弱小ママさんバレーチームというもの 4
もちろん、サラリーマンがやっていた屋上のバレーボール(平成の世では、残念ながら絶滅してしまったかもしれない、サラリーマンのリクリエーション)も、参加することに意義を持って大会に臨むのも、決して間違っているとは思わない。しかし陽介は、自分が勝負にこだわることを目的としたチームの中でバレーボールをやっていただけに、前記はなじめなかった。
ちなみに強豪チームでも、中々チームレベルを保つことは難しいそうだ。なぜなら、ローカルルールを含めまず第一に、ママさんバレーチームの構成員になるためには、【結婚をしている】、【未婚でも子供がいる】、【結婚の経験がある】、【独身でも規定の年齢に到達】などの規則があり、そもそも10代や20代前半の構成員がいること自体が珍しい。したがって、毎年必ず歳を重ね、体力は落ちる。そしてほぼ間違えなく見違えるようにデブる。さらに若い優秀な構成員がいても、多くはご懐妊、出産、育児などで最低でも3年は本人がバレーボールをしたくても出来なくなる。その他には亭主の転勤、試合日と重なる冠婚葬祭や学校行事、試合当日の子供の病気などで、必ずしも同じメンバーで試合に臨めないためだ。
その意味で言えば、永竹クラブはほとんどの試合で同じメンバーで戦っている珍しいチーム。いや貴重なチームだったのかもしれない。
余談だが、一般の9人制バレーボールの試合では、構成員に対するルールの規則はママさんバレールールのそれよりも緩く、基本的に年齢制限などはない。したがって強豪チームともなると、バリバリのプレーヤーが打ちまくり、そして拾いまくる。9人制バレーボールの醍醐味をママさんバレーとは違う観点で楽しめる競技で、ボールの大きさもママさんバレー4号ボール、一般5号ボールと国際試合で使用するボールと同じ大きさになる。
さて、いつもように練習開始時間を遥かに過ぎてから集まった永竹クラブのメンバーが、一緒に練習を始めた。陽介はここ1ケ月いつもと変りなくメンバーと一緒に永竹クラブの監督の打つボールを一緒にレシーブし、監督の指示する練習をこなしていた。いつもと変りなくレシーブが出来ても表情を変えず、出来なければ笑ってごまかすような練習を文句も言わずにこなし、練習後の『これからの時間』もこなしていた。
ある練習日、いつものようにみんなと一緒に練習していた陽介だが、大会直前ということもあり、レギュラー9人をコートに入れ、反対のコートに陽介や監督を含めたそれ以外のメンバーを入れて、実戦練習をする場面を経験した。
陽介はその実践練習中に、自分が一生懸命プレーして、レギュラーの役にたとうと頑張っているのに、レギュラーの不甲斐なさに少々腹が立っていた。そして監督に「チョッと言ってもいいですか?」と許可をもらってから、練習に取り組む姿勢についてレギュラーに言った。「もうすぐ大会ですよね?なのにどうしてコートにボールが落ちても笑っていられるのですか?僕はみんなに勝ってもらいたいから、一生懸命プレーしています。でもあなた達にその姿勢は見られません。どうせやるなら一生懸命やりましょうよ!」と。
しかし、この発言が『これからの時間』の場で物議を醸しだすとは、この時想像もしていなかった陽介であった。