2 始まり
昼下がり。
プルーネはいまだに遠いヴァルハラの街を眺めていた。
僕は黄色い花の付いている薬草を摘んでいく。
この花は花の部分だけを採るのがコツなのだ。葉や茎には毒がある。
薬にも毒にもなる、ということだろう。
おおかた摘み取った。もういいだろう。僕は少しだけ花を残した。この薬草は、根っこを残せばまた生えてくる。それに…。
ふっと振り返ってみると、プルーネがこちらを見ていた。視線の先は僕ではなく。花が好きなのかな。
「ね、プルーネ。君は花が好きなの?」
彼女の隣に腰掛け、聞いた。僕は花が好きだ。
「ん…。まあ…。キレイだから…。」
「えへ。花って綺麗だよね。」
まあ、僕の周りには花の美しさを知ってくれる人がほとんどいなかったから、嬉しいな。それ何処か花好きの僕を変人扱いする始末。
「この花はさ、薬草で。だけど、葉とか茎に毒があるんだ。だから、使う時は花のところだけを採ってくんだよ。」
黄色い花を手に取って見せた。
「ふうん。」
彼女は興味ありそうに手の中の花をまじまじと見つめたようだった。
「それでね、この花、散る時が綺麗なんだ。花の粉がキラキラ光って散るんだ。夜中に散るからさ、毎年見にくるんだよ。」
「キラキラ光って…。」
まるで小さな小さな星が降ってきたような、とても幻想的な光景なのだ。今年も観にこよう。
「…いつ頃、散るの?」
「うーん。もう少しかな。1月、2月くらいかな。ここが光始めたら散る合図だよ。」
手の中の花の付け根を指差して言った。
「楽しみ…。見てみたい。」
うん。花って不思議だよね。不思議で、綺麗で、そしてほんの少しの毒がある。
「そういえば、君はどこに泊まるんだ?」
「野営する。」
「き、野営するのかい?」
まだまだ肌寒い季節だ。それに、彼女は軽装だ。
「まだまだ肌寒い季節だよ?」
「ん。大丈夫。」
うーん。きっと魔法か何かで色々しまっているのかな。魔法ってのは難しいから。僕には理解できない。
「プルーネ、じゃあ。風邪を引かないでね。」
僕は、花の入ったカゴを背負った。
「ん。ありがとう、トリトン。」
彼女は少しかんがえるそぶりをした。
「また明日。」
彼女は、言った。
帰路に立った僕は、プルーネに手を振った。だけど、彼女は手を振り返してはくれず。やはり遠いヴァルハラの街を眺めたままだった。僕は少ししょんぼりして、砂浜を歩き出した。
僕たちの物語は、今始まった。