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9話 この馬鹿野郎!

「ふう……」

 

 ようやく一息をつく。

 俺は変わらずベットの上にいるが、ティリアスはこの場にはいない。

 先ほど夕食の買い物に行ってくると言って離れていったが、実際の所、本当に買い物がしたいのかは微妙な所だ。

 ざっと見まわしたところ、食料品はありそうだったから、おそらく一人になる時間をくれたのだろう。

 やれやれ、気遣いが染みるぜ。

 

「さて、もう少し話してもらうぜトゥールー」

 

『はい、マスターであれば何年だって会話出来ます』

 

「時間とか日じゃなくて年なのか……まあ、それは置いておいて、改めて確認したいんだが、お前は俺の固有武想である、真と偽の境界剣ライズアンドトゥルースの人格、AIみたいなものって事で良いんだな?」

 

 ほんの確認のつもりだった。

 念のため、という事でそこに意識は全くなかったのだから、その返答に俺は思わず答えを窮してしまう。

 

『確認。無知で申し訳ありませんマスター。AI(・・)とはなんでしょうか?』

 

「え、お前、AIで通じないのか?」

 

『はい、大変恥ずかしながら……』

 

 今まで、言葉が通じないという事はなかった。

 実際に今、このトゥールーとも普通に話しているし意思疎通もできている。

 

 だが、AIを知らない、わからないと言っているのは、不思議だ。

 門番のヘイに会った時、パスポートというこの世界に存在しないであろう言葉でも問題なく相手に伝わった。

 だから、俺の言葉は自動で翻訳されているものかと思っていたが……このトゥールーだけ例外なのか? 一体それは何故か……いや、今考えてもわかりそうにないな。

 

「人工知能って言ってもわからんよなあ。まあ、とりあえずはいい。お前はこの剣の人格なんだな? いうなれば、この剣そのものというか」

 

『肯定。このトゥールーはマスターによって生み出され、マスターの為に存在します』

 

「なんかお前の言葉ちょいちょい重く感じるんだよな……んで、本題だが、俺が死んだ時(・・・・・・)を覚えているか?」

 

 うっすらとした記憶。今にも消えそうな残滓にも似た記憶の欠片だが。

 

 確かに、俺は覚えている。

 何かを力で葬った事を。

 身体に纏った黒いナニカを。

 

 それが、怪しく危険な力でも、強力な力であれば、手掛かりとして、選択肢として知っておきたい。

 ……単純に同じように死んだ時、同じことが起きるかわからないからな。

 流石に真偽を確かめるために自殺はしたくない。

 

『……いえ、トゥールーが目覚めたのは、マスターが本日、目覚めた時からですのでわかりかねます』

 

「そう、か。それなら、まあそれでいい」

 

 落胆半分安堵半分といった所だろうか。

 知れなかったのは少し痛いが、逆に、アレは宛てにしないほうがいい気がする。

 だから知れなかったのは、なんとなく良かったようでもある。

 

「なら、共鳴は知っているか?」

 

 先ほど聞いた言葉、共鳴。

 武器そのものと話せるなら手っ取り早い。

 

『共鳴、はい。固有武想との共鳴ですね。それはわかります』

 

 お、それなら希望が見える。

 

「強くなるにはそれしかないらしいが、どうすればいい?」

 

『共鳴は固有武想との結びつきが必要になります。本来であれば戦いを重ねる事で意識を同調させていくものですが、今回はトゥールーがいます。なので、最も効率的な手段は一つです』

 

 ほう、別ルートがあるのか。

 なんだろうか、会話でも重ねるのだろうか。暴露トークとかだろうか。

 

 

 

『性行為です』

 

 

 

 

「…………すまん、なんだって?」

 

 

『性行為です』

 

 

 なにいってんだこいつ。壊れたか。サポートに連絡しなきゃいかんな。

 

「はー……一応聞くけど、誰と、どうやって、性行為をするって?」

 

『本来であれば勿論トゥールーがお相手致しますが、非常に誠に残念至極ですが生体がございませんので……』

 

 悔しそうな声をした後、はっきりと言った。

 

『トゥールーで自慰行為をしてください』

 

 

 

「……あんだって?」

 

『トゥールーで自慰行為をしてください』

 

 いかん。頭が痛くなってきた。

 チンパンジー並みに知能が下がっていく様な、そんな気分だ。

 

 性行為の後は自慰行為と来たか。

 いつからこの異世界転生はエロゲーや官能小説の世界に転生してしまったんだ。

 

「お前身体無いって言ったよな。……それでどうしろと」

 

『仕方ありませんので、武想にお願い致します』

 

 武想って、この剣だよな。

 ……この、剣だよな?

