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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
10/52

この素晴らしい故郷に冥福を!

 つまり、アベルの話を纏めると、WODの舞台はバーチャルではなく本物の黄泉の国であり、プレイヤーはサーバーを通じて仮初の身体(アバター)に自分の魂を憑依させて、地獄巡りを楽しんでいる、という事になる。

 当然、肉体は抜け殻となり、ネットを介して魂が繋がっている状態なので、不慮の事故や悪意ある誰かの手によって簡単に切り離されてしまう。

 ようするに、生殺与奪をデルタ・コーポレーションに握られているようなものだ。汚いさすがDC汚い。

 これ開発したの、絶対ロクな奴じゃないな。お前こそ本当の悪魔だって言いたくなる。知らぬが仏とはこの事である。

 あーあ、知りたくなかったなー。純粋にゲームを楽しみたかったなー。

 しかし、ここが本当に日本のあの世なのだとしたら、やってみたい事、行ってみたい所はある。生前は侵略行為でしか出掛けられなかったので、純粋な興味本位と、あとは――――――。


「……よし、それじゃ一度ギルドに戻って、換金してからもう一度出直そう」

『了解!』『『わかったー』』『OKです』『キャーン♪』

「そうですね、それがいいです。……じゃあ、動けないので負ぶってください」

「面倒臭い奴だな、お前も!」


 そういう事になった。


 ◆◆◆◆◆◆


 そして、ギルドへの報告と報酬の受け取りを完了させてから、再度フォルアビス大湿原へと繰り出す。


『スップリン♪』『バッフリン♪』『スップリン♪』『バッファリン♪』


 そんな僕たちの前に、スプリガンの群れが現れた。顔と手があるプリンがプルプルと行進している。スライムじゃないんかい。


「お仲間でしょ。何とかしなさい」

『わたくしの家族はカルマとアルマ、それと皆さまだけです。他に仲間などいません』

「えっ、何この人、急にカッコいいんだけど……」


 もしかして、目の前のこいつらも、そういう話をしているのだろうか。

 ……いや、ないな。どう見てもエブリバディでプリンプリンしてるもの。絶対何も考えてないって。


「【爆裂魔法】!」


 とか考えてたら、瞬きする間もなくアベルが【爆裂魔法】を発動。プリンたちはスキ○ットマンと踊りに逝ってしまった。アベルがやり切った顔でバタンキューする。


「何してんだテメェはぁぁあああああっ!」

「はぁん、最高です!」


 八つ裂きたい、その笑顔。


「馬鹿だろ! お前馬鹿だろ絶対! どんだけ我慢が利かないんだよ!」

「これぞ爆裂魔道! 芸術は爆発なのです! さぁ、次はどいつですか!? この世界ごと滅ぼしてくれるわぁ!」

「阿保かぁ! その前にこっちが滅ぶわ! 見ろ!」

『ギィガァアアアアッ!』『ギギョォアアヴヴヴッ!』


 と、爆音を聞きつけた鳥型のモンスターが二体現れた。

 どっちも恐竜並みにデカい鶏の姿をしているが、片方はコカトリス(蛇のような尻尾がある)で、もう片方は波山(ばさん)(パーツの一部が鳳凰に似ている)だろう。東西の鶏モンスターが一堂に会しちゃった。


『キィガァアアアッ!』『ゴヴァアアアッ!』


 さらに、面付き合わせた瞬間、こっちの事をそっちのけで縄張り争いを始めてしまった。和洋は折衷出来ないらしい。

 とにかく、このままだと巻き込まれるし、ついでにアベルが死ぬ。殺られる前に殺るしかないだろう。


「しょうがねぇなぁ! 行くよ、ユダ!」『分かったよ、お姉ちゃん!』


 まずは僕たち義姉妹(今は義兄妹か?)の連携攻撃。聖騎士であるユダが白金の鎧を煌めかせながら突撃し、僕は十字剣振り被って跳躍する。二体を下から聖剣で掬い上げ、十字剣で再び地に叩き落とし、双方を分散させた。

 これで複数対単体が二組出来上がった訳だ。カードは僕&ユダ(+ドラコ)VS波山、カルマ&アルマ&スップリンである。爆裂馬鹿は戦力外の方向で。

 さぁ、異世界初のクエストなしの冒険バトル、行ってみよう。


『ギィギョォアアアヴヴッ!』


 体勢を立て直したコカトリスが、口から灼熱の火炎を吐いてきた。

 波山は四国地方の竹林に生息する、火を吹く巨大な鶏だ。別名を犬鳳凰とも言い、名前通り何処となく鳳凰の要素が見え隠れする、やたらと豪奢な野鶏でもある。警戒心が強く、猛烈な勢いでバサバサと羽ばたいて威嚇し、それが波山の名前の由来となった。

