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3話 初めての街へ

「寒い!!!!」

 

 当然のことだが上空は冷える。

 風も当たるともなれば、身体が冷えるのは当然の摂理である事は異世界でも同じだった。

 

「しかも滑る!」

 

 青く綺麗な鱗はそれはもう宝石のようだとは例えた。

 だが、その宝石をつかめと言われてもつるっつるに磨かれているのだ。ともなれば全力で鱗と鱗の隙間を掴むぐらいしかないが、風圧でいつ手が離れてしまうのか恐怖でしかない。

 

 いやマジでつかみにくいんだが!?

 つまり結論から言うと、ひどく乗りごこちは悪かった。

 

「え? なんじゃって? 風にまぎれて声が聞こえんのじゃあー 大声で頼むー」

 

 これでも最低速度なんじゃがなーと聞いて戦慄を隠せない。

 百キロ以上は出ているはずだが、これでもこのアメジスタにとっては最低の速度で遊覧速度なのだろう。

 とはいえ、必死に掴みながら見る世界は、正直美しかったと言わざるを得ない。

 

 画面でしか見たことがないような自然。

 窓の外からしか見えない空の景色。

 こちらを見て大慌てで引き返すのようなものたち

 

「……ああ、本当に、異世界なんだな」

 

 わかっていたものの、景色を見て何故か強く実感する。

 ワーウルフやら龍やらに出会っているにもかかわらず、見た景色でここは別世界だと本当に確信してしまうのは、なぜだか自分でもわからないが。

 

「この先には『レイヴェルト』という街がある。わりと大きく、観光地にもなっていて色々な人種が集まっておるからユウでも溶け込めるじゃろう」

 

「レイヴェルト……」

 

「すまんが街の眼の前まで行くと騒ぎなるでなあ。離れたところで下ろすことになるが……」

 

「いや、ありがとう。近くに行けるだけで助かったよ」

 

 実際、空を飛んでいる時間を考えればあの時の選択は正しかっただろう。

 わりと、いやかなり早い速度であったが、それでも結構な時間空を飛んでいた。

 

 つまり一番近い街でもあそこからだとそれなりに距離があるということで、歩いていけば間違いなく野垂れ死にしていただろう。

 

「着いたらまず『儀礼場(サークル)』を探すのじゃ」

 

「サークル?」

 

「『武想顕現(リアライズ)』をするための魔法陣場じゃ。これがないと生きていけんぞー」

 

「ああ、さっきも言ってたな。リアライズってなんなんだ?」

 

「うんむ、改めて説明するとなると難しいの。その人物の固有の武器、というべきか、触媒と言うべきか。簡単に言うと魔法を行使するための道具じゃ」

 

「何一つ簡単じゃないんだが」

 

 専門用語で話すのはやめていただきたい。

 なんとかハラスメントになるぞ。

 

「ああ、すまんすまん。そうなるとどこから話せば良いのやら、それほど時間もないしの。ふむ、ならばこれだけは覚えておくと良い。この世界の名前は『リルベルード』我ら竜種や人類種、人狼族や虫族もおる、数多くの生命が住まう世界。じゃが、その実態は全て『魔法』によって構成された歪な世界じゃ」

 

 少しの怒りと悲しみの色が混ざった口調でアメジスタは言葉を続ける。

 

「『魔法』という才能が全て。それ以外は評価されない、そんな世界じゃ。奪い奪われる、そんな世界じゃよ。ここはな」

 

 今までの話から印象が全く違う、厳しい言葉だった。

 

「アメジスタは」

 

 だからこそなのだろうか。そんな言葉を投げてしまった。

 

「この世界が嫌いなのか?」

 

「……その答えを探してるんじゃないかの、きっとな」

 

 そんな曖昧な回答でも返ってきた事がなんとなく嬉しい。

 きっと触れたくない場所に触れてしまったのだろうと察する程度の空気読み機能は持っている、はずだ。多分。きっと。

 

 しかし世界が嫌いなのか、か。

 とんでもないブーメランを投げつけたもんだぜ。

 

 おっと、思いにふけるのは後だ。

 まずは気になる部分だけでも抑えておかないとまずいだろう。

 

「なあなあ、いま魔法って言ったよな! やっぱりこの世界には魔法があるのか!?」

 

 魔法という甘美な響き。

 現実世界で使えたらどんなに嬉しいかと夢想する理想の力。

 

 使いたい。いや、使えるように絶対にしてやる。

 

「そうか、異世界には魔法はないのじゃったか。我輩からすれば羨ましい世界じゃが、さっきも言ったとおり魔法は有るが、厳しいぞ? 才能がなければな」

 

 才能かあ。どうだろうか。

 現実世界、元の世界といったほうが良いか。元の世界では特にこれと言って才能はなかった。

 

 それが異世界に来たら実は魔法の才能が! というのは正直夢見過ぎだと思ってもいる。

 サッカーができない、でも野球の才能は有るはず! というのと一緒じゃない?

