4 紅い花の花言葉
ヴァルハラの街が見えて来た。
嗚呼、やっぱり遠いな。
砂浜の砂に足を取られながら歩くのは疲れる。やっぱり馬買おうかな、そう思ってはや三年。このまま買わずにいそうだ。
そんなこんなで色々考えているとすぐまた早く時間が過ぎてしまうもので。
楽しい時と考え事してる時ってずっと続いて欲しいのに早く過ぎてしまうな。
石畳の階段を登っていくと活気溢れるヴァルハラの街についた。
嗚呼、人々の目線が痛い。ヴァルハラの街の人達はいつも僕を物珍しい眼差しで見てくる。
そりゃそうだ。
此処は魔法工業都市として名高い、ヴァルハラ。他の国々では失敗してしまった自然と魔法工業との調和を、唯一出来た街。多くの男性がこの街の「歯車」として働いている。男性は仕事、女性は家庭、と言う考えが昔からずっとあるのだ。薬草で生計を立てている男はたぶん僕しかいないだろう。魔法工業で成り立つこの街では、僕は「異端」なのだから。
まあ、学校を辞めたあの日から僕は「異端」だったのかもしれないが。
街の中心部には機械仕掛けの噴水がある。四つの道が交差する処にあって、一日に四回時間を知らせるように吹き上がる。
そこから西側に行くと、薬屋がある。そこに僕は採った薬草を売っている。薬屋の人との会話はないが、買いっとてくれる値段はまあまあ良い。一月金貨四枚位。魔法工場で働く人達は一月金貨三枚くらいだし、警備隊では一月金貨四枚、銀貨三枚。主な二つの職業と比べても負けず劣らずってところかな。
今日もいつも通り薬草を売り渡す。そして会話もなく僕は店を出た。
そのままぷらぷら街を歩く。買い出しに来た主婦の人達がヒソヒソ、僕を見ながら話している。この時間出歩くなんて、とか話しているんだろう。「竜眼」で視るまでもないや。
今日の食事の分の食材を買ったり、書物店を見たり。そんなこんなしているうちに、四時になった。家に帰ろう。
弟が帰ってくる前に食事の準備を済ませ、弟を待つ。
「ただいま。」
「おかえり!トーラス。」
なんだかいつにも増して疲れている声で返事をしたトーラスは、手洗い場で手を洗って来た。
「トリトン兄さん、今日の飯も旨そうだな。」
「えへへ、ありがとう。」
「兄さん、今日何かいいことでもあった?」
トーラスって勘がいい。僕と同じく「竜眼」持ちだからだろうか。
「まあね。」
「ふうん。」
トーラスはスープを口に運びながら答えた。暖かいうちに僕も食べてしまおう。
「トーラス、今日何か疲れてないか?」
「あー。うん、疲れてる。」
「なんで?」
トーラスが疲れるなんて、珍しい。まあ、疲れてるのなら早く寝ないとね。
「…『紅い華』がこの街のどこかに紛れ込んだかもしれないんだよ。」
「紅い華?ってあの有名な指名手配犯だよな。そういえば、なんで『紅い華』なんだ?」
紅い華…。あらゆる国や街で指名手配されている連続殺人鬼の通称の名。そいつの本当の名も、性別も、特徴もわからない、神出鬼没の殺人鬼。
そんな「紅い華」の通称の名の由来を僕は知らない。
「そいつは証拠を全く残さない。足跡も、目撃談も、髪の毛一本すら、証拠になりうるものほとんど。だけどそいつは、赤い花を残していくんだ。死体の傍らにね。確か…。」
トーラスは腕を組み、思い出そうとしている。
「ああ、思い出した。トリューシェだ。トリューシェを置いていくんだ。」
トーラスはパチンと手を叩いて言った。
「トリューシェか。花言葉は確か、『謝罪』。」
「へえ。」
トーラスは興味無さそうに言った。無差別殺人鬼のはずなのに、何故「謝罪」なのだろうか?深読みし過ぎだろうか。
「まあ、俺からしたら頭のおかしい猟奇的殺人にしか思えないけどね。」
トーラスは立ち上がって食器を片付けながら言った。
「…そうだね。」
僕は頭から花のことが離れないまま、生返事をした。
「じゃあ、兄さん。俺は明日早いから。もう寝るよ。」
「うん、おやすみ。トーラス。」
トーラスはさっさと寝室に行ってしまった。
食器を洗い、片付けたあと、トーラスに続いて早めにベッドに入った。ベッドの中で、僕は今日の出来事を思い出していた。プルーネと友達になれるかな、殺人鬼怖いな、と思って。睡魔に誘われるまま、眠りに落ちた。
あとがきです。
読んでくれてありがとうございます。
ここ直せよ!こうやれば面白くなるぜ!ってところはコメントでご指摘よろしくお願いします。