4話 これはフラグ
「ぜーぜー……よ、ようやく門が見えた。ってか見えてから大分走ったけどな!」
息を整えながら俺は巨大な門の前にようやく立つことが出来た。
城の様に巨大な門にから左右に白い煉瓦で出来た壁がずっと続いて街を覆っているようだ。
「む、そこの君、観光かね?」
と、声をかけてきたのは門横で待機していた一人の男だ。
門番だろうかと思うが、それにしてはちょっと軽装だ。
鎧や兜を来ているわけでもなく、普段着のような軽い格好。
よくゲームとかで見る重兵士ではなく、剣や槍のような武器をもっていない。
「ええっと、そうです。ここが、レイヴェルトですか?」
「ああ、やはり観光か。ならばこれを言っておかないとな。……ようこそ、冒険と美食の街、レイヴェルトへ」
にかっと綺麗な歯を見せながらそう答えた男。
歳は30ぐらいだろうか、坊主頭、といっても髪はあるが、かなりショートに切っている。
「おっと、俺はヘイ。ヘイ・ドナールだ。ここの門番の纏め役、そう隊長さ!」
きりっとポーズを決めるヘイ。
中々に愉快な人だ。
「なるほど……俺は悠! 観光者にして、そう旅人さ!」
「お、ノリがいいじゃないか! 宜しくなユウ!」
握手を交わす。力は結構強かった。
しかしアメジスタもそうだけどちょっとだけ悠のニュアンスが違うんだよな。
こう、youって感じ?
「ところでこれって普通に中に入って良いのか? こう、身体検査とか入門証とかパスポートはいらない?」
「ははは! 大丈夫だ、そういった物はいらないよ。まあ、商人とかで馬車に乗せてくるようならば検査も有るが一人だけであれば特にそういった証も必要ないさ!」
そう言って笑うヘイ。
その中で俺は一つ、確証を得た。
アメジスタだけではなく、普通の人間にも言葉の意味合いは通じるらしい。
この世界の人間にパスポートと言う言葉も意味も通じるはずはないのに、意味合いを理解して会話できている。
……これが異世界転生の特典なのか? とも思うが。
とはいえ、うっかり言葉を漏らして怪しまれる事はなくなったのは嬉しい所だ。
ぽろっと妙な事を口走って異端者め! 殺してやる! という自体は避けたいところだからな。
「なら良かった。ああ、そうだ。サークルって所に行きたいんだが……あ、いやその前にあれか、ええっと、こういったものを換金したいんだがどこに行けばいい?」
そう言って俺はアメジスタから貰った鱗をポケットから取り出す。
せっかく貰ったので取っておきたい気持ちはあるが、なにせ今は無一文。
宿に泊まることも物を食べることも出来ないのであれば、流石に売るしか無い。
「っ!! 馬鹿野郎! 隠せ!」
予想もしていない厳しい顔で俺の手を無理やり握らせて包んで鱗を隠す。
その後キョロキョロと周囲を見回した後、大きなため息を吐いたと思うと目線を厳しくして俺に詰め寄った。
「どこでどう手に入れたか知らんが……そんな超貴重品をこんな表で出すな。奪われても知らんぞ」
「あ、ああ……悪かったよ」
その真剣な眼差しに俺は頷くことしか出来なかった。
ささやくような小さな声はほかを警戒してだろう。
微妙な心遣いがにくいところだ。
「ったく、俺が美人の嫁を持ってなかったら奪っていたところだぞ」
「それ関連性が有るんですかねえ?」
「あるさ、俺が幸せだってことだからな。人から幸せを奪う必要がない!」
堂々とそう告げる。
俺の嫁さんはな、と自慢話が始まりそうな前振りをしたので俺はそれよりさっきの質問に答えてくれと回答するとすごく残念な顔をした。
どれだけ嫁自慢がしたいんだよ。
「うーん。普通なら素材屋だろうな。ただ、普通の素材屋じゃそれを買い取ってくれないだろうな」
「買い取ってもらえないのか?」
「価値が知らんようだから言っておくが、それあの龍のだろ? めちゃめちゃ価値が高い、それこそ俺が自慢の」
「わかったわかった! あんたの嫁さんはわかったから、それならどこで売ればいい? ってか素材屋ってなんだ?」
素材屋も知らんのか、という様な顔をされた。
