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Fランク冒険者、魔法使いの作戦⑤

 私は夢でも見ているのでしょうか。


 空高くへと投げられたスライムは少しずつ大きくなると、不意に四方へとバラバラに弾け飛びました。それは、さながら流星群のように森の中へと降り注いだと思うと、その落ちたところから甲高い断末魔が聞こえて来たのです。


 こうして一瞬のうちに、すべての一角狼を倒してしまいました。


 なにがなんだかわからないままでしたが、私は勇者様に促されて、スライムたちが運んできた一角狼の死骸から角を回収するお手伝いをしていました。なにか一本だけ太い角があった気もしますが、よく覚えていません。


「助けて頂いてありがとうございました、勇者様」

「あら、私はなにもしていないわ。スライムちゃんたちが頑張ってくれたんだもの」


 いつものように肩に乗ったスライムは、いつの間にかまた一匹に戻っていました。


「この子たち、みんなでくっついてもこのサイズになれるの。凄いでしょう?」


 自慢げに、勇者様はまたスライムをなでました。スライムも嬉しそうにプルプルしています。何はともあれ鈴の音も収まりましたから、もう近くには魔物はいなくなりました。


「これで夜営の準備に戻れますね!」


 元気を取り戻した私の声に、勇者様は首をかしげます。


「夜営? どうしてここに泊まるのかしら? ヨーキク草をギルドに持っていくだけでしょう? さっきの火は暖を取るためだと思っていたのだけれど」

「えっと、このまま戻っても門が開いている時間には間に合わないので・・・」

「あら、それなら大丈夫よ?」


 勇者様はまたスライムを優しく撫でると、肩から飛び降りたスライムがあっと会う間に一角狼の姿へと変形しました。それも、通常の何倍もの大きさです。

 私と勇者様くらいなら背中に乗せても軽々と運べてしまうでしょう。


「さあ、町へ帰りましょう」


 勇者様の掛け声に反応するように、スライム狼は森を風のように駆け抜けます。スライム狼のプニプニした感触に運ばれながら、気がついた時にはスタトの町へたどり着いていました。


 どうにか門限までには間に合いましたが、この時間ではギルドは閉まっています。報告は明日の朝にするとして、今日の労いを兼ねて勇者様と夕食を共にすることにしました。


 ギルド通りの小さなお店に入り店内をぐるりと見まわしたと思うと、勇者様は私にをっとメニュー表を差し出してきました。


「さあ、好きなものを頼んでいいわよ、魔法使いちゃん」

「へ? い、いいんですか?」

「もちろん。魔法使いちゃんのおかげで一角狼をいっぱい倒せたもの。素材の回収も手伝ってくれたのだし、それに……」


 勇者様は少し息を飲み込むと、これまでで一番の笑顔を私に向けてくれました。


「それに、私をパーティーに誘ってくれたのだもの。本当に嬉しかったのよ?」

「ゆ、勇者様……」


 思わず涙がこぼれそうになりました。せっかくのご厚意です、存分においしく頂かなければいけませんね。

 久しぶりの暖かいスープ。ふわふわのパン。そして何よりもお肉。お肉です。お肉なんです。噛み切るには少し難しいくらいの硬さでしたが、そんな歯ごたえも久しぶりで嬉しいです。


 和やかな時間が流れます。ここしばらくなかった幸せが確かにここにありました。


「……あれ?」

「どうしたの? 魔法使いちゃん」


 そんな温かな食事中に、私は思わず気の抜けた声を発してしまいました。その声に驚いたのか、勇者様が私の顔をじっと見つめます。

 吸い込まれてしまいそうな黒い瞳に、私の顔がきらりと映ります。何だか気恥ずかしくなって、つい顔を背けてしまいました。


「い、いえ……なんだか体の中の魔力が高まっているような気がしたので、少し驚きました。今日は何もしていないんですけれど……」

「もしかして、パーティーを組んでいたからかしら。きっと経験値が分配されてレベルアップしたのよ」

「れべるあっぷ? っていったいなんですか?」

「あら、この世界では通じないのかしら。えっと、さっきの戦いで危機を身近で経験したことで、魔法使いちゃんの精神的な部分が一回り強くなったのよ」

「そういうものなんでしょうか……」

「パーティーで戦うっていうのは。そういうことよ……たぶん」


 なんともよくわかりませんが、食事の後に勇者様と別れて一人で魔法の試し打ちをしてみましたが、明らかに以前より威力も射出回数も多くなっていました。れべるあっぷ?したということでしょうか。

 今日は何もできませんでしたが、次こそはお役に立ちたいです。……あれ? 何か目的を忘れているような。

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