11話 ずるいずるいずるい!!
「っふ!」
ティリアスが呼気と共に地面を地面を蹴った。
まるで飛ぶように高速で飛び込んでくるティリアスの姿は、地面ぎりぎりで飛ぶ燕の様だ。
リアが地面と平行に動きながらも長刀、アメノムラクモを右に構えた瞬間だった。
「オン、セイテイカラン! 【花一匁】!」
ほぼ無意識のうちに俺は反射的に上へと跳んだ。
自分でも想像出来ないほど高く高く俺は空を跳躍していた。
棒飛びのオリンピックでも優勝できるだろう。
抜刀の速度は凄まじく、俺が飛んだすぐ下を刀が横切ったときは冷や汗が出た。
あ、足を斬られなくてよかった……!
「危ねえな!?」
「しっかり避けておいて何を言いますか。しかし、神速の抜刀を一瞬ですが目で追いましたね……凄まじく良い目と観をお持ちで」
上と下で声のやり取りをするのは不思議な感じだ。
と、そこで更に不思議な事が起こる。
ティリアスのアメノムラクモ……刀で良いか。
刀が光に包まれると白い鞘に収まったのだ。
なんだ、抜刀術かなにかか? 九連撃か更に神速の抜刀術がみれるの?
とと、身体が落下し始めて、ティリアスから少し離れた所に着地した。
少し後ろに向けて跳んだのがよかったな。あのままだと着地硬直を狩られていたかもしれん。
「私だけ固有能力を知っているのも不公平ですね。教えておきましょう。と言っても、大したものではありません。私の固有能力は単純です、『身体能力向上』。効果は、言うまでもないでしょう?」
「ああ、言葉だけで理解できる程に単純だな」
なるほど、先程のコイツアニメキャラかよっていうような動きは身体能力向上のおかげか。
そういえばあのクソ野郎が近接武器を持っても身体能力は上がらないって言ってたしな。
こういう固有能力がないと、近接は確かに難しいか。
でもあの外れとか馬鹿にしたことだけは許さんぞ。
「あの横一閃も、身体能力で放ったのか?」
しかしティリアスはその問いに首を振る。
「いえ、アレは魔法です。東方魔法と呼ばれる物ですよ、詠唱も独特ですし」
確かに、なんだっけ、オンナンマイダとかそんな言葉を放っていたな。
しかし東方か。刀と言い、日本のような国が存在するのだろうか。
それならば是非行ってみたいものだ。
……異世界に行きたいと思っていたのに、実際来ると日本が恋しくなるとはなあ。
早くもホームシックを感じて俺は思わず頭を振るって考えを追い出す。
「それと刀を納めたのは、まあこれはちょっとした誓約でして、一度攻撃すると強制納刀。そういったデメリットがあるんですよ」
ほう、誓約ね。なかなか面白そうな単語じゃないか。
しかし、一撃で納刀は中々につらいデメリットだな。
一匹倒してその後残りの敵にぼこぼこにされそうだ、反動技は弱いって対戦ゲームでは常識だ。小パンを撃って多大な隙ではシャレにならんな。
「次行きますよ。……アノマリソワカ 【天晶壱蘭草】!」
俺の方に走りながらそう言った瞬間、姿が消えた!?
馬鹿な、瞬間移動が出来るだと、なんて技だ!
む!
「上か!!」
「正解っです!」
やべ、地味に刀を振り上げながら高速で落ちてくる。
つーか落ちてくる速度が速いぞ! 重力仕事しすぎだろ!
「対空、迎撃ぃ!!!!」
思いのまま剣を下から掬い上げるように振るう。
光が尾を引いて地面から空へ浮かび上がり、光る斬撃がティリアスに向かう。
先程の素振りで剣を振るうと光の刃のようなものが出るのはわかっていた。
……いやマジで出るとは思わなかったが。
「っぐ! ぐぐぐぐぐぐぐ!! はあぁぁぁ!」
光と刀が空中で鍔迫り合い、烈破の気合と共に刀を振り切る。
「おおう、マジか……光を斬るとかチートかよ……」
俺は何度かバックステップで後ろに下がり、丁度俺がいた位置にティリアスが着地する。
「はぁ、はぁ、チートは、どっちですか。剣振るっただけで、私の魔法と相殺なんて……」
めっちゃ疲れてる。肩で息をしており、少し顔に流れる汗と火照った赤い顔が若干艶めかしいとはとても言えない。
刀はやはり白い鞘に収まっている。
それを考えると着地を襲ったほうが良かったかもしれないが、いかんせんそういった戦いの仕方というか、戦闘の経験値が足りない。
ふむ? 待てよ?
