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21話 ギルドと新魔法

「ようやっと依頼を受ける気になったんか。いい志や、その調子でウチの名声をあげてってな」

 

 出迎えたのは相変わらず奇妙な関西弁のアリス。

 仮に俺が依頼をこなしてもお前の名声は上がらんと思うんだが。

 

 さて、そんなどうでもいい事はまさしくどうでもいい。

 俺が依頼に来た目的は主に二つだ。

 

 まず金。

 

 そう、気づいてしまったのだ。俺が無一文な事に。

 つまりこのままでは宿もないし食べるものもないのだ。

 

 ティリアスの家に行けば解決するだろう。だがそれはだめだ。

 

 人、それをヒモと呼ぶ!!!

 とまあ、そんな不名誉な称号はごめん被るので少しでも金を稼ぐためには、今の俺に出来る事の中では依頼をこなすしかない。

 

 そしてもう一つ。俺の力を色々試すことだ。

 一足飛びで色々起きたせいかその場その場で対処しすぎて、詳しい力とか使い方が出来ていない。

 その辺の経験を稼ぐために、討伐系の依頼を受けることにしたのだ。

 

「討伐系依頼やな。……初めての依頼なんやろ? 本当に大丈夫か?」

 

「ああ、まあ悪魔や龍以外なら何とかなる」

 

 と思う。最悪はアルマダ呼び出すか。

 使い魔の契約とやらでアルマダを呼び出せるらしいしな。

 

 ……風呂の時に呼び出したらどうなるかね。

 いや、やめておこう。凄く嫌な予感がする。

 

 

「無理はせんといてなーそれじゃ、依頼発令や!」

 

 

 

 

「はい、という事でやってきましたあの森です」

 

 誰に言うまでもなく、そんな独り言を話す。

 いや、俺が受けれる依頼って初心者向けになるからさ、どうしても町の付近になるんだよなあ。

 

 今回受けた依頼は「メタルラット5体討伐」と言うものだ。

 最初に受けた依頼の、まあやり直しだな。

 

「お、いたいた」

 

 銀色の毛並みをした大型犬ぐらいの鼠だ。

 前聞いたかぎりだと別にメタルと言っても固くないらしいが。

 まあ初心者用だしな。

 

 さて、まずは……剣を出すか。

 詠唱をしてっと。

 

「……まあ剣を出しただけじゃ何も変わらんか」

 

 特に俺の見た目に変化はない。

 

「トゥールー?」

 

『はいはいはい何でしょうマスター!』

 

 何故か上機嫌なトゥールー。

 

「お前最近喋らないとき多いよな?」

 

『そ、そんな事ありませんよ。中で色々やってるんです。前も行った力の制御で内助の功ですよ』

 

 うーむ、今いち実感がわかないせいで都合の悪いときは黙っているように思えるんだよなあ。

 しかし最初はクールみたいなイメージだったが今はもう見る影がない。

 

「んで、俺に何か言う事はあるか?」

 

「……今は話せません」

 

「ん、そっか」

 

 回答拒否、ではなく話せないという事がわかっただけでも前進と思おう。

 無理矢理聞き出して答えてくれるかどうかわからんし、差し迫って脅威があるわけじゃないからな。

 

「まあ、いい。じゃあまずは、普通にやるか」

 

 アルトリウスもティルトニクスも使わずに普通に切りかかる。

 ……げ。

 

「おい、この鼠避けるのかよ」

 

『向こうは生き死にかかっていますからね』

 

「むう……くそ、ちょこまかと!」

 

 何度か振ってようやく当たる。

 すぱりと斬れたラットは小さく悲鳴を上げると倒れ伏した。

 若干罪悪感はあるものの、反面仕方ないという気持ちもある。

 

 しかし、酷いもんだ。普通に振って当たると思ったが意外とすばしっこいラットに当たらなかった。

 これが実戦経験が足りないって事か……少しへこむぜ。

 

「んじゃ次はアルトリウスを使うぞ。アルトリウス、起動」

 

