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53話 こわくないよ

 ドゴンと音がして地面に着地する。

 ……こ、怖かった。ちょっと高く上に行き過ぎたわ。

 この技は封印だな。

 

 しかし足も特に傷んでないし、凄いなアルトリウス。

 

「空中に逃げるとはこのマキナも驚いた。そして降りる方法が落下とはたまげた」

 

「ここぞとばかりにお前は……ティリアスは?」

 

 一応アグリシアとは言っても手加減して撃ったはずだ。

 それなりの威力はあるが消し飛ばす様な威力はない。

 こっちは事前に試してあるからな、だからこそ躊躇なく撃ったんだが。

 

「あれだよー」

 

 アルマダが指を指した後を見れば。

 

「……俺の目が正しければ立ったまま気絶してね?」

 

「いやーなんかめっちゃ頑張ってあの光の龍と戦ってたんだけど、相打ちでさ、しかも力を使い果たしたみたいで、いやいや、あの拮抗した勝負は熱かった」

 

 こっちは寒かったけどな。

 地上ではそんな戦いが繰り広げられていたのか。

 

「全く、使えばいいのに……」

 

「ん? アルマダ、なんか言ったか?」

 

「なんでもないよーそれよりあのままにしておけないし、ティリアスを起こしてくるねー」

 

 そう言ってティリアスの元に走っていく。

 ゆさゆさと肩を揺さぶっているな。

 お、目覚めたみたいだ。動き出してちょっと会話した後こちらに向かってくる。

 

「………………っ!」

 

「無言の涙目で見つめるなよ……言われたことは守ってるぞ」

 

 そうはいいつつ、流石にちょっとずるいなと考えていた俺も強くは言えない。

 目線をそらしてそう回答するのが精一杯だった。

 

 その時だった。

 突然、俺の前に光が集まりだす。

 

「な、なんだ!?」

 

「転送光!? ご主人様、下がって!」

 

「なんだ転送光って!」

 

「瞬間移動する先に出来る魔法の光! 誰かがここに転移してくるってこと!」

 

 その言葉で一瞬で全員が戦闘態勢に入る。

 光が段々と強くなり、収束していくと。

 

 

 ころんと、転がった。

 ……?

 

 全員が目を合わせる。

 

「……これは」

 

「ええっと、これは」

 

「んーこれって」

 

「あーあー知ってるこれ」

 

 

 そして全員が声を揃えた。

 

 

「「「「卵だ(ね)」」」

 

 

 突然目の前に現れた卵。

 ……いや本当になんでだよ。

 

「この卵は一体何だ……食えば良いのか?」

 

「いや流石にそれは……しかし本当不思議ですね。というか、真っ黒い卵って初めてみました」

 

 そう、この卵は黒かった。

 普通は白だと思うが、なんで黒なんだろうな。腐ってる、というわけじゃないよな?

 

「ふむ……硬いな」

 

 コンコンと軽く叩いてみるがかなり硬い。

 鉄の様だ、撫でてみるも暖かさは無い。

 

「……やはり食用か?」

 

「いや、うん、多分違うよ。うーん、でも転移か。どっちなんだろうね」

 

 と、そこで気になる事を言ったアルマダに対して俺は振り向きつつ質問する。

 

「どっちって言うのはどういう意味だ?」

 

「転移してきたのか、転移されてきたのか、どっちかなって」

 

 なるほど。

 

「卵が自分でってありうるか?」

 

「う、うーん。自信はないけど……ある、の、かな?」

 

 めちゃくちゃ歯切れが悪い。

 

「……どうする?」

 

 そういった俺に対して全員が微妙な顔をした。

 いや、正直厄介な香りがバリバリするからな。

 放置していきたい気持ちもある。

 

「生きているんですよね?」

 

「感触からはわからんな、マキナ、わからんか?」

 

「ほいほい? えっとねー……んー多分生きていると思うよ。ただ殻が厚いのかなんなのか、中の様子まではわからないね」

 

 レーダーとかサーモグラフィーみたいなのものねえかなって適当に言ったが意外にも回答があった。

 しかし生きているのか。

 

「よし、置いていこう」

 

「ええええ!?」

 

「いや、確実にヤバイ代物だぞ。わざわざ転移で送られてきたのかわからんが、放置しておくのが一番だ」

 

「そのヤバイのを街近くに放置はマズイんじゃ…‥」

 

 仁義に厚いティリアスは放置という手段は気に入らないようだ。

 

「ならティリアス拾うか?」

 

「う、うーん、結構大きいですね……いたっ」

 

 どこぞのモンスターを狩るゲームに出てきそうな程の卵だからな。

 一抱えはある卵を触ろうとしたティリアスが手を引っ込める様子を見て少し驚く。

 

「どうした、静電気か?」

 

「い、いえ、何か弾かれたような……」

 

「ふむ? よし、アルマダ触ってみろ」

 

「ボク? はーい……あ、ちょっとバチって弾かれるね」

 

 アルマダもか。

 

「次はあたしか。おらぁ!!!! …………ふむ」

 

 お、マキナはセーフなのか。

 そのまま卵を撫で回す。

 

「痛覚をカットすればこんなものよ」

 

「馬鹿野郎はずせ」

 

「あ、来るね、結構痛くない? いや、ほんと痛くない?」

 

 拒否率が高いのかね?

