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Fランク冒険者、魔法使いの作戦①

 私は魔法使い、まだまだ駆け出しのFランク冒険者です。

 このあいだ、パーティーで魔物の討伐クエスト中に戦士くんが怪我をしてしまい、今日は一人で薬草採取に来ています。


 ポーションの原材料である薬草の『マーキク草』を採取するクエストは、ギルドから定期的に依頼される低ランク冒険者向けのものです。

 森の浅い場所にも何ヵ所か群生地があるために、その安全性と引き換えにあまり報酬の良いものではありません。


 私がこのクエストを受けているのは二つ理由があります。

 一つは、魔法使いという職業は魔力が切れたら戦闘ができないために、一人での魔物狩りに向いていないこと。そしてもう一つは、人間よりも長い自慢の耳が理由です。


 森を抜ける風を肌に感じ、微かに揺れる葉の音を聞き分け、益となる野草や木の実をかぎ分ける鼻を持つ。私は何を隠そう森の隣人エルフなのです。なのですが……


「マーキク草が全然見つかりません……」


 思わずため息が出てしまいます。


 心許ない生活費に充てるために、ここ何日か連続で得意なクエストを受けたのは良かったのですが、私の知っているいくつかの群生地も、まるで苅り尽くされてしまったかのようにさっぱり見つけられないのです。


 今日は二つの太陽が共に輝いている両太陽の日。魔物が大人しい今日こそは、長い時間探索をしてたくさんマーキク草を摘んで帰ろう! と意気込んでいただけに、収穫ゼロがなんとも情けないのです。


「これではエルフ耳の持ち腐れです。うう、一角熊(イッカクグマ)が恨めしいです……」


 推奨討伐ランクの高い魔物である一角熊。

 普段は出現しないはずの場所に現れたせいで、私達を逃がすために戦士くんは怪我をしました。


 その怪我がなければ報酬の良い魔物討伐クエストが出来て、お金の心配もする必要が無かったのです。

 体を張って助けてくれた戦士くんには感謝していますが、そもそも彼が調子に乗って普段いかないエリアまで足を踏み込んだのが原因なのです。

 それでここ数日は毎日芋しか食べられていないのですから、少しくらいの恨み言も出てしまうというものです。


 朝から探してこの有り様では、今日はもう見つかる気がしません。またクエスト失敗の報告をするのは辛いですが、町に戻る事にします。

 小さくため息をついて、立ち上がって一歩踏み出したその時でした。


ビリィィ!


 腰のあたりから嫌な音がしました。

 恐る恐る振り返ると、そこには脇の茂みから一本だけ鋭く飛び出た枝と、それに引っかかる黒い布が見えました。

 どうやら身に着けていたマントをひっかけてしまったようです。恨み言を言った私に神様が罰を与えたのかもしれません。


 お金はありませんが、街の装備屋さんに修理をお願いするしかありません。特殊な魔法効果が付与されたマントなので、私が手縫いをしてもただの黒い布にしかならないのです。


「戦士くん、早く良くなって欲しいです……」


 切実です。心からの呟きなのです。ワガママかもしれません。それでも私は粉っぽい芋ではなく、バターたっぷりのパンが食べたいのです。


 とぼとぼと重い足取りで森を抜けると、目の前に大きな門が見えました。私たちパーティーが活動拠点にしてる、駆け出しの街スタトへの入口の門です。

 門を抜けてすぐに冒険者ギルドの建物が見えます。今日も『マーキク草は一本も取れませんでした』という悲しい報告をしなければいけません。


「はぁ……」


 扉を開ける手にも力が入りませんが、それでも報告は報告です。受付さんはいつも通りの笑顔を見せてくれるでしょうが、それに甘えてはいけません。

 薬草採取のクエストが無理なら、パーティー仲間の弓使いくんかシーフちゃんを誘ってスライムでも倒しに行くことにしましょう。


 そう考えて一つ気合を入れなおして、扉をそっと開いた時に、中から大きな声が聞こえて来ました。

 それは、いつも私たちのクエストの受付をしてくれる女性のものでした。


「こんなにたくさん、いったいどうしたんですか!?」


 受付さんの取り乱した声なんて初めて聴きました。

 何かトラブルがあったのかと急いでギルドの中へ入ったのですが、そこに映った光景に私は思わず固まってしまいました。


 マーキク草の山。薬草の青々とした香りがギルドの入口まで届いてくるほどの、大量のマーキク草がそこに積み上げられていたのです。

 そしてその傍らには、肩にスライムを乗せた一人の女性が立っていました。


「うふふ、スライムちゃんたちが頑張ってくれたの」


 そう明るく笑う女性は、肩に乗ったスライムをやさしく撫でました。

 すらりとした長身に、腰まである濡れたような長い黒髪。白に統一された軽装の中で、左手にもった鉄製の丸盾が出す重量感だけが、少しミスマッチに映ります。


「さすが勇者様! 他の冒険者の方々が半月かけて集める量ですよ! これでしばらくポーションの在庫に困ることはありませんね!」


 嬉しそうに手を合わせる受付さんの輝く笑顔と、やさしく微笑む勇者と呼ばれた女性を見て、私は体中の力が抜けていく思いです。

 うう、と思わず声が漏れてしまいました。


「あの勇者様がこの辺りのマーキク草を全部持ってきてしまったのですね。見つからないわけです。…ああ、昨日も一昨日も必死に森の中を探した時間はなんだったのでしょう」


 全てのマーキク草の換金を終えた勇者様と入れ違いに、私は受付さんへクエスト失敗の報告をしました。

 受付さんは私の表情を見て察したようで、少し気まずそうに淡々と書類に報告内容を記入しているようでした。

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