 

 全く使う物が違うのだから、もしかするとチャンスはあるかもしれないが……霊感や直感も全然なかったからなあ。

 異世界から来たって部分がどれだけアドバンテージになるかってところだが。

 

 ……出来れば強い力があってほしいものだ。

 ここでもモブレベルだと流石に悲しくなるぞ。

 

「ん、ああああああ! そうだ!」

 

「んお! 馬鹿者暴れるでない! 落としたらどうするんじゃ全く!」

 

「すまんすまん、そうだよ。アメジスタ、翁って知っているか?」

 

 俺をここに連れてきた元凶。

 最後のセリフは頭に残っている。確か……ラストダンジョンで待っているボスみたいなセリフだった筈だ。

 

「翁?」

 

 少し考えた後、アメジスタはこう答えた。

 

「知らんの。我輩が知らないということは相当知名度はないぞ。伊達に歳をくっているわけではないからの」

 

 ハズレかー。

 ううむ、ならば

 

「アメジスタの目から見て俺は才能ありそう? 魔法の」

 

「む? そうじゃなあ……おっと、そろそろ着く頃じゃ。その問は、自分で見つけるのじゃな」

 

「年上ぶった説教みたいな言い方だなあ」

 

「かっかっか、実際すご~く年上じゃぞ。……ほれ、高度を落とすから良く掴まっておくのじゃ」 

 

 

 

 ゆっくりと降りていくアメジスタ。

 そういえば翼も青色なんだな。めっちゃ綺麗だけど飛行中も全然動かなかったが翼で飛んでいるわけじゃないのか?

 そんな疑問を持ちながらも、アメジスタの背から降りる。

 

 

「この先をしばらく歩けば街がある。デカイ門が有るからすぐわかるじゃろう」

 

「サンキューアメジスタ。助かったよ」

 

「何、我輩も久しぶりにちゃんと人間と喋れて楽しかったぞ。縁があればまた会おうぞ……おっとそうじゃ、折角だし餞別にお土産をやろう」

 

 孫が来た時のお婆ちゃんの様なセリフを吐きながら、肩のあたりに頭を向けると

 

「あいた」

 

 べりっと鱗を剥がした。……痛そうだな。

 それを咥えながら俺の目の前まで持っていくと何度か首を降る。

 

「ふぇをだふぇ」

 

 多分、手を出せって言ってるんだろうな。

 まあ大人しく出そう。

 

「ほいほい……鱗ですな」

 

「【世廻龍せかいりゅう】アメジスタの鱗じゃぞ。貴重品じゃぞ。売って金子に変えるとええじゃろ」

 

 金子(きんす)とはまた古風な言い方をする。手を出した俺の手のひらにぽとりと青い鱗が落とされる。

 手のひらに収まる程度のサイズだが、やはり綺麗だ。宝石みたいだと思えば価値も高いのかもしれない。

 いや、竜の鱗だしな、大概こういうのはいい値段がするものだ。

 ん、というか普通に日本語も英語も通じているんだよな。

 理由はわからんが、まあ便利だから良いか。

 

 

「何から何まで世話になってすまんな。今度何か飯でも奢るよ」

 

「ククク、鱗のお礼が飯か……ああ、期待しておこう。そら行くが良い」

 

 

 首をくいくいと動かして先を急かす。

 俺は手を振りながら歩いてその場を後にする。

 

「若いんじゃから走れ!」

 

「はーい!」

 

 怒鳴りつけられたのでやむなく足を走らせる。

 やれやれ、まあ太陽も少しづつ傾き始めている。

 まだ夕方までは遠いが、歩いていったら夜になるかもしれないからな。

 夜のフィールドは敵が強いのが相場だ、まだ暫定レベル1の俺に勝ち目はない。

 

 ってかこの世界のこと本当まだ知らないんだよな。

 レベル制なのか、スキル制なのか、それ以外なのか。

 

 

 まあ、魔法が有ることは間違いないし、魔法自体に並々ならぬ興味があるのは確かだ。

 

「『儀礼場(サークル)』に、魔法に『武想顕現(リアライズ)』……くそ、わくわくさせるじゃねえか」

 

 その期待感を胸に、俺は走り続けたのだった。

 【TIPS】

「飯にするかの……【龍の威圧】っ!」

 ───湖の真ん中で浮き上がった魚を食べる龍の図

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