剣を振れば光の刃が飛んでいく?
「良いことを思い付いた」
「……嫌な予感がします」
「秘技! やたらめったら斬り!!!」
「ちょ!?」
ふはははははははは! 適当に、滅茶苦茶に振り回すだけで光の刃が出る! 出るぞ!
「ほらほらほらほらほら!」
「ずるい! ずるいですよそれは!!」
全力で俺から円を描くように逃げるティリアスに向かって剣を振るい続ける。
その度に光の刃が飛び出してティリアスを襲う。まるでガトリングの様だ。
これはずるですわ。
「詠唱も無しでこの威力で遠距離攻撃は本当ずるいです!!」
「いわれるのも止む無しなバグ技なのは俺も思う」
だって剣振ってるだけだもんな。
それで地面がばんばん抉れていく光の刃が飛ぶんだもん。くそげーだわ。
「それ禁止です!!!」
大声でそう叫ばれたので、一度剣を止める。
斬撃の雨あられが止み、足を止めるとがくりと片膝をついて白鞘がついた刀を杖にして息を切らしているティリアス。
なんかく、殺せとか言いそうなポーズだな。
しかし禁止とは……。
「えー……それあり?」
「はあはあ、はあはあ……ふーこのままでは普通に負けますよ……その魔法ずるい」
「ずるいずるい言い過ぎだろ」
俺も使われたら言うけど。
しかし俺の唯一の技が封じられてしまった。
秘技を封じるとはなんというずる。
「ふーむ、トゥールー。他に技はないのか?」
『ありますよ。と言うか、マスター、魔法使ってませんから』
「え? これビームソードって魔法じゃないの?」
『否定します。それは余波みたいなものですよ』
これで余波なの……?
やばいなこの力。ドラゴン程度とか言うだけはあるわ。
「ティリアスーこれ魔法じゃないって。ただの余波だって」
「嘘でしょ……?」
なんかラスボスが全回復したような絶望的な顔をしている。
「んじゃ一番強力な魔法……じゃなくて、そこそこの魔法を教えてくれ」
わかったから必死に首を振って助けを求める顔をするなよ……。
『ではマスター。こう唱えて下さい。【開け光輝の……』
その声を聴く直前だった。
たまたまなのか、何かを察知したのか、ただの勘か。
よくわからない衝動のまま俺は叫んだ。
「離れろティリアス!!!!」
「っつ!!!」
何故、と言う問答無しで一気に後ろに下がったティリアス。
その瞬間、地面が爆発する。
舞い上がる土煙が目に入り、思わず顔をガードする。
……あれ目痛くねえわ。
『白き王モードですので』
まじかよ、白き王アルトリウスすげえな。
っていったいなんだ? 地面に埋まってた地雷でも爆発させたか?
もうもうと立ち込める砂煙が晴れていく。
爆心地に立っていたのは、一つの影。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
……なんすかこの、でっかいトカゲは。
「ち、地竜アドラメルグ……何故こんな所に」
「うお!? おま、ティリアスこそ何故こんな所に!?」
隣にいつの間にか現れたティリアスにビビる俺。
いや、マジでいつからいたんだよ!?