 

「お前はこの剣でおな……自慰行為をしろと?」

 

『やむを得ません』

 

「やむ得るわ馬鹿野郎が!!!!!! どんな特殊性癖だこの野郎が!! 冗談も大概にしやがれ!! 万一本当でもそんな事はしねえし出来ねえわバーーーカ!!」

 

『あう! た、叩き付けないで下さいマスター』

 

 手に持った真と偽の境界剣ライズアンドトゥルース……長いからもう剣でいいコイツを床に叩きつける。

 ばんっと一度はねた後カラカラと音を立てて地面に横たわる姿を見ながら俺は息荒くしながら舌打ちをした。

 

 冗談じゃねえ。そんなことできるか。

 捨てても良い恥と捨てちゃいけない恥があるんだぞ。

 超えちゃいけないライン考えろや!

 

 

「却下だ。大却下! 別の方法を考えろ!」

 

『……であれば慣れて頂くしかありません』

 

「慣れるってお前の変態的挙動にか?」

 

『違います。固有能力、ああ今はポテンシャルと言うのでしたか。その武想の能力を使って身体に慣らせるという事です』

 

「ポテンシャルねえ、確か、えっとなんだっけ。無象……」

 

『無象切断ですマスター』

 

「微妙に言いずらいんだよなそれ、それを使えばいいってことか? とりあえず火を起こしてスパスパ切ってりゃいいのか?」

 

『い、いえ、流石にそれでは……そうですね、一番良いのは魔法を斬る事だと思います』

 

「的あてになれって言う事か?」

 

 好きなだけ俺に魔法を打ってくれと言うのか?

 ドSは喜びそうだが。

 

『それは極端ですが、まずは使用してマスター自身が固有武想を理解する必要があります。何ができて、何ができないのか、そういった理解を』

 

 とある錬金術師もそんな事を言うけどさ。理解、分解、再構築だったか。

 言いたい事はわかる。結局のところ、俺はこの剣を一度も使っていない。

 ぶんぶん振るったのを使うとは言わないだろう。

 

 と、そこで一つ思い出す。

 あの時の会話で、なんかコイツ変なこと言っていたよな。

 

「そういえばお前アルトリウスがなんとかって言ってなかったか?」

 

『はい、【真なる白夜の王(アルトリウス)】。マスターの戦闘形態です』

 

「戦闘形態? なんだ、姿形でも変わるのか……?」

 

『鎧を着る、と言う方が想像に近いかと』

 

「ふうん。それは使えるのか? どれぐらい強くなる?」

 

 ちなみに剣は地面に横たわったまま会話をしている。

 別に手から離れても問題ないのかこれ。

 今度から家におきっぱか、消しておこうかな、うるさいし。

 

『ええ、使用するのであればいつでも。強さは、そうですね……比較対象が出てこないので難しいですけれども』

 

 少し考えこむ。

 こういう所は人間っぽいんだよな。

 というか本当コイツはなんなんだろうか。剣の人格にして愉快すぎないか?

 ……固有武想って、自分自身だっけか。

 

 俺ってこんな一面があるってことなのか?

 いや、地味にショックだ。

 

 そんな詮無い事を考えていた所にトゥールーがようやく答えが出たのか、その言葉を口にする。

 ……予想以上の、衝撃を。

 

 

 

 

『ドラゴン程度(・・)であれば、余裕かと』

 

 

 その答えに一瞬だけ息をのんだ。

 ドラゴン、と言われて頭に浮かぶのはあのアメジスタだ。

 鱗を貰った、あの優しきドラゴン。

 

 それを余裕、だと。

 

 ……いいじゃないか。わくわくさせるね。

 

「その話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか」

 

 俺はきっとその時、あくどい顔をしていただろう。

 そう、もしかしたら。

 

 

 今すぐにでも、目標を達成できるかもしれないのだから。

 【TIPS】

 ドラゴン。竜とも呼称される。

 数多くの種類が存在し、地竜や水竜とも呼ばれたりするものの、そのどれもが強大な力を持つ存在。

 多くは知性を持っているため、討伐対象になることは少ないが、自種族以外を見下す傾向があり、人里などに襲ってくる竜は悪竜と呼ばれ、多大な犠牲を元に討伐された実績もある。

 一人倒すだけでドラゴンスレイヤーと呼ばれる程の名声を得るが、つまりはそれだけ危険かつ強大な存在である。

 なお、竜が長年生きることで竜種の中では龍と呼称されるらしい。

 龍に至っては現在観測されている限りたったの4人であり、その力は国を軽く滅ぼせるという。

 もし出会った場合は畏敬の念をもって対応する必要があるだろう。決して軽んじてはいけない。

 ───「はっくしょん! む、湖につかりすぎたかの」「くしゅん。うう……寒いの」

   「へっくしょい! ああん、風邪かあ!?」  「む、出そうで出ない感なのにゃ」

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