1 花の咲く島で
いい天気だな、そう思って僕は遠くに見える「島」を目指す。
あそこは、ヴァルハラの街からとても遠い。誰も行く人はいないのだけれど、そこにはとても貴重で、珍しい薬草が咲いている。
薬草は高く売れるし、もともと静かな時間が好きだからこうやって遠くに毎日通うのも苦ではない。
まあ、今こうやって潮風が僕の髪をかき上げている時間も、素晴らしい時間だと思う。
しかし砂浜をこう永延と歩いていくと、馬とかが欲しいなと思ってしまうな。
馬でも買おうかな。
砂浜を馬で駆けたら、どんなに気持ちいいだろうかー。
そんなふうに考えていると、時間が早く過ぎるもので。
「島」に着いていた。
「島」は僕が勝手に名付けたものだ。「島」は丘のような、崖のようなところで。砂浜と陸続きなのだが、周りの砂浜や海が、「島」より低くなっている。僕には天空に浮かんでいるような島に見えたので、勝手に「島」と呼んでいる。
石段状に剥き出しになった岩を登っていく。
半分くらい登ったところで、誰かいることに気がついた。
ここは辺境中の辺境だ。
ヴァルハラの街の人達はほぼ来ない。
旅人…か…?
よく見てみると、その人には翼があった。2対の白い綺麗な翼。真紅の衣を身に纏っている。翼有族の旅人だろうか?翼有族の人は見たことないけど。
ふとその人が振り返った。
面妖な仮面を着けている。大きな鳥の嘴のような仮面。
しかし彼女は興味無さそうにまた遠いヴァルハラの街の方を向いてしまった。
やはり他人が旅の目的をあれこれ聞くのはよくないと思うが…。
僕は好奇心に負け、彼女に話しかけてみることにした。
「こんにちは。旅人、ですか?」
「…。」
気まずい沈黙。やはり…。
「…。旅…。旅、してる。」
よかった。彼女は旅をしていると言う。彼女は遠くのヴァルハラの街を眺めながら行った。
彼女の声は綺麗な声だった。心根が綺麗ないろ。
僕には視えた。
「へえ。なぜヴァルハラの街に?」
「…仕事があるから。」
「どんな仕事なのですか?」
「…。」
再び沈黙。まずい質問だったらしい。
「…すみません。」
「…大丈夫。気にしないで。」
彼女は少し微笑んだ気がした。
「あ、あの。名を聞いても…?僕の名はトリトン。」
「私は、プルーネ。トリトン…。私なんかに、丁寧な言葉は要らない。…きっと貴方の方が永く生きてるはず。」
本当だろうか?
僕は18だが…。
まあいいや。
「プルーネ、君はヴァルハラの街に行かないの?」
彼女は少し考えたそぶりを見せた。
「ん…。ここにいてもいい仕事だから…。」
「ふうん。」
彼女はいい人だと思った。しかし同時に不思議で。
好奇心に囁かれ、彼女の事をもっと知りたい、と思った。
「ねえ、君はいつまでいるんだい?」
「仕事が終われば私はまた旅に出る。だけど…。多分、1月くらい。」
1月、か。
僕は彼女と友達になりたい、と早くも思った。それほどに彼女は不思議で、優しそうで。多くの人間の心を視てきた「竜眼」持ちの僕は惹かれた。
彼女の「心」は視えなかったが。