「あの爆音の後、まずいと思ってすぐに砂煙に紛れて大回りで来ました」
判断力すげえな。こういう所が戦闘経験なんだろうか。
「って地竜? アドラメルグ? ドラゴンなのか?」
「ゴゴゴゴゴゴゴ……」
「あの喉を鳴らして威嚇しているトカゲが?」
見た目は完全にトカゲなんだが。
トカゲを巨大化させればああなるだろうって姿だぞ。
色合いも完璧だ。まあ高さが4メートルほどとかなりでかいが。
「私でも勝てるかどうか、と言うレベルですね」
ほう、なるほど。
「俺の秘技やたらめったら斬りで勝てるじゃん」
「もう何も言いません」
わ、悪かったよ……すねんなよ。
ぷいっと横を向いて腕組みをするティリアスの気分をなだめる。
あれ、刀はどうしたんだろうか。いつの間にか消えているが。
いや、腰に差している。ああ、あの腰付近にあった丸い輪っかはそう使うのね。
「そもそも、あのトカゲ倒してもいいんだよな?」
「魔獣だし、構わないわよ」
ほむ、あれなら心を痛めずに倒せそうだ。
やはり可愛いは正義だった。
「ならば倒してしまおう。 秘技! やたらめったら斬り!」
「もう少しカッコいい名前にしませんか……?」
幾十の光の刃がトカゲに向かい、それに気づいてよけようとしたが鈍重な動きでは弾幕のような光の刃は避けきれない。
「オオオオオオオオオ! オオオオオオオ!」
「耐えた、だと……馬鹿な……俺の秘技が」
火力、燃費、密度、速度共に高水準(当社比)の俺の秘技が、効かない……っ?
「いや、結構効いているみたいですけど……」
む、確かに見れば当たった所から血が出ている。
「と言うか、地竜は相当固いはずなんですけど……魔力を纏っていて防御力も高いですし」
自動で防御アップのバフがついているのか。
ドラゴンと言うだけはあってやはりなかなか強いな。
『マスター。もしかしてご自身の固有能力をお忘れでは?』
「む、そういえばなんだっけ、形ないものを斬れる能力があったな。あれ、それってあの光の刃にも適応されるの? と言うか静かだったな、お前」
『肯定です。マスターの能力ですので、当然。静かなのは内部で力の制御していたからですよ。それと、なんでも斬れるというわけではありませんからね、あくまで斬れる様になる力ですので』
完全魔法無効化ってわけじゃないわけね。
しかし内部で力の制御とかちょっとかっこいいじゃねえか。
それならずっと黙っていてもらっても構わんのだが。
「ああああああああああああああああああ!!!」
「うるせぇ! 今度はお前かティリアス!!」
わたわたと慌てだしながら大声を上げるティリアスに思わず怒鳴る。
全く、あのトカゲが声にビビッてこっちに来たらどうするんだ。
幸いにも動いてこないでじっとしているみたいだが。
……ん、なんか緑色の光に覆われてね? あいつ。
「そういえば貴方の固有能力で魔法貫通するじゃないですか!!」
「……おお、そういえば」
「うっかり魔法で防御しようなんて考えたら危うく死ぬところでした……死ぬところでした! 死ぬとこ!」
「わ、悪かったよ、いやマジで俺も忘れてたんだって……と、ところであいつなんか緑の光に覆われているんだけど」
「ああ、あれは回復してますね。ほら、身体の傷が治っていくじゃないですか」
どおりでおとなしいと思ったら回復していたのか。
防御力高めで回復能力持ちとか完全に盾役だな。
さて、なら使うしかないだろう。
「ふふふふ、俺の本当の力を見せる時が来たようだな、トゥールー!」
『いつでも、マスター』
くくく、正直剣からソードビームが出るだけでかなり感動していた。
しかし! やはり自ら発動させる魔法こそ、本当の魔法よ!