 そんな羽毛が生えたワイバーンみたいな妖怪・波山だが、見た目に反してそこまで強くない。だって鶏だもん。同じ鶏妖怪でも「ふらり火」と違って飛べないし。


「やかましい、このチキン野郎! 【破壊光線(ジェセル)】!」『【火炎刃(ヴォルフレイム)】!』『キャーッ!』

『ゴヴァアアアアッ!』


 僕の【破壊光線(ジェセル)】とユダの【火炎刃(ヴォルフレイム)】とドラコの【炸裂魔法(エクスプロード)】が、波山の身体をローストしてから切り分けた。

 アベルの言う通り、アバターは本体とは勝手が違うらしく、エルフボディでは闇魔法が上手く使えなかった。よって【混沌の覇者】も撃てない。その代わり光魔法への適性は本体よりも高く、光魔法でも最上位の攻撃魔法を撃てた。スキルポイント大分使っちゃったけど。

 それはユダも同じようで、アンデッドではない故に【獄炎乱舞ブースデッド・ヘル・フレイム】が使えない上に、構造の違いからか【火炎放射プロミネンス・ナパーム】を放つ事も不可能となっている。その分、聖騎士らしく武器や防具に魔法を宿す能力があり、もっぱら【火炎刃(ヴォルフレイム)】で炎の斬撃を飛ばすのを得意としている。他に炎のパンチやキックなども使える。

 で、今回初参戦となったドラコだが、メタ○ラらしく爆発系の攻撃が十八番なようで、【爆裂魔法】の下位魔法【炸裂魔法(エクスプロード)】を乱れ撃ちしている。こちらの方が燃費がいいので、どこかの馬鹿よりずっと役に立つ。

 ……まだ低レベルだし、仕方が無いとはいえ、明らかに弱くなってるよなぁ。


『キィガアアアアッ!』

『わー♪』『きゃー♪』『無駄無駄ぁ!』


 おっと、向こうの親子も決着が付きそうである。


『キィガアアアアゥ!』


 コカトリスが石化の息吹を巻き散らして暴れまくる。

 コカトリスはフランス出身の鶏型の怪物で、蛇(もしくは竜)の尻尾を持っているのが特徴。視線や息吹で敵を石に変えてしまう能力があり、バジリスクと同一視される事もある厄介な魔物だ。


『【妖精の輪(ガリトラップ)】!』『【欺瞞映像(イルミラージュ)】!』


 だが、変幻自在な補助技を使うピクシーや、力は弱いが素早く狡猾なホビットには良いようにあしらわれてした。

 【欺瞞映像】は言うまでもないが、特に【妖精の輪】が厄介である。この魔法は一定範囲内の補助魔法の効力を滅茶苦茶にしてしまう能力があり、サポーターの天敵とも言えるスキルだ。

 変化技主体のコカトリスには愛称最悪の相手と言えよう。


『そこっ!』


 何より、職業・殺し屋のスップリンの存在である。

 本体のような変幻自在のボディではないが、小悪魔らしく影に潜んで不意打ちする事に長けており、しかも本人の素質によって魔法攻撃力も高い為、カルマ&アルマに手こずっている間に背後から暗殺されてしまう。実に面倒臭い組み合わせだ。


『ギィァァァ……!』

『やたー♪』『たおした、たおしたー♪』『うんうん、偉いねェ~♪』


 そうこうしている間に、コカトリスは仕留められてしまった。ほぼ何も出来なかったと言っていい。これが知能の差か……。

 こうして、役立たずの蒔いた厄介の種は、僕らの経験値として刈り取られたのだった。

 しかし、僕はこんなチキン野郎共を上手に焼く為に出直した訳ではない。きちんとした目的地がある。


『……って言うか、ワタシたちはどこ目指して歩いてるの、お姉ちゃん?』


 そろそろ疑問に思ったのか、ユダが首を傾げた。僕はアベルを背負いつつ、答える。


「過去の栄光を求めに」


 そして、道中色んなモンスターを倒しながら、僕たちは辿り着いた。


『なにここ?』『なんにもないけど?』『更地ですね』

『でも、奇麗なお花畑だよ』『キャーン』


 そこは一見何もない、ただ奇麗なだけの花畑。ここには妖精も妖怪も魔物もおらず、草花以外の植物は一切ない。

 そんな美しくも、どこか儚げな、寂しい土地。こここそが――――――、


「……ここは十三代目山本五郎左衛門の居城跡地さ」


 僕の……十三代目山本五郎左衛門の墓場だ。


『あ、それこうりゃくさいとにかいてあった』『たしかなんさくかまえのらすぼすで、ゆうしゃにしろごとほろぼされたんだっけ』『それが今やお花畑とか、兵どもも夢のあとって感じですね』


 ちびっ子と保護者が好き勝手言っているが、概ねその通りである。


「十三代目山本五郎左衛門と言えば、平穏を求めた殺戮者として有名でしたね。心は平和で安全な日常を求めていたのに、血の宿命がそれを許さず、常に破壊衝動に苛まれていたと聞いています。誰とも絆を育む事も出来ず、共感すら持てず、部下どころか幹部でさえ面会を許さず、誰にも顔さえ知られないまま、最後の最後まで一人きりで死んでいった、孤独な魔王だったとか」