 ふむ、俺は触ってもなんともない。

 むしろなんか喜んでいるような……。

 

「よりヤバみがましたんだが?」

 

 真顔で俺は振り向いた。そして全員が真っ直ぐ頷く。

 

「ご主人様以外お断りって事なのかな? ってことはこの子か、他の誰かはユウに対して転移をしたって事になるのかな」

 

「貰い物を受ける様な心当たりはないぞ……」

 

 しばし考えて俺は。

 

「やはり置いていこう。それが一番だ」

 

 危険物触るべからず。

 触らぬ神に祟り無し。

 

 そう思い俺達は卵を後にした。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ねぇ」

 

「言うな」

 

 俺達は無言のまま歩いている。

 近い入口ではなく、離れた入り口の方へ。

 

「……あ、あの」

 

「言うな」

 

「いや、あのさ」

 

「言うんじゃねえ……」

 

 

 

 ごろごろ……ごろごろ……

 

「背後からナニカ転がってる音が聞こえるんですけど」

 

「……なんだろうな」

 

「振り向いてみたらどうでしょう?」

 

「ははは、ならティリアス振り向けよ」

 

 ……ごろごろと後ろから聞こえてくる。

 声とかではなく、ただの音だ。

 

 ただ丸いものが転がってくる様な音が聞こえるだけで何を皆そんな恐怖に満ちた様な顔をしているんだ。


「わかりました。絶対ヤバイやつです」

 

 まあもしも。

 もしもだ。

 

 後ろから卵がな? 追ってきているとすればな?

 なんで卵が動くんですって話になるよな?

 

 怖いな?

 

「……アルトリウス起動! 俺は先に行くっ! じゃあなお前らああっ! ちょ、はな、離せ、離せー! 離せや!」

 

「ど、どこいくんですか! やめてくださいよ! ほ、ほら! ユウがどこかに行くのを感じ取ってか後ろの音が激しくなってきたじゃないですか!」

 

「そういうお前らも歩くから走るになってるじゃねえか!」

 

 ごろごろごろごろごろ。

 

 

「あ、あのさあ、流石にこのまま戻るのはマズイんじゃない?」

 

「よし、転移だアルマダ」

 

「い、いいけど……」

 

 歯切れ悪くアルマダは少し申し訳ない様な顔をして言った。

 

「……あの卵、転移して来たんだよね?」

 

「……」

 

 これは、あれか。

 

 にげられないってやつか。

 

 くそ、ただの卵だろ!

 何も怖いことなんてねえ!

 

 ぐるりと意を決して後ろを振り向く。

 

 

 眼の前には黒い卵が飛びかかってきていた。 

 

「うおおおおお!? お、思わずキャッチしちまったぜ、一体なんなんだこの卵は」

 

 うっかりといえばいいのか、反射的といえばいいのかわからないが、突然眼の前に飛んできた卵をそのままキャッチしてしまう。

 ……なんか微妙に生暖かいんだけど。

 

「あのそれ、生きているんですよね?」

 

「ティリアス、転移をしてきて動き回って飛びはねる様な動きをしているのに死んでたらそれはそれで怖いと思うんだアタシ」

 

「ま、まあ確かにそうですけど、そうじゃなくてですね」

 

 言いたいことはわかる。

 中に誰か居るかと言うことだろう。具体的には子供的な、幼生的なのだ。

 

 というか、結構重い。ずっしり重い。

 並の卵ではない。まあ大きいからそれなりの重量はあるだろうとは思っていたが。

 なんというか、思っていたよりも重いというか中身が詰まってると言うか。

 

「あの……」

 

「言うな。  言うな」

 

 手に持った卵が嬉しそうに跳ねるなんてあるわけ無いだろ。

 挙げ句に左右に揺れた後、猫みたいに俺の胸にこすりつけて来るなんて。

 

「すごいねファンタジー」

 

「お前だけには言われたくないと思うぞSF」

 

 機械の身体をしているお前はある意味一番この世界から外れた存在だぞ。

 

「しかし、どうするかね。……よいしょっと」

 

 卵を地面においてみる。

 その状態で後ろ歩きをしてみると。

 

「着いてきてますね」

 

「わー付いてきてるね」

 

「こりゃ憑いてますわ」

 

 他人事のようにそんな事を言う三馬鹿。

 黒い卵はごろごろと転がって俺の後を着いてきていた。

 ぴたりと止まると、そのまま足元まで転がってくる。

 見た目を考慮しなければ人懐っこい猫のようだが、その見た目が問題すぎる。

 

「なあ、何でいきなり卵がとか、どうして着いてくるんだとか、どうして懐いている風なのかとか言いたいことはあるんだが一つだけ確認させて欲しいんだが」

 

 なんだろうと首をかしげる三人に向き合あって俺はただこれだけは確認したかった。

 

「黒い卵って、ヤバいか?」

 

「ヤバいとは、どういうことでしょうか?」

 

 ティリアスが言葉の意味を考えるように質問する。

 それに俺は頷いて返した。

 

「つまりは黒い卵からは恐ろしい生き物が生まれるとか。めちゃくちゃ簡単に言うと黒い卵からなにが生まれるか知っているかって事だ」

 

「ええと、そうですね。その、黒い卵は見たことも聞いたこともなくて……」

 

「そうか、次、アルマダは?」

 

「うーん、そもそも卵生の生物自体が少ないからね。卵生といえば……あっ」

 

 おい、なんだそのあっは。

 不安になるだろうがやめろ。

【TIPS】

各種族の子供の生まれ方は基本的には人間と同じことが多い。

中には自らの命を持って転生したり、生物に産み付けて栄養を吸い上げたりと恐ろしい生き物も存在する。

卵で生まれてくる種族もいなくはないが、頭に浮かばない程度には希少である。

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