プロローグ 天使の旅立ち
「プルーネ、本当に大丈夫か?俺が代わってやっても…」
「ううん。ミカ兄、大丈夫。これは、私の仕事…。このために生まれてきたのだから…」
そう言って少女は決意を孕んだ紅い瞳を少し潤ませ、微笑んだ。
「プルーネちゃん、辛くなったら、ワタシ達、を、迷わず、だよっででぐだざい!」
少女の姉は、泣きながら言った。
「ほら、リュエル。鼻水が出ているわよ。」
リュエルの姉は、リュエルの鼻を拭きながら、
「でもプルーネ、リュエルの言う通りよ。困ったら、私達を頼って。」
「そうだ。むしろ嫌になったらやめてもいいんだぜ。そん時はオレに言ってくれ。それより、プルーネに押し付けるなんて、あいつも最低だ。」
「こら、ラファエル!行って良いことと悪いことがー。」
「うるせーな、ウリエル。わかってるっつってんだよ。」
ラファエルは、煙たそうに手をぱたぱたした。
少女は、4人の兄姉達を順々に見渡し、別れを述べる。
「ありがとう。ラファ兄、ウル姉、ミカ兄。それにリュー姉も。私、頑張るね。」
少女は、微笑って、鳥の嘴のような面をつけた。彼女は今から旅に出る。永く永く、そして短く哀しい旅に、今から出る。
「行ってらっしゃい、プルーネ。」
ウリエルは笑顔で。
「がんばっでぐだざい!プルーネちゃん!」
リュエルは、泣きながら。
「頑張れよ。」
ラファエルは、強く一言を。
「いってらしゃい。」
ミカエルは、優しく。
4人はそれぞれに見送った。
少女の兄姉達は、少女が見えなくなるまで見送っていた。
………
少女が見えなくなって、少し経った頃。
「なあ、プルーネは本当に行ってしまったな…。」
ミカエルは、悲しそうにプルーネが去って行ってしまった方を眺めながら言った。
「ミカエル、オレはな、マアトが大嫌いだよ。」
吐き捨てるように、ラファエルはそう言った。
「ラファエル…、貴方は…。」
ウリエルは、哀しそうな顔をした。フンとラファエルが鼻を鳴らす。
「ウル姉、ラファ兄。ワタシは、いいえワタシも、マアト様は理不尽だと思います。あれはー。あれは汚れ仕事です…。ワタシ達の仕事以上に…。プルーネちゃんはいい子です。なのに、なのに…。悪い人、たとえ悪い人であろうと、生きている人間を殺せだなんて…。」
リュエルは、蒼い瞳に涙を湛えながら言った。
「リュエル…。」
「ウル姉、ラファ兄。リュエルも。行こう。もう仕事が始まってしまう…。」
ミカエルは、唐突に言った。
「…ッそう…そうね。行きましょう。プルーネも、頑張ろうとしているのだから。」
「うん。ウル姉、ラファ兄、ミカ兄。ワタシ行きますね。」
「そうだな。」
それぞれが、自分の仕事場へ行く。
ウリエルはー。彼女は。
(プルーネ。どうか、どうか私達を頼って…。貴女は、独りじゃないからー。あの人とは、違うから…。)
彼女は、もう愛しい人を、失いたくないと思って。
仕事場を目指して、飛び立った。
あとがきです。
タイトルの読み方は、「ちんもくのせかいでてんしはわらう」です。