10話 模擬戦
6時頃もう1話投稿します。
さて、俺は以前メタルラットと言う生物を狩りに来たことがある。
と言ってもまだそれから一日経ってないしその日のことは思い出すのも業腹なのだが。
そう言った普通の動物とは違い、魔法の力、魔力を魔法として発生できずに身体が変形してしまった生物を魔獣と呼ぶらしい。
おわかりだろうか?
そう! この世界にはやはり魔法があるらしいのだ!!
……しかし、何故だろうか。それほど興奮しないんだよな。
こう、あるとわかっていたようなそんな不思議な気分だ。
っと、話を戻そう。
この魔獣は害虫のような存在らしく、退治しても誰も文句は言わないしむしろその素材をやり取りする素材屋というものが出来るぐらいには生活には浸透しているらしい。
何故そんな話を今し始めるかと言うと、その魔獣が目の前にいるからである。
先程の話であったアルトリウスとか言う力を試すためだ。
気合と期待を込めて対峙をする、つもりだったが。
「あの……ティリアス。魔獣って異形の姿をしているって言ったな?」
「はい、魔法を使う力、魔力と呼ばれる力によって異形の姿になる事が多いですね」
異形、ねえ。
「これが、魔獣……?」
「きゅう?」
その声に反応して振り向いたのは一匹の魔獣。
名をサンドホーン。強そうな名前をしている。
くりくりと可愛い目をしていて、頭には土色の角が生えているが尖っているわけではなく先が丸まっている所から棒と言っていい程だ。
その身体は名の通り砂のような色をしている、豚だ。
具体的に言うと子豚である。
豚をなめてはいけない、と思う人間もいるだろうが、よく見てほしい。
体長は大体子犬くらいで、そこから延びる角も身体に比例して小さく、十五センチくらいだろうか、ぶっちゃけ蹴り一つで終わりそうな、そんな弱さを感じる。
「見た目に反して強いとか?」
「そうですね、五歳児くらいであればいい勝負だと思いますよ」
それでもいい勝負なのか……退治する必要ある?
「肉が美味しいんですよ。今日は豚肉で決まりですね」
「夕食じゃん! ただの夕食の狩りじゃん!! 訓練とは違うじゃん!?」
「危険がなく訓練しながら美味しい夕食になる、素晴らしいと思いませんか?」
「いい性格してるわ……」
とはいえ、やらないわけにはいかないか。
まあ危険がない、と言う事だけでも良しとしよう。
実際今回は使えるかどうかだし、トゥールーの事だしドラゴン程度って言うのが同じぐらいのミニドラレベルという説もある。
「闇は嘘に堕落し、光は真を語る。汝、真実を証明せよ。はあ、来い『真と偽の境界剣』武想顕現……」
『マスター!? もう少しやる気を……』
「いや、待てトゥールー。今俺はむしろ恐ろしい敵と戦っていてそんな余裕はない」
『恐ろしい、敵ですか?』
不思議そうな声でそう聞き返すが、間違いなく最強クラスの敵と俺は今戦っていた。
なんてことだ、やばい、これは、負けてしまうかもしれない。
「ああ……正直もうだめかもしれん」
そう言って視線を下に移す。
「きゅーきゅー」
そこには俺の足に猫のように頭を擦り付けるサンドホーンの姿があった。
愛くるしい姿で気持ちよさそうに何度も何度も俺の足に顔を埋めたりこすったりしている。
可愛い鳴き声をして俺を見上げては、再び同じようにこすりつけ、その後俺の足の周りをてこてこと歩いて回っている。
「……ダメだ、俺には出来ない」
俺は究極の敵、罪悪感には勝てなかった。
「コイツを俺のペットとする」
「駄目です」
『駄目ですよ』
ハモって叱責する二人の言葉を無視する。
何故人は何かを奪わないと生きていけないんだ。
共に生きる道を探すのが、本当の人道と言うものではないのか?
魔獣だからなんなんだ。
角が生えていたら駄目なのか?
目の前にも角を生やした女性がいるじゃないか。
今はローブを着ておらず隠していないが大丈夫か?
服装もなんか着物のパチモンみたいな格好になっているが。あと腰の輪っかはなんだ、引っ張るぞ。
「なんか今馬鹿にされた気がするんですけど」
「お前は俺のこの手を汚せと言うのか?」
「わかったから撫でる手をやめて下さい。毛についた土で手が汚れているじゃないですか」
『羨ましい……っ!』
く、つい勝手に身体が動いて。
む? ふふ、貴様この首筋が弱点なのだな……ういやつめ、ふははははは。
「見ろ! こいつは俺にひれ伏した! 俺の勝利だ」
そこには腹を見せるサンドホーンの姿があった。
どうやら俺のナデポには勝てなかったようだな……腹も触ってやろう。
お、これはまたぷにぷにと脂肪の反発力が中々……
「遍く全てを切り払わん、来たれ『アメノムラクモ』武想顕現」
そんな声が聞こえ、思わず振り向く。
そこには凛とした顔で、長刀を構えたティリアスの姿があった。
……刀?
