※デッカい鯨の怪物)の子孫とも言われているが、亀である。それもワニガメやカミツキガメに近い。ファフニール程じゃないが、こいつらを竜とカテゴリーしてもいいのだろうか。爬虫類という括りなら問題はないが。


「おっ、ここからは本格的なドラゴンのコーナーか」


 その後もしばし飛竜と地竜が続いたのだが、ここからは本格的なドラゴン――――――四本足かつ翼があるタイプが始まるらしい。

 手始めにスラヴ神話の邪竜一族ズメイが群れを成す大ホールがあり、中では色とりどりのズメイたちがオウムみたいに飼われている。

 続いて「鏡の国のアリス」で有名なジャバウォック、ルーマニアの巨大生物兵器バラウール、陸・海・空の三世界を制する万能者ガルグイユ(ガーゴイルの祖先)など、男の子が見たら興奮しっぱなしになるであろう、錚々たる面子が陳列されている。

 ちなみに、龍にカテゴライズされる連中は幻獣コーナーにいる。西洋は爬虫類や両生類は悪とされがちだが、東洋では神の使いとして扱われるのが多いので、そこが分かれ目なのかもしれない。東洋にも邪悪な奴はいるんだけどね。

 もっと先に進むと蛇神コーナー、蟲型モンスター(カエルなども含む)、怪鳥コーナーと、様々な邪悪な者たちが待ち構えているらしい。

 うーん、見ていて飽きないねー。一日と言わず、一週間ぐらい通っても良さそう。


「あっ……」


 そうして家族水入らずの魔獣観覧をしていると、前方に見覚えのある人物がいた。


「カインじゃん! それに受付のお姉さんも!」


 それは、辺獄のOBカイン・アルベルトと、いつぞやのギルドの受付嬢だった。

◆幻魔獣エデン


 経済都市ディータシティでも有数の観光スポット。世界中の幻獣・魔獣・神獣を扱っている動物園で、その物珍しさから観光客だけでなく地元民からの人気も非常に高い。

 ちなみに、飼われている獣たちは服従している訳ではなく、隙あらば逃げ出したり暴れたりするので、ブリーダーの殉職率は結構高かったりする。

 また、神獣たちは羽休めや見初めの場と利用している節が強く、獣側の都合で見れない場合も多々あるが、上手くいけばお気に入りにしてもらえる可能性もある為、三コーナーの中では一番人気がある。

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