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永竹クラブ最大の危機

 陽介は、前回の練習で目標を失いかけているメンバーに、「A区の大会は引き続き行われます。皆さんの実力が本物であることを証明するためにも、優勝を目指し頑張りましょう!」と諭したが、メンバーと自分とのバレーボールに対する気持ちに温度差を感じた。


 その日の練習が終わり、参加者が少なかった上に珍しく早く散会した『これからの時間』の後、来る日も来る日もこの温度差が永竹クラブの監督としての限界ではないのかと考えていた。


 確かに弱小ママさんバレーチームが、都大会に出場しベスト8に残れなかったものの良い内容で激戦を演じたのは、皆なが忙しい中、時間を作り練習や練習試合を積み重ねて来た結果であった。


 しかしこのバレーボールのために費やした時間は、個々の諸事情から見ればかなり無理矢理作った時間だったのかも知れない。さらにその貴重な時間の中で厳しい練習や練習試合をこなして来たのだから、家庭の協力に対する恩義、また本人のメンタルの部分は既に限界に来ていたのかも知れない。


 そういった事を考えると、これから先の大会に向けて必死になって練習を重ねて行く気持ちには中々なれないということも分かるような気がする。


 陽介は、自分が学生時代から勝負にこだわるバレーボールを続けて来ただけに、勝ってこそ分かる喜びや楽しみを皆なにも味わってもらいたいと思いながら、永竹クラブの監督をして来た。勿論そこには、永竹クラブが『勝ちたい!』という意思があったからこそだった。


 だが来る日も来る日も、永竹クラブの今後を考えていると、勝つための練習を続けるのは難しいのではないか?と思うばかりとなっていた。


 そして次に陽介が参加する練習日に永竹クラブの今後について、もう一度皆なに聞いてみようと思った。


 だがそのことを聞く前に、陽介がどうしても外せない用事があり参加出来なかった練習日に事件は起こってしまった。


 原因は人間関係。


 誰と誰の人間関係がこじれたかは、ここでは具体的な名前は書けないが、都大会出場を目指し厳しい練習をして来て今後もそれを維持して行こうとするメンバーと、これからの目標を失って取り敢えず練習に参加して新たな目標を模索しているメンバーとの確執だった。


 かねてから練習中にコートの中で、年上のメンバーに「うん!?」と思わせる物言いをしていたメンバーがいたが、皆な都大会を目指す上で厳しい練習をしている中のことで、また指摘が間違えではないことなどからその場は素直に聞いていたし、我慢もしていた。


 陽介も永竹クラブに来たばかりの頃、このメンバーの物言いについて大御所がよく注意をしていた事を覚えている。そしてその都度そのメンバーは皆なに謝っていた。


 しかし皆なの目標が都大会出場するという方向に向いた時から、自然とその物言いに対し指摘をしなくなった。


 それだけ皆なの気持ちが同じ方向を向いていたのだと思う。


 ところが都大会が終わり、目標を模索しているメンバーにとっては、この物言いが極めて気に入らなかったようだった。


 事態はかなり深刻で、この物言いで指摘を受けたメンバーが、「この娘がいるなら私は辞める!」と言い出した。


 誰が辞めて良くて、誰が辞めては困るということは決して無い。


 しかし、「この娘がいるのなら私は辞める!」発言は数名が同調することになってしまった。


 陽介は、この事件を所要先にかかって来た和気ちゃんからの電話で聞いた。


 「今日はどうしてもそっちには戻れないので、明日話を聞きます。」と陽介は言ったが、その事件が起きた練習日は、運の悪いことに大御所も不参加で、その場でこの事件を穏便に解決出来る人がいなかったとのことだった。ましてや同調する者が数名出てしまったことも最悪の状況だったとのこだった。


 陽介は翌日中華料理屋で、大御所の三輪さんと川さん、そして和気ちゃんと彩姉さん、さらに「この娘がいるなら私は辞める!」と言った当事者と同調者の内一人と話をした。


 一通り話を聞いた三輪さんが、「ねぇ○○ちゃん、私もあらためてあの娘に注意をするから、何とか我慢出来ないかしら?貴女の方が年齢が上だしもう一度我慢して一緒に出来ないかしら?」と言った。


 ところが○○ちゃんは、「今までも十分に我慢をして来ました。もう結構です。これ以上あの娘とは一緒に出来ません。あの娘がチームに残るのであれば私は辞めます。」とハッキリと言った。


 三輪さんが、「どうしよう陽ちゃん?」と振って来たので、「僕はこの件について双方に何か言うつもりはありません。皆さんのチームですから皆さんで解決して下さい。僕はオーナー監督ではありません。皆さんがどういうチームにしたいかによっては、僕も身の振り方を考えなくてはならないと思っています。」と、自らも永竹クラブとの温度差について思いを語った。


 そして、「僕が参加する次の練習日に、永竹クラブの皆なにこれからチームとしてどういう方向性で行きたいのか確認をするつもりでした。しかし今回のこの件は既に結論が見えているような気がします。まず○○ちゃんは辞めることになるのでしょう。そして同調している数名も少なくとも今までの様に勝つことを目標に今後の練習に取り組むことは難しいと思います。※※ちゃんの物言いが正しいということを言っているのではありません。全員が同じ方向を向けなくなった状況だと言いたいのです。ですから僕が参加する予定の次の練習日では、僕も結論を持って皆なと話をしたいと思っています。」と言った。


 大御所や和気ちゃんや彩ねえさん、そして当事者と同調者の内一人が、「陽ちゃん、それは陽ちゃんが監督を辞めるということ?、それは絶対ダメ!、皆なが困るから!」と一斉に言った。


 しかし陽介は、「それでは、○○ちゃんが辞めることは、皆は困らないのですか?、監督の変わりは誰でもいます。しかし永竹クラブのチームメイトは貴女達しかいないのですよ!、今後のチームのことを考えてみて下さい。」と言った。


 彩姉さんが、「それじゃぁ、今後のチームを考えれば陽ちゃんも辞めないよネ?」と言ったので、「僕は以前にも言いましたが、参加することに意義を感じているバレーボールチームも、勝つことを目標としているバレーボールチームも、どちらも間違っているとは思いません。逆に言えばどちらも正しいチームだと思います。ただ僕は前者に馴染みがないのです。それと話題が僕にすり替わってしまってますが、僕は僕なりに結論を持ってあらためて皆なに今後について聞きますので、冷たいようですがチーム内の問題はチームで解決して下さい。」と重ねて陽介は言った。


 そして陽介が参加した次の練習日、陽介は永竹クラブを辞めたいことを皆なに伝えた。

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