Fランク冒険者、弓使いの決意①
「よぅし、今日はこんなもんかな」
僕は三羽のウサギを縄で吊るすと、首にナイフを入れ血抜きを始めた。組んでいたパーティーが休止中のため、あまり魔物のいないスタト南の森で狩猟をすることにしたんだ。
Fランクの僕では、実力的にソロでの魔物討伐は危険だ。
それに僕たちは四人組のパーティーなんだけど、そのパーティーで唯一のEランクでリーダーだった戦士の奴が怪我をして動けないもんだから、残りのメンバーだけでの討伐クエストも止めておこうという話になった訳だ。
僕は弓の腕を生かして、野生動物を狩っている。魔物を射るための練習にもなるし、食料も確保できるのだからうってつけだ。
ちなみに、仲間の魔法使いは薬草採取に自信満々だったんだけど、彼女は昔からうっかり屋だから心配だったりする。
もう一人は……元々道楽で冒険者をやってる奴だから生活には困らないと思う。まあ、大丈夫だろう。
リーーン、リーーン
おっと、首に下げた警戒の鈴が鳴り出した。この鈴は魔物の気配を察知すると鳴り出す、僕の家に代々伝わるものだ。
いろいろ考えているうちに、魔物が近づいてきていたみたいだ。しかし、予定してたよりずいぶん遅い時間になってしまった。
街の門が閉まるまでには余裕があるが、今日はこの後に予定がある。時間の約束をしている訳じゃないから、遅れちゃいけない、ってことも無いんだけどさ。
「しっかし、戦士の奴はどれくらいでよくなるんだろ」
あいつが怪我をしてからまだ五日くらいしかたっていないけれど、あいつのことだ、きっとろくなご飯を食べてないだろう。このウサギ肉を手土産に戦士の見舞いに行ってやろうなんて思ってる。
肉も新鮮な方がいいだろうし、門まで急ぐことにしよう。
見舞いの帰り、僕は冒険者ギルドに向かって歩いていた。まあ、目的はギルドじゃなくて晩ご飯を食べに隣の酒場に行くだけだけれど。
それにしても、戦士の家に行って正解だった。怪我をしているというのに金がないからとカビかけたパンばかり食べていたみたいで、僕の持ってきた肉を見てバカみたいにはしゃいでた。
あんなに跳び跳ねたら傷に響くよ、まったく。
なんてさっきの事を思い出しながら歩いているうちに、いつの間にか酒場に着いていた。扉を開けると、賑やかな声が飛んでくる。いつもこの時間は客が多い。
そんな中で一人の見知った女の子の顔を見つけた。向こうも僕を見つけたようで、大きく手をふる。同じパーティーの魔法使いちゃんだ。
「魔法使いちゃんが酒場なんて、珍しいね。なんかいいことでもあった? ……って表情じゃないね」
「そーなんですよ! 聞いてください!」
なんだか変な感じだ。彼女はお酒が飲めないはずだけど……
「薬草が、薬草がないんですよぉ」
「薬草が? 薬草探しなんて、あんなに自信満々だったじゃない」
「ううぅ、そうです。エルフ耳の持ち腐れです……でも、森を探しても薬草はありませんし、最近はもうクエストも張り出されなくなっちゃったんですよ」
今にも泣きそうだ。悪い酔いかたをしているみたいだ。まったく……
「そんなに飲んでちゃ体に悪いよ、魔法使いちゃん」
「何を言ってるんですか! お酒を買うお金なんてありませんよ!」
魔法使いちゃんの前にはお皿が二つとグラスが一つ。皿には冷めきったスープと、見るからに固そうなパンが乗っていて、グラスには……水?
近くを通った給仕さんの顔を見ると、呆れたようにうなずいた。どうやら晩御飯を食べにここにきて、酒場の雰囲気に酔っぱらってしまったみたいだ。
話を聞くと、パーティーを休止してからひとつとしてまともにクエストをクリアできない状況が続き、普段は安い芋でしのいでどうにか暮らしていたみたい。
僕はさっきの給仕さんに耳打ちし、鞄からウサギの肉を取り出した。持って帰って保存食にするつもりだったけれど仕方がない。
体が資本の冒険者だからね。まさか戦士の奴以外に肉を差し入れるとは思ってなかったよ。
「お肉! お肉ですか! お肉ですね! ……ありがとうございます!」
並べられた皿、焼いたウサギ肉を乗せた皿を見て、魔法使いちゃんが涙を浮かべて喜んでいる。ああ、そんなに急いで食べなくても誰も取らないのに。
「ふぅ、すみません弓使いさん。すごく美味しかったです。えへへ、恥ずかしいところを見せてしまいました……」
「いや、美味しかったならいいけど。大丈夫なの? 生活はさ」
「……実は、考えていることがあるんです。秘策です。うまくけばまたマーキク草のクエストを受注できるようになるはずです! このパンもスープも、その前祝いなんです!」
「そ、そう、大丈夫ならいいんだけど」
「決行の時は弓使いさんにも相談するかもしれません。いいですか!」
「いいけど……やっぱりお酒は飲んでないんだよね?」
「飲んでません! 飲むお金がありません!」
「ハァ、どっちにしても心配だし、家まで送るよ」
僕は水だけで酔っぱらった魔法使いちゃんに肩をかして家まで送った。本当に大丈夫なんだろうか。昔から妙に自信ばっかりある子だからなぁ。




