今回の勇者
民を苦しめる魔獣を倒せるチャンスがようやく来た。
周囲には倒れた仲間たち。この世界に来てから良くしてもらった。
そんなみんなの為にも負けられない…!
魔力が尽きていく感覚がある。これで倒せなかったらもう終わりだ。
手を前にかざし詠唱を始める。
「これで、決める…!」
最後の魔力を振り絞り攻撃を発する。
この世界に来た当初、攻撃名をいちいち叫んでいたことをふと思い出し苦笑する。
「おおおおおおお!」
まばゆい閃光、激しく割れる地面。
この戦いの終わりを告げる魔獣の断末魔が響き渡った。
「やっと、終わった…」
膝から力が抜け、地面に突っ伏してしまった。体をうまく動かせない。
自分の力を出し切るのは、この世界に来てから初めてだ。
何故かは分からないが、人間という枠を超えた身体能力と魔法が転生により俺に与えられた。
英雄になることができた。世界を救う英雄に。
元の世界の自分とはるかにかけ離れる存在だ。
思わず涙が出てくる。
そんな英雄でも、この世界の悪の根源を倒す為に仲間の犠牲を払ってしまった。
何とか体を起こし、周囲の倒れている仲間に近づいていく。
「誰か…生きていてくれ……」
仲間の脈の確認をしようと腕をとったその瞬間だった。
ドスッ
背中に衝撃が襲う。
「ぐ……ぁぁ…」
背中を貫いたそれは俺の体を貫通し、その先端が目に入る。
槍のようだ。俺は槍に貫かれた。背中から…心臓を……貫かれた。
最初は予期せぬ衝撃による驚きの感情が優っていたが、状況を認識するにつれ、じんわりと痛みが広がっていく。
そしてその痛みもより強いものになっていく。
「ゲホッ…ゴボッ……」
咳とともに吐血する。
まさか、別の敵が潜んでいたとは…。
意識が遠のいていく。
「魔力が尽き自己再生もできないか。予定通りだ」
敵が喋った。一体何者なんだ。
最後に自分を殺した奴の顔くらい拝んでおかないと気が済まない。振り向く。
「お前は、一体、誰なんだ…」
「……」
敵は答えようとしない。
そしてそのまま持っていたもう一つの武器であろう大鎌を振り抜いて…
俺の首を切り落とした。
「最後の戦いはよく頑張りましたね」
それが最後の記憶となった。