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Fランク冒険者、弓使いの決意②

 朝日が昇る頃、僕は冒険者ギルドへの大通りを歩いていた。


「やっぱり心配だよなぁ」


 昨日の夜の事を思い出し、頭をかく。魔法使いちゃんはなにかをたくらんでいたみたいだけど、そそっかしい彼女がなにかバカをしないか心配で仕方がない。


 彼女はパーティーメンバーである前に幼なじみなんだ。千年を越えて生きるエルフにとって、同世代の同胞なんてすごく珍しい。それも十歳しか違わないんだから、ほとんど双子の兄妹のように森では過ごしていたよ。


 僕が冒険者になりたいと言った時、『私も行く!』って大声で泣いたのには驚いた。結局親たちも最後は折れて、僕とパーティーを組んで活動することと、百年に一度は村に顔を出す事を条件に許された。

 僕もそうだけど、エルフってのは心配性なんだ。


 だからこそ、僕は別に用のない冒険者ギルドへ向かっている。

 狩りだけでも生活が成り立つ僕と違って、魔法使いちゃんはクエストを受けないとお金を稼げない。とはいえ朝から様子を見るためだけに冒険者ギルドに顔を出すなんて、エルフの呪い(心配性)はずいぶんと強力だ。


 そんなことを考えているうちに、ギルド前に着いてしまった。窓から中を覗き込むと、掲示板の手前の席に座りうなだれている魔法使いちゃんを見つけた。


「まだクエストが全然ないままなのかな?」


 それとも例の秘策とやらは不発に終わっちゃったのかな? そんなことを考えていると、急に耳元から声がした。


「おやおや、弓使い君も魔法使いちゃんが心配なのかな?」

「うわぁ! ……って、シーフ! お前、驚かすなよ」

「あはは、おんなじ反応。やっぱり似た者同士だね」


 いったい何が可笑しいのか、いつの間にか僕の後ろにいた冒険者仲間のシーフがけらけらと笑ってる。こいつは趣味が暗躍なのか知らないけど、街中でもよく気配を消している。それをこんなイタズラに使うのは勘弁してほしいよ、まったく。


「で、わざわざ君が冒険者ギルドに一人で来るなんて珍しいけど、やっぱりお目当ては彼女なんでしょ?」


 そう言いながら、魔法使いちゃんの方を指差す。合ってはいるけれど、なにか見透かされているようでむず痒い。


「まあね、昨日の夜の様子がおかしかったからね」

「……昨日の夜ぅ?」

「言っとくけど、そういうのじゃないからな。飯の時に酒を飲んでもないのに酷く酔っぱらってたんだよ」

「そういうの? って何のことかなぁ~?」


 シーフの目が獲物を見つけたかのように鋭く光る。こいつ、茶化す気満々だ。


「なんだよ、俺になにか用があるんじゃないのかよ」

「いやいや、魔法使いちゃんをからかってたら窓の外に君が見えたからさ、こっちでも遊……お話しようと思っただけだよ?」

「おい、今こっちでも遊ぼうとか言おうとしなかったか!」

「あはは、気のせい気のせい。でもいいのかな? そんなにカッカしてると麗しの姫を他の誰かにさらわれちゃうよ?」

「は? なんだよそれ、さっき魔法使いちゃんと何を話してたんだよ!」

「へ~、やっぱり君のお姫様は魔法使いちゃんだったんだ。じゃあほら、白馬に乗った王子……じゃなくてスライムを従えた勇者様には気を付けないとね」


 シーフはにやけた顔のまま、視線だけをギルドの中へ向けた。その先に目をやると、ちょうど魔法使いちゃんが立ち上がって受付の方へ歩きだしたところだった。


 妙に緊張した顔の魔法使いちゃん。その向かう先には、すらりと背の高い一人の女冒険者がいた。見ない顔だ。肩にスライムを乗せているところを見るに、テイマーだろうか。


「あの人がスライムを従えた勇者ってのか? 初めて見る顔だし、僕がここに来るのは戦士の奴が怪我して以来だけど、その間に冒険者になった新人さんだろ? ……そもそも女の人じゃないか」

「しっ! 静かに! 聞こえないから!」


 まったく、いったいなんなんだ。シーフの奇っ怪な行動に呆れながら、僕もついつい聞き耳をたててしまう。


「キュイ!」


 勇者の肩に乗ったスライムが鋭く鳴いた。ゆっくり近づく魔法使いちゃんに気がついて警戒したのかも知れない。そして少しの沈黙の後、魔法使いちゃんの口から信じられない言葉が飛び出した。


「私とパーティーを組んでください!!」


 えっと、聞き間違い? いや、でも二人は嬉しそうに手を繋いでるじゃないか。


 嘘だろ、これが秘策? 僕たちのパーティーを抜けて、新しいパーティーに入ろうってのかよ。

 僕に相談するってのはこのことだったのか? 僕とのパーティーを解消したら、村を出たときの約束を破ってしまうんだから、口裏を合わせようってことなのか?


「そんな、そんなこと……」


 いや、そんなはずはない。生まれてからずっと一緒に過ごしてきたんだ。僕が一番魔法使いちゃんを知っている。

 彼女は人を裏切るような子じゃない。もしかして、あの勇者とやらに騙されてるんじゃないか?


 そんな怒りがふつふつと沸いてきたその時、勇者の視線が僕を射ぬいた。背中に悪寒が走る。これだけ離れているし、僕も窓に半身を隠しているというのに、なんで気づかれたんだろう。


 あれはきっと普通の人間じゃないよ。このままじゃ魔法使いちゃんが危険な目に会うかもしれない。


「……助けないと。なあ、シーフ……あれ? シーフ?」


 いつの間にか、シーフの奴はいなくなっていた。気まぐれなのはいつもの事だが、なにもこんな時まで……


 いや、僕一人でもいい。僕一人でも彼女を助けるんだ。

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