「その名の通り、素材を売ったり買ったり出来る店だ。素材ってのは、お前の持っているソレとか牙とか、まあ、そういった素材だ」
素材しか伝わってこないが、意味合いはわかる。
竜の鱗とか、会った中で言うならあのワーウルフの毛皮とか牙とかそういったゲーム的な素材だろう。
「が、それを買い取れる程の店となると……ま、ギルドだろうな」
「ギルド!」
出たぜ、ギルド。
異世界にはありがちかつ王道なギルド。
くくく、これはSSSランクを目指すしか無いだろう。
……いやランク制度があるかどうかも知らないのだが。
「この門をまっすぐ行くと大噴水がある。そこから右の大通りに行けばデカイ建物がある。そこにレイヴェルトギルドと書いた看板があるからそこに入ればいい。文字は、読めるよな?」
亜人種だけじゃなくたまにいるんだ、文字が読めないやつがと愚痴る。
亜人種というのに興味はあるが、ギルドという光には勝てなかったので話を進めることにした。
「ええっと……大丈夫です」
来るときに門の上に書いてあったレイヴェルド、という文字が読めた事を思い出す。
言葉だけでなく、文字も大丈夫らしい。
たまに文字は読めないパターンも有るからこれは助かる。
……書く方はどうなんだろうかと思うが、それは後で試すことにしよう。
ギルドに行けば何らか書くことになるだろう。
冒険者登録のようなものとかな!
「そうか、ならギルドに着いたら受付嬢に素材を売りたい言えば対応してくれるだろう。嫁には負けるが中々の美人揃いだから期待すると良い。ちなみに『儀礼場』もギルドにあるぞ。ただこっちは金がかかるから、先に換金してからだな。しかし錬金術師には見えないが、『儀礼場』に何の用があるんだ?」
サークルとやらは錬金術師が使うのか。
……あれ、なんでサークルなんだろうか。俺も詳しい事は聞いてなかった。
ひょっとしてこの鱗を使って錬成しろってことだろうか。無茶言うな。
「あー、その知り合った人からサークルに行けって言われただけなんで、詳しいことは知らねえんだ」
「……素材屋も知らないって言ってたな。もしかして、もしかしてだが、ユウ。お前『固有武想』をもっていないなんて事はない、よな?」
おう、すごく怪訝な顔をしている。
ん、そう言えばアメジスタが武想顕現がどうとか言ってたな。
もしかしてそれか?
「よくわからないが多分持ってないです」
「まじかよ。お前なんで生きてるんだ?」
「ちょっと酷すぎだろ言い方がよお!」
「いや、だって物心付いた頃から手に入れるべきものだぞ?」
あ、そんな一般レベルなんですか。
「あー、まあ、持ってないならそれだな。『儀礼場』で『固有武想』が手に入れれるから、換金したら即座にいけ。死ぬぞ」
すごい脅しだ。
とはいえ、相当に大事なものらしい。
……それならそうわかり易く言ってくれよ婆ちゃん。
「急いで手に入れることにします」
「そうしとけ、ったく、本当どこの田舎に住んでたんだよ」
うっせ、こちとら都会っ子じゃい。
「固有ってからには人それぞれ違うんだろ? すっごいの手に入れてやるから見とけ」
「ほー。期待してるわ」
鼻で笑うヘイ。
見てろよこの野郎と言いながらもお互い笑って別れる。
なんだかんだ良い人だった。
さて、目的は出来た。
ギルドに行き、換金して、サークルで固有武想とやらを手に入れる。
足取り軽く、期待を胸に俺は思わず走り出していた。
その姿を、何人かが影で隠れて見ているのを知らずに。
【TIPS】
ギルド。正式名称は全国連合戦闘支援団体と言う名前らしいが誰もがギルドと呼ぶ。
ギルドでは素材の買い取りもしているが、素材屋と競合する事は無い。
それは素材屋は一般生活で使用する程度の物。毛皮や糸の危険度の低い物を売り買いする場所でありギルドでは逆に買う事は出来ないが危険度の高い物を買い取ってくれるからである。
だがそれ以上にギルドの重要な役割としては仲間集めが上げられるだろう。
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