 そう言うだけで俺の身体が白い光に包まれる。

 

「よいしょっと……まあこうなるな」

 

 見つけたラットに対して遠くから剣を振るだけで光の刃が飛び出して真っ二つになった。

 今度は問題なく当たった事から、アルトリウスモードはひょっとして剣を振る力、剣術と言うか経験と言うのも上がっているのかもしれない。

 そういえばクラウの時も力が上がってたのか、強化していたし、全体的なバフがかかっている可能性は高いな。

 

「とはいえ、そうなると本来の実力は鼠一匹倒せないという事になるのか、仕方ないとはいえ悲しいな」

 

 異世界に来て数日なので当たり前と言えば当たり前だろうが、完全にこの力におんぶにだっこになっている。

 最悪、固有武想が使えなくなった時を考えると多少は基礎能力も上げたい所ではあるが。

 

「今から素振りして筋力とか鍛えるのと、この力を使いこなすのとって言われるとなあ」

 

 不思議な力で素振りとかしただけでめっちゃ力が上がるという夢物語と数か月掛けて多少の筋力が上がる程度と言う現実話を考えれば、今の力を制御、向上させた方が効率がいいんだよなあ。

 

「さて、トゥールー。この前使ったティルトニクス・エグゼクタだったか。あれは普通に使えるのか?」

 

『肯定。しかし推奨は出来ません』

 

「ん? それはどういうことだ?」

 

『今のマスターでは扱え切れない力ですので、使用する度に身体に負担がかかります』

 

「負担ねえ、どれぐらいの負担があるんだ?」

 

『解説。まず使用後は確実に意識を失います。また、使う度に身体が傷付くため、療養が必要かと』

 

 なるほど、反動があるわけか。

 逆に言うとそれだけって考えもあるが、意識はまずいな。

 誰かがいるときじゃないと後が怖すぎる。

 

「前回使った時はそんなことなかったんだが……」

 

『あの悪魔が回復をしてくれたので』

 

 悪魔、アルマダか。

 あいつそんなことしてくれてたのか。

 

「じゃあアルマダいればいいんじゃねえの?」

 

『……推奨はしません。それでも身体を傷つけるのは確かですので』

 

 ふむ、トゥールーとしては使ってほしくない感じか。

 俺もむやみに使うつもりはない。切り札として取っておくことにしよう。

 

「じゃあ練習として使うのはやめておいた方がいいか。……トゥールー。魔法を二つ教えてもらったが他に何があるんだ?」

 

 追尾+光の龍のアグリシア。反動があるが強力なティルトニクス。

 つまりはそれ以外の魔法。

 

『現状で、マスターが使えるのは後二つかと』

 

 おお、二つもあるのか。十分だ。

 

「んじゃ、教えてくれ」

 

『了解致しました。まず一つ目は【白亜守護陣(ホワイタル)】です』

 

 聞くからに防御系統な感じだな。

 

「ふむ、【白亜守護陣(ホワイタル)】」

 

 唱えると、目の前に白い魔法陣が出現する。

 ……。

 …………?

 

 え? 終わり?

 あ、消えた。5秒ぐらいか。短くない……?

 

「これは防御魔法なんだよな? 多分」

 

『肯定。魔法は勿論、熱や冷気、毒などの追加効果も防ぎます』

 

 わりと高性能だった。

 なるほどな、でも結構目の前に出ると邪魔なんだよな。

 

「【白亜守護陣(ホワイタル)】……む、やはりこっちからの攻撃もだめか」

 

 再度魔法陣を展開した後、その魔法陣に切りかかる。

 白い刃が飛び出し、ぶつかったが魔法陣が防いで刃は消えた。

 大きさは俺を軽々守れるぐらいだから、半径2メートルはあるか?

