Fランク冒険者、魔法使いの作戦⑥
翌朝、勇者様と共にギルドへ向かいました。そうです、思い出しました。
色々とありましたが、ともかくヨーキク草を勇者様から提出させるという目的を果たさなければ行けません。
ギルドが開く時間ピッタリに来たのですが、勇者様はすでに到着していました。
「うふふ、待ってたわ魔法使いちゃん」
「お早いですね勇者様。まだギルドは開いていなかったのでは?」
「そうね。でも私は五分前行動を心がけているの」
「冒険者は時間に緩い方が多いのですが……お国の風習ですか?」
「まあ、そんなところね。ところで、ヨーキク草は持ってきたかしら?」
「実は、私は昨日の一角狼のおかげで全然採取出来なかったので、今日は勇者様の様子を見に来ただけになってしまいました」
情けないです、とはにかむ私に対して、勇者様はとても残念そうな表情でした。
「すこし私の分を分けましょうか? パーティーなんですもの」
「いいえ、だめです。冒険者たるもの何もしていないのに恩恵に預かる訳にはいきません。それに私はれべるあっぷを勇者様から頂きましたから!」
「そう、それじゃあ私がギルドに提出するわね……冒険者って凄く覚悟のいる職業なのね」
嘘です。ほしいです。
マーキク草に比べて十倍は下らないヨーキク草をあれだけの量見てしまったのですから、今にも目から血が出そうなくらい我慢しています。
ここで折れれば一月は美味しいパンが食べられるかもしれません。ある意味凄い覚悟です。その誘惑にもどうにか耐えて、私達はギルドの受付さんへ報告をしました。
「あら、勇者様に魔法使いちゃん。どうしました? 昨日はヨーキク草採取のクエストを受けられていましたが……これから出発ですか?」
まさか受付さんも、森の奥から一日で帰ってくるとは思っていないようです。まあ、私もいまだに信じられませんが。
「うふふ、違うの。採取完了の報告に来たのよ」
そう微笑みながら、勇者様は肩のスライムを撫でています。ああやって魔力を込めることで、収納魔法をスライムに唱えさせているでしょう。
これまでもスライムが魔法を使う直前には勇者様が撫でていましたから。まあ、関係ないときでも四六時中なで回していますけれど。
勇者様がなで終わると、やはりスライムは大きく膨らみました。そして、両手に抱えきれない程のヨーキク草を取り出しました。
そこには、昨日倒した一角狼の角もいくつか混ざっているようです。どうやらヘロヘロな私が間違ってまとめてスライムの口に放り込んでしまったようでした。
「たった一日でこんなに! 流石は勇者のだわ……あら?こ、この角はどうしたのですか?」
「それは、昨日一角狼の群れに襲われてしまって。ごめんなさい、混ざってしまったわね」
「い、いえ、それは構いませんが、この一本だけ太い角もその時に?」
そういって受付さんが持ち上げた角は、確かに他のものよりも倍は大きなものでした。昨日の記憶は勘違いではなかったのです。
「そ、その角はいったい……?」
私は恐る恐る尋ねました。なにか嫌な予感がするのです。
「この角は大規模な一角狼の群れを率いるリーダー格の角です。他の一角狼たちとは体格もランクも異なります。通常の一角狼が単体でfランク、小規模な群れでeランクですが、一角狼リーダーは単体でCランクに指定されています。この町の周辺では、間違いなく最強ランクの魔物でしょう」
「まあ、そんなに凄い魔物だったの?」
「もちろんです! 冒険者になって一月もたっていない方が討伐するなんて前代未聞です! それにたった二人パーティーだなんて、凄すぎます! これは二人ともランクアップ間違いなしですよ! 少し待っていて下さい、今準備しますね!」
おや、聞きまちがいでしょうか。きっと聞きまちがいのはずです。『二人とも』だなんて、受付さんも冗談がお好きなのですね。
採取と違って討伐はパーティー単位でクエスト報酬がありますし、受付さんから渡された袋からはチャリチャリと音がしていますし、勇者様ときっかり二等分のようですが、何かの間違いです。
確かに昨日私は勇者様をパーティーに誘いました。その時に受付さんには手続きをして貰いましたが……。
「ぁぁぁあああ!!」
いけません! 勇者様と一緒にあの魔物を討伐したことになってしまっています! 何もしていないのに、ただ角の回収を手伝っただけなのに!
「あ、あの…… 受付さん……」
「おめでとうございます、魔法使いちゃん! これをどうぞ!」
私の焦りをよそに、受付さんは私に首にかける小さなタグを差し出しました。
困惑のままそれを受けとりましたが、それは私の魔力をわずかに吸うと、キラキラと光だしました。光が収まると、そこにはCランクの文字が刻まれていました。
「スタトの町で初めてのCランク冒険者の誕生です!」
興奮する受付さんの声に、ギルドにいた他の冒険者たちもざわめき出します。
驚愕、羨望、嫉妬。今まで感じたことのない色々な視線が突き刺さります。
その時、ふと掲示板のあるクエストが目に留まりました。このギルドで唯一のCランククエスト。いつもすぐに別の大きな町に回されるクエストがピラリと一枚だけ掲示されていました。
そこには、『一角熊討伐依頼』の文字。私のパーティーが休止に追いやられた元凶。たった一日で、手も足も出なかった魔物のランクに肩を並べでしまいました。
「こんなはずでは無かったのです……」
ギルドルールではソロで下位ランクのクエストを受ける事は出来ません。
「ありがとう、魔法使いちゃん!とても楽しい冒険だったわ!」
お礼を告げる勇者様の笑顔が目に染みるくらいまぶしいです。
「あは、あはは……」
勇者様は確かにランクアップしましたが、その代償の大きさに私は頭を抱えるのでした。