「見てろティリアス。これが、俺の力だ!! あと危ないらしいから離れてろ」
「もう十分すぎる程ですが、一体どんな魔法が飛び出すかは怖さ半分、期待半分ですね」
そういいながらそそくさと離れていくティリアス。
それを見届けた俺は俺は両手で剣を掲げ、くるりと剣先を下に向ける。
「【開け、光輝の幽世門】!!!」
そのまま、地面に突き刺す。
瞬間、俺の足元から巨大な魔法陣が浮かび上がる。
更に、その魔法陣を囲うように小さな魔法陣が合計で十個出現する。
そして、その小さな魔法陣からそれぞれ光の玉が飛び出し、空へと上がった後、角度を変えてトカゲへと向かっていく。
流星のような光の弾丸。それが軽々とトカゲを貫いていく。
『まだですマスター』
「む、なるほど! 【軌跡を喰らえ、驕れるもの】!!!」
その言葉と共に、俺がいる魔法陣から光が噴出する。
だが、眩しくはないし視界が見えなくなることもない。
巨大な白い光が立ち上ると、それは目のように一部の光が強くなった。
左右に光が伸びて、まるで翼を広げたかのような姿を見せる。
まるで、光で出来た龍の如く。
「かっけえ!」
その声に呼応したのか、未だ残る先程の光の玉の残光を飲み込むように口を開きながら、その後を追っていく。
その先にいるのは、当然トカゲ。
ばくりと、光龍がトカゲを一飲みする。
食らった後、暫く先に進んだ後、振り向くようにこちらを向く。
……手を振っておくか。
光の龍がっふ、と笑ったような気がして、一瞬だけ片眼の光が強く光ると姿は虚空に消えていった。
……後には何も残っていない。
影も形も、何もかもが、光に消え去った。
「…………絶句、です」
「いや、俺も、あんな派手だとは思わなかった……」
予想以上の効果にびっくりしている。
一撃だぞ一撃。
しかもカッコいい。なんだこれ無敵か。
これに比べたらあのやたらめったら斬りなんて児戯だわ。
「なんにせよ、これで討伐完了だな?」
「ええ、正直あの衝撃がまだ尾を引いてますが……完全勝利でしょう。後は晩御飯を狩るだけです」
こ、コイツ……血も涙もねえ。
うやむやにできるかと思ったのに、どんだけ食いたいんだよ!
「しかし、いませんね、お肉」
「その言い方はやめろ……逃げたんじゃないのか? 怖くて」
「確かに、地竜に、あの大魔法ですからね。逃げても仕方ないですが……」
探したいが、見つけたら確実に食われてしまう。
ここは涙を呑んであいつが無事に逃げれることを、生きている事を祈ろう。
……またいつか会おうな、フニ。
「所で、凄い大魔術でしたが身体は大丈夫なんですか?」
「ん、いや、そういえば特には……あ、いや流石になんか身体がだるいな」
ゲームが面白くて思わず朝までやってしまった時のような疲労感を感じている。
わりと身体が重いような気がする。
『ここまでみたいですね、【真なる白夜の王】を解除します』
と、纏っていた光が消えた。
途端に、身体がさらに重くなる。
っく、これは朝までゲームをやった後寝れなくてそのまま更に夜までやってしまった時の疲労感レベル……!
「身体が重い……横になりたい」
「あんな大魔法を放って、その程度なんですか……本当、規格外な人ですね。……なんでクラウに負けたんですか?」
タイミングが悪いよタイミングがー。
レベル1じゃ序盤の中ボスも倒せねえんだよ。
「ちょっと、休んでいっていいか?」
「頑張りましたしね、それぐらいは構いませんよ」
言葉に甘えて地面にどっかりと座り込む。
横になりたいが、流石に下が土じゃなあ。
……ふと手を伸ばす。
これで、戦う力を手に入れた。
予想以上の力。
……振り回されないようにしないとな。
力を振りかざして、自分の我を通すような、性格の悪い奴にはなりたくない。
そうゴミくず野郎みたいには、なりたくない。
「でも復讐はします」
やられたらやり返す。当たり前だよな。
最低でも鱗を取り返さんと、な。
……眠くなってきた、わりといい陽気だからだろうか。
うつらうつらとしている間に、俺はいつの間にか寝入ってしまったのだった。
「……本当に、何者なんですかね。貴方は」
そんな呟きが、夢の中で聞こえたような気がした。
【TIPS】
この世界には数多くの種族が暮らしている。
最も数が多いのは人間。次いで獣人と続くがその下から数が一気に少なくなる。
中でも鬼と呼ばれる存在は遥か東方の我が国『ヒノト』にしか存在しなかったが
少しづつほかの町にも姿を現している。
膂力に優れるが、何よりもその角は強力な力を宿しており、その長さで鬼達は
優劣を競っているようだ。……遺憾ながら、そういう物ほど高価でやりとりされるのだが。
───ヒノトの巻き物、モノノケ大全より抜粋




