アタック練習 3歩あるくと…
3月の家庭婦人大会が終わり、陽介が大会の総括をした後、いつものように練習がまた始まった。
『これからの時間2次会』で話していたように、精度を高めるため基礎練習や、二段トス・サーブなどに精を出していた永竹クラブであったが、別メニューとして、よっちゃんにアタックを打つ時の正しいフォームと、ミートポイントについて陽介は指導することにした。
陽介はよっちゃんを呼び寄せ、「今から言う事を出来るように努力して下さい」と前置きし、
一、正しいステップで助走に入ること。
二、ジャンプをするために踏切る時は、両腕を大きく後ろまで引き、その両腕を振り上げ、思いっきり飛び上がること。
三、飛び上がったら、左手でボールの位置を確認して、右手は弓を引くように動かし、右手の肘から始動してその肘を高く上げ、最後に肘を伸ばして、最高到達点でボールを捉えること。
四、最高到達点でボールを捉える位置は、右目前方を意識すること。右目前方を意識しないとボールを捉える位置が、後方になってしまうので、そのことを念頭に助走の位置を考えること。
五、最高到達点でボールをミートする時は、右手の手の平の親指に力を入れること。
と伝え、陽介は自宅にあった大き目のレジ袋を5枚重ねた中にボールを入れ、ビニールテープでその袋を補強し、体育館のバスケットリング後方の鉄のアームに結びつけた。
レジ袋に入ったボールの位置は、メジャーで計った2m15cmの高さに調節した。
陽介は、「では、この袋に入ったボールを、さっき言ったことを念頭に、思いっきり打って下さい。空振りしても構わないので、必ず思いっきり打って下さい!」と、よっちゃんに言って、その後の練習で必ず別メニューで練習させた。
その様子を見ていた、家庭婦人大会で前衛・中衛でプレーしていた面々が、
「私もやりたいぃ~!」と言い出した。
陽介は、「分かりました。順番に打ってみて下さい。ただし、5回やってボールに触れない人は、残念ですが、この練習は遠慮して下さい。」と言って、ヨシちゃん・ヤマちゃん・キーちゃん・和気ちゃん・イケさんが、その練習に挑戦した。
ヨシちゃん・ヤマちゃんは身長が170cmあるので、ぶら下がっているレジ袋ボールを上手に打てたが、キーちゃんとイケさんはやっと、和気ちゃんに至っては触ることさえ出来なかった。
結局、思い付きで「やりたい!」と言った面々は、意外にも体力を使うこの練習を「やぁ~めた!」と言って離脱した。
よっちゃんの別メニュー練習を何日か続け、大分良い感じになってきたある日、よっちゃんがいつものように打った瞬間、5枚重ねたレジ袋が破れてボールが勢いよく飛び出した。
陽介は、一度セッターの上げたトスを打たせてみようと、コートによっちゃんを入れてアタックを打たせてみた。
するとどうであろう、あれだけ突っ込んでアタックの打つポイントがバラバラだったよっちゃんが、綺麗なフォームで、素晴らしいアタックを打った。
見ていた他のメンバーが、「よっちゃん、凄いじゃん!」と口々に褒め、気を良くしたよっちゃんが何本も凄いアタックを打って見せた。
陽介も、「よっちゃん、今のアタックは、全日本の選手が打ってるようなアタックだったね!、凄い!凄い!、試合でこれだけ打てれば、相手チームは絶対に拾えないよ!」と言って、負けじと誉めた。
よっちゃんは、ご機嫌でその日の練習を終え、『これからの時間』でもその話題でもちきった。
翌練習日、良い感じを忘れない内に、よっちゃんにアタックを打たそうと、早い段階でアタック練習をすることにした。そもそも永竹クラブのアタック練習時間は短い。陽介がレシーブ練習に時間をかけているからだ。しかしその日の練習では、アタック練習に少し多めに時間を使うつもりだった。
「今日は今から、アタック練習をします!」と陽介が言って、アタッカーをコートに入れ練習を始めた。
当然よっちゃんも練習に加わる。
するとどうだろう、前回の凄いアタックは何処に行ったやら、全くバラバラのフォームで、ミートのポイントも一定しない。
「よっちゃん、この前のアタックは、何処行っちゃったの?、何日か休んだら打ち方忘れちゃったの?」と、陽介が激を飛ばしたが、よっちゃんも頭を抱え、無言で「どうしちゃったんだろう?」と思いながら必死に打ち続けた。しかし、あの凄いアタックは帰って来なかった。
陽介はこれ以上アタック練習をやっていても、意味がないと思い「アタック練習は終わりにします!」と言って打ち切った。
そしてよっちゃんに「どうしたの?、そう言えば鳥に何か芸を教えても、3歩あるくと忘れちゃうって聞いたことがあるけど、まさかそういうことじゃないよね?」と、少し嫌味っぽく言った。
するとよっちゃんは「そうなのよ、私、酉年なんだよねぇ~、3歩しか覚えていられないのかも…」と、照れ笑いしながら頭を抱えて言った。
陽介は、ひっくり返った。
「そういう事を言ってるんじゃない!」