 

 しかし展開するとこちらから攻撃もできないか。完全に防御用だな。

 ふむ、であれば。

 

「【白亜守護陣(ホワイタル)】【白亜守護陣(ホワイタル)】【白亜守護陣(ホワイタル)】 お、重ね掛けは出来るのか。なるほどなるほど」

 

 複数回唱えた所、最初に唱えた前に更に魔法陣が現れた。三回目はその更に前。

 しかし魔法全般に言えるが、なんとなく力を込めないといけないので単純に早口言葉の様に言えばいいってものではないらしい。

 これも重ねられるとしても、時間を考えると5回が限度だろう。

 が、奥側から消えていくので最後に唱えた魔法陣に魔法が当たって防いでいる間に最初のは時間で消えてしまう。そうなると効率的には悪い。

 

「実用的には、三重がいい所か。まあ防御魔法を覚えられたのは悪くない」

 

 うむ、バランス的にはよくなったな。

 さて、最後の一つはっと。

 

「トゥール、最後の一つは?」

 

『はい。最後の一つはですね……おや』

 

「ん、どうしたトゥールー……あ」

 

 声を止めたトゥールーに疑問を浮かべたが、それはすぐに解消された。

 俺が見た視線の奥、そこに一匹の豚がいたからだ。

 そう、サンドホーン。あの色合い、つやは間違いなく、フニ!

 

「おお! フニ! よかった、巻き込まれてなかったか……フニ?」

 

 そこで俺が戸惑ったのは、そのフニと思われしサンドホーンが警戒をしていたからだろう。

 人違い、いや豚違い? いやそんなことはない、俺の勘も合っていると言っている。

 

「フニ……なあどうした?」

 

 だが、俺が近づくと怯えたように離れていってしまう。

 小さい体で森の中に隠れられては、とても俺も追えない。

 

『ひょっとしてですが……記憶が無いのでは?』

 

「まさか、町の外まで影響があったっていうのか?」

 

『可能性としては十分かと』

 

「…………そうか」

 

 ちくりと、心が痛む。

 大して時間は過ごしてはいないが、それでも消えてしまった、と言う実感が少し悲しい。

 

『……記憶は重要なものから消えていくと言ってました。それなら、マスターとの記憶は重要だった。そういう事でもあります』

 

「なんだ、慰めてくれるのか?」

 

『マスターの結婚相手(パートナー)ですから』

 

「なんかパートナーの意味合いが違う気がするが……ま、ありがとな」

 

 もう姿は見えない。

 ただ、また会う事があれば、その時はまた遊ぼうな、フニ。

 あとアルマダは折檻しておこう。

 

「ふう、気分を変えよう。ラスト一つはなんだ?」

 

 くよくよしていても仕方がない。

 

『もう一つは【精神回帰(リバレース)】です』

 

「ふむ。とりあえずやってみるか。【精神回帰(リバレース)】」

 

 一瞬身体が白く光る。

 が、それっきり何も起きない。


「……なんもかわりないぞ?」

 

『【精神回帰(リバレース)】は精神状態を平常に戻す魔法です。狂気や混乱、洗脳から認識操作まで全てを解除します』

 

「ほお、つまり回復魔法か。中々よさそうな……まて、狂気や混乱や洗脳状態で魔法が発動できるのか?」

 

『…………マスターならなんとか』

 

「ならねえよ! そんな状態になったら自分で治せるわけねえだろうが。くそ、こんなオチかよ! ちなみに、他人には使えるのか?」

 

 一縷の望みをかけて聞いてみる。

 これでだめなら完全にポンコツだ。

 

『勿論、マスターのみです』

 

「はい、解散……はあ、期待して損した」

 

 あーだーこーだー言い始めるトゥールーの言葉を聞き流し、俺はメタルラット狩りに戻った。

 やはりアルトリウスモードであれば余裕だったが、普通の状態だとわりと苦戦した。

 これは特訓が必要だなあ……。

【TIPS】

ぽんこつ

1 自動車の解体。転じて、壊れかかった自動車。また一般に、使い古したり壊れたりしたもの。

2 げんこつで殴ること。また、殴り殺すこと。

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