私設護衛の葛藤
非常にもどかしい。その一言に尽きる。
ああ、私はある侯爵家に仕える護衛だ。そこのお嬢様をお守りするように命じられている。元々は騎士でな。任務中にそこそこ大きな怪我をしてしまって騎士には戻れなくて、今はこうして護衛として雇ってもらっている。
なかなか給金もいいし、威張り散らさず優しい良い主人にも恵まれた。もうこの主人のために死んでもいいかなって思っちゃうよね!?うん。
ただ、そう、心残りがあるとすれば主人のお嬢様。そう今の護衛対象。もうもどかしい!じれったい!もっとがつがついこうよ!っていいたい!本当に!!私も貴族だからわかるけど、お嬢様、だめよ。それじゃあ。もっとアピールしないと!!あの鈍ちんには伝わらない!!!今のままじゃあ、妹扱いだよ!?本人わかってないし!?あ、私貴族は貴族でも男爵で成り上がりだから。言葉使いはなってないんだよね。よく注意されちゃうんだよ。若いから仕方ないよね。ね?オリアナさん。
だいたいデートに市場なんて……っそんなの選ぶ男……!もっといい場所あるでしょ!?みんなであの鈍ちんを心の中でせめたよね!?お嬢様は世間知らずで市場に来たことなかったから良かったけど、普通に初デートで市場ってあり!?なしだよね!?私なら噴水のあるあの恋人達のメッカの公園とか、小高い丘にある花畑とか、そういうところだよね!?初デートにいくところって!
まあ、でもあのジュースはよかったよね。オリアナさんからもらったけど、野郎で回し飲みしたけど、美味しかったな。……………あれ?おかしいな?なんか雨降ってきた?水が………っ水かな……しょっぱいな…………
お嬢様がもう少し積極的になれば、あの鈍ちんとも仲が進展するんじゃないかなっておもうんだけどな。まずは名前よ。名前を普通にいうようになれればなぁ。鏡の前ではなんとか言えるってオリアナさんはいっていたけど、本人前にしないとなあ。名前いうだけであれだけ緊張してたら、接吻するときどうするんだろうか!?石になるんじゃないのか?なあ、オリアナさん。お嬢様がせっぶふっ……………
いってぇ。殴られたんだけど。下品って殴られたんだけど。痛い。護衛をグーパンチで。血が出たよ。オリアナさん。実は強い??お嬢様でそんな下品なこと想像するなって。でもだって、心配だよ。もどかしいんだよ。お嬢様がまた心折られるようなことがあったら、私闇討ちしちゃうよ?あの屑野郎はみんながとめたからしなかったけど……。でもしとめなくてよかったよ。殺してしまったら一瞬だけど、生きていたら生きているだけ苦しむことができるからね。
話が逸れてしまったね。そうあの鈍ちん!せっかくのデートだっていうのに見回りに一緒に行くとかいいだして!デートの自覚なし!!見回りなんて私達でやるから!もう!バーバラ様の近くにいて!お願いだから!!一回りして何か変わるわけでもないけど、距離感がちょっと縮まるかなって思っていたけど、戻ってきてオリアナさんに話聞いたけど何もせず!期待通り!ってそれじゃあだめなんだよー!何のために見回りに行ったのか全然わからなくなっちゃう!!あ、勿論警護のためだけどね?溜息もでちゃうよね。
あとね、お嬢様も見栄張らずにお姫様抱っこでも何でもして貰えばよかったのに!あれはあの鈍ちんにしては、なかなかよい提案だったよね。お嬢様がダメダメだったけど。せっかくのチャンス!お姫様抱っこしてもらって、あ、バーバラ様いい匂い、ドキッなーんてことになったら意識してもらえるいいチャンスだったのに!そこからまさか、めくるめく接吻チャーっゴフゥっ
オ、オリアナさん……。痛い。そんな目で見ないでお願い。ああ、なんか身体中から闘気が溢れているよ?気のせいかな?殺意を感じるけど?気のせいだよね?
お嬢様すごく楽しみにしていて、入念な下調べしていたんだよね。あんな態度とってたらばればれだったと思うけど……。お嬢様の性格ってちょっと面倒だけど、真意がわかればなんてことはないから。あの鈍ちんもきっとそういうところはわかっているだろうから、嫌がらずに付き合ってくれるんだろうね。社交界ではお嬢様はあまり良い評判ではないから、これ以上傷つくよりは身分差があるけど、思い人とくっついて欲しいなっていう使用人たちの思いは一致しているんだよな。お嬢様の家族もそんな感じだろうし、後は鈍ちん次第なんだよな。
バーバラ様幸せになってほしいな。
***
「なあ、アマンダ。今日市場で兄貴を見たんだ」
「クリフにぃに?」
「そうそう。綺麗な人と一緒だったんだ。お嫁さんかな?」
「およめさん?」
「クリフ兄貴のところに来てくれる、うーん……兄貴の好きな人?」
「あまんだ、わいあっとにぃに好きー」
「俺もアマンダのこと好きだよ」
「だにえるねぇねとだにえらねぇねと、てでぃにぃに、めいなーどにぃにも好きー」
「俺もみんな好きだよ。兄貴としてみんなを守らないとな、うん」
「わいあっとにぃに、あまんだまもるの」
「ありがとう。アマンダ」
「わいあっとのおよめさんになるー」
「あまんだが?」
「うん、くりふにぃにおよめさんくるから、つぎのわいあっとにぃにのおよめさんになるのー」
「うっ……。嬉しい。アマンダ、兄貴は嬉しいぞ………」
「わいあっとにぃに、ないてる?」
「………嬉しくてちょっと泣いてしまったんだ」
「いいこ、いいこ」
「ありがとう、アマンダ。今日みかけたクリフ兄貴はいつもより楽しそうだったから、あのオレンジの髪の綺麗な人がお嫁さんに来てくれたら嬉しいな」