「ティリアスさん、なぜけんをかまえるのですか?」
「魔獣退治の為です」
「もしかして、その魔獣っていうのは……」
真剣な眼差しで、刀を俺に向ける。
いや、正確にはもう少し下。
「勿論、その晩御飯です」
「ば、馬鹿な。お前、俺の、俺のペットのフニを!?」
「誰がペットですか! 名前まで付けて!!」
なんという鬼畜畜生だろうか。
こんな愛らしく俺の手を舐めてくるフニを殺すというのか。
……許されるはずがない。
「そうか……ならば……フニ、あっちに行ってろ」
そう言うと、名残惜しそうに一舐めし、頭を一度だけこすり付けると離れていくフニ。
……ああ、お前だけは必ず守って見せる。
「俺は、お前を止めないといけない。命の恩人の凶行を見逃すわけにはいかない」
俺は置いていた剣を拾って構える。
すると、不思議な事に俺の身体が白く淡い光に包まれる。
「……なんでここで共鳴度が上がってるみたいなんでしょうか」
「決して負けれない戦いだから、かな」
見ればティリアスも同じように白い光を纏っている。
不思議なことに力が湧き上がってきている。
バフ、自己強化のようなものだろうか?
お互いにこの状態であれば、たとえ真剣同士でも殺す事はないはずだ。
俺は彼女を殺したいわけではない。
ただ、一つの命を守りたいだけ。
そして、彼女を殺人者、いや殺フニ者にしたくないだけだ。
しかし彼女は強いだろう。
角を折られ、弱くなったとは言っていたが、鬼と言えば古今東西強者と決まっている。
……俺で勝てるだろうか。
いや、駄目だ。勝たなければならない。
それならば。
「トゥールー、アルトリウスを使うぞ」
『……マスターがそう仰るなら構いませんけれども』
「はあ、まあ模擬戦として戦いましょう。勿論殺すような攻撃は、しないですよね?」
「まあ、流石にしねえよ」
どんな共謀人物だと思われているんだ俺は。
「まあ、最悪魔法で防げばなんとでもなりますしね……ん? あれ?」
何かを思い出そうとするティリアス。
そういえば俺も何か引っかかる気がするが、なんだろうか。
いや、きっと大した事ではないだろう。
今は戦いに集中しないと。
「トゥールー。アルトリウスはどうやって使えばいいんだ?」
『はい。まずは剣を掲げて、次にこう唱えてください』
いわれるがまま、俺は剣を高らかに掲げる。
すると、剣が白く光りだす。
周囲を軽く照らす程の光量。だが、どこか温かみを感じるような白い光。
そして俺は唱える。
「黄昏を抜け、夜を越え、日が照らす刹那の刻を彷徨う。来たれ来たれり呼び唱え称えよ、その名を! 【真なる白夜の王】!!」
剣に光が集まり、弾ける。
弾けた光が俺の身体に纏わりついて形作っていく。
それは光のヴェール。
先程とは違う、それよりもなお白く濃い光が全身を覆っている。
『すみませんマスター。現状ではまだこのレベルしか……』
トゥールーはそういうが、確かに見た目はあまり変わりはない。
精々剣が真っ白に変わり、全身を白いヴェールで包んだような、そうローブの様な服装に見える程度だ。
しかし、この湧き上がる力。
内から膨れあがり、零れ出る力の本流を俺は感じていた。
軽く剣を右に振るう。
ズバァン! と音がして斬撃が白い光を纏って地面を切り裂いていく。
軽く振るっただけで、これか……っ!
「待たせたな……始めようか、命の戦いを」
「す、凄い! た、ただ剣を振るっただけで魔法クラスの技を……!? これは私も本気で掛からないといけないみたいですね。 あれ、やっぱり何かを忘れて」
「はは、確かに俺も凄いと思う。本気でやったらどうなるかってのも気になる。でも、俺は油断はしない」
理由はある。鬼と言う理由だけではない。
彼女、ティリアスの固有武想の名前だ。
アメノムラクモと言っていた。
それは俺の世界の、神剣の名前だ。正確には天叢雲剣だったか。
細かいことは忘れたが、確か草薙の剣ともいわれる、いわゆる八咫鏡、八尺瓊勾玉と並ぶ三大神器の一つ。
その名を冠しているのだ。相手は神話、油断なんて出来ない。
「行くぞ、ティリアス!」
「うーん、あ、はい。行きますよ!」
未だ何か悩んでいる様子だったがティリアスも構える。
そうして、戦いの火ぶたが切って落とされた。
【TIPS】
この世界では魔力を使った技は全て魔法として扱われる。
剣からビームを出そうが手からの炎を出そうが、魔力を使うのであれば魔法である。
そのため、魔力が低いものはそれだけで大きなハンデを背負っている。
何故なら魔力を使うことが普通であるのだから。