「………………」


 さらに、背負われし役立たずが、僕の客観的な評価を解説してくれた。

 ああ、そうだよ。何か文句でもあんのか。魔王がぼっちで悪いのかこんチキショウ。


『……可哀そうな人だね。人は独りじゃ生きられないのに』『キャーン……』


 話を聞いたユダが、目に見えてしょんぼりする。頭の上のドラコもはぐれた方になっていた。

 でもな、仕方なかったんだよ。僕は生まれながらに魔王だったし、家族は誰一人として僕を愛してくれなかった。

 だから、僕も誰一人として愛さなかった。他人は全て駒か敵だった。四天王でさえ信用出来なかった。

 だからこそ、あの勇者ならぬ作家志望は忌々しかった。どうして人の為に命を張れる。どうしてお前には守るべきものがある。僕にはないのに。

 そして、僕は最後まで縋る相手すら見つけられないまま、唯一の居場所にして最後の牙城と共に滅び去った。

 この可憐だが何処か虚しい花畑が、僕の人生そのものだ。

 無駄に集まり、勝手に咲いて、儚く散る。纏まっているように見えて、誰もかもが自分だけ生き残ろうと、上だけ目指して隣は見ずに、精いっぱい藻掻いている。勇者(じょそうざい)が撒かれるだけで、容易く全滅するというのに。

 こんなものが、僕の人生か。今までの僕は一体何だったんだろうな。


「そんな事ないわ。人生ってのはいつか報われる時が来るものよ」


 それが例え今世でなくとも。

 でも、来世の今は報われているよ。

 人として生まれ、時と運命の呪いに縛り付けられていても、前世ではなかったものが、今はある。エウリノーム家で過ごす内に気付いた。


 ……僕は、家族が欲しかったんだ。


 気の置けない仲間や信頼出来る親兄弟(というか姉妹)が、ずっとずっと欲しかった。

 確かに心休まる暇はないかもしれないけど、この騒がしさが僕は何よりも欲しかった。

 おそらく、妖怪に生まれ変わっていては、手に入らなかっただろう。短く儚い命だからこそ、死に物狂いで生きてこれた。たった数年だけど、今ではこんなにもたくさんの仲間がいる。掛け値なく嬉しい。

 まぁ、それでも魔女の道は目指すけどね。さすがにセミの成虫みたいな短命はごめんッス。


「さて、そろそろログアウトしましょうか。あんまりゲームばっかりしていると、母上様に怒られるわ」

『『『はーい』』』『キャゥーン』『OKです♪』


 さよなら、山本五郎左衛門。お前に居場所はなかったけど、僕にはあるみたいだから、安心して眠りなよ。二度と目覚める事の無いように。


「おやおや、帰ってしまうのですか?」

「安心しなよ。ここにはもう来ないけど、気が向いたらログインするかもしれないし。それに、その気になればあっちでも会えるでしょ」

「それもそうですね。では、また……」


 アベルとも別れを済ませ、僕たちは現実のあの世に戻ってきた。相変わらずの日本かぶれだが、それでいい。

 僕の居場所は、もうここしかないのだから。


 ◆◆◆◆◆◆


 ――――――その頃、アリュールの酒場にて。


「いやぁ、可愛かったなぁ、あの子」

「そうだな。でも、あんな子いたっけか?」

「さぁな。最近アカウント取ったんじゃねぇの?」

「そうは見えなかったけどなぁ。こっそり鑑定してみたら、レベルもステータスも高かったし。どう考えてもヘビーユーザーって感じなんだけど」

「前作からデータ引き継ぐかなんかしたんだろ。どうでもいいじゃねぇか、可愛ければ」

「それもそうだな!」

「「ハッハッハッハッハッ!」」


 その冒険者たちの会話は、あまりにも日常的過ぎて、誰も聞いてはいなかったし、気にも留めていなかった。もう少し考えれば、違和感に気付けた筈なのに。

 確かにWODは、前作からのデータを引き継いで、キャラクターをコンバートする事は出来る。


 しかし、ステータス(正確にはそれを割り振る為のスキルポイント)を引き継がせる事は出来ても、レベルやそれに伴う習得スキルまでは引き継げないのである。


 だから、おかしいのだ。あの子が“アレ”を使えるのは……。

◆コカトリス(鳴き声:尖兵の癖に強過ぎる超古代怪獣)


 中世ヨーロッパ全土に生息していた、鶏と竜(と蛇)の合成生物。雄鶏が何を間違ってか産んだ卵を通りすがりの蛙さんが温めると生まれると言われる。視線と吐息に毒性があり、その威力はかのバジリスクよりも上だという。どう考えても肉食っぽいが、実は特殊な植物だけを食べる草食動物である。最近はそうでもないようだが。


◆波山(鳴き声:火口で生まれ火口に没した空の大怪獣)


 犬鳳凰の異名を持つ鶏型の妖怪。恐竜並みの巨体を持ち、口から火炎を吐き、羽ばたけば突風を巻き起こすという、鶏とは思えない戦闘能力を持つ。ただし同じ鶏妖怪のふらり火と違って飛べない。こんなデカいのに飛び回られても困るが。

 ちなみに、あの世での主食は蝦蟇。最近やって来た外来種であるコカトリスとは激しく縄張りを奪い合う。

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