都大会 17 ベスト8をかけた戦い1
1時間30分を超える激闘を制した永竹クラブ。
次戦はB区の一般チームGクラブとの対戦だ。
B区の家庭婦人チームは、以前対戦相手が決まった時に話したように、永竹クラブが所属するA区の家庭婦人チーム同様弱小である。
しかし、一般チームは強豪。
B区が都心に所在し在区大企業に所属しているバレーボール経験者の社員が多いため、強豪チームが数多く連盟に所属しており、同区で開催される一般大会では非常にレベルの高い戦いを繰り広げているからだ。
そして今回の都大会では、B区の選抜チームで参加している。
(都大会は、各区市町村の代表チームが参加することが前提のため、各区市町村の連盟によっては選抜チームを結成し都大会に臨むことも多い。それだけ都大会はレベルが高い上に各市町村の名誉がかかっている大会だと言えよう。)
永竹クラブは、その強豪チームとベスト8をかけて対戦する。
(都大会では、各種競技においてベスト8に入るとポイントが与えられ、勝ち進むごとにポイントが加算される。そしてそのポイントが多い区市町村が総合優勝となる。)
永竹クラブは1試合おいてGクラブと対戦することになるが、さすがに疲れているだろうと思い「皆な体を冷やさないよう休憩して、第1セットが終わったらウォーミングアップを始めてネ!、この試合が終わって公式練習が始まるまでは10分しかないから、しっかり準備してコートに入ったら直ぐにパスが出来るようにしてネ!」と陽介は言った。
観客席の永竹クラブの控え席に腰をおろし、さすがに疲労の色を隠せない面々だったが、和気ちゃんと彩姉さんの猛獣コンビが、「ハイ、これ配給ネ!」と言ってスナック菓子やらチョコレート菓子やら菓子パンやらを配り始めた。
毎回思うのだが、都大会に限らず公式戦が行われる日は必ずお菓子の配給がある。
しかも、かなりの量が配給される。陽介もありがたくもらっているが、いつも持参するレジ袋がいっぱいになる。
まぁ、期待してレジ袋を持参している陽介も陽介だが、それはそれとして都大会という大舞台でも配給が変わらず行われていることを、陽介は微笑ましく思った。
各々がユニフォームを着替え、あらためて控え席に腰をおろしバレー談義を始めた。
陽介も控え席に座っていたので、その談義が耳に入った。
さぞかし激闘を繰り広げたHクラブの話しに花がさくのだろうと思って聞いていたが、何と永竹クラブが話していたのは次の試合のことと、今日の『これからの時間』のことだった。
次の試合については、サーブを何処を狙って打とうか?、チャンスボールからの攻撃をどうしようか?などであった。
そして話が盛り上がり、笑いながら「そのプレーが全部出来たら、優勝しちゃうじゃん!」と#3キーちゃんが言うと、#6マメちゃんが「でもさぁ、所詮練習して来たことしか出来ないんだから、出来ることを一生懸命やろうよ!」とこれまた笑顔で現実に戻し、皆なも同調していた。
そして彩姉さんが、「今の試合だけでも十分に酒の肴になるけど、出来ればベスト8になってポイントが欲しいよネ!、そうすれば酒の肴も増えるし朝まで飲めるしネ!」と言い、それに同調した#1ヨシちゃんが「今日は疲れて朝まではきついから、2日に分けて飲もうよ!」と、本気かウソか分からないことを言い出し、皆な笑いながら謎のハイタッチを交わしていた。
その時#2ヤマちゃんが、「そう言えば陽ちゃんは、次の試合どんな作戦を考えてるのかしら?、さっきの試合はセンターをマークするなって言ってたけど…。」と話し始めた。
陽介はハッと我に返り、控え席を立ち上がり慌ててGクラブが練習を行っているであろうサブコートに走って行った。
「Hクラブとの激闘に勝って満足してしまい、すっかり次の試合のことをおろそかにしてしまった。早くGクラブの様子を見てこなきゃ!」と陽介は反省した。
陽介がサブコートに着くと、Gクラブはレシーブの練習をしていた。
Gクラブ以外もユニフォームを着た上に、Tシャツやトレーナーなどを羽織っていたので、当初はどのチームがGクラブなのか分からなかったが、「B区」と大きく印刷されたボールケースがレシーブ練習をしている選手の側にあったので、それだと分かった。
先ず陽介が驚いたのは、身長の高い選手が多いこと。さらには明らかに年齢が若いと思えること。そしてレシーブが上手いことだった。
「これは、全員バレーボール経験者だな!、それにかなりレベルの高い所でプレーしていた経験があるな!」と陽介は思った。
そしてレシーブ練習が程なく終わり、アタック練習となった。
その練習を見て陽介は、「これは強い!、アタックも強烈だ!、セッターも上手い!」と頭を抱えた。
強いて言えば、レシーブもトスもアタックも非常に綺麗で強烈ではあるが、プレーが整い過ぎていてプレーが乱れた時にどのよう対処するかが、唯一気になるくらいだった。
ただ、永竹クラブがGクラブのプレーを乱すことが出来るかは、試合をしてみないと分からない状況で、そもそも乱れることがあるのだろうか?とさえ思わせるような練習内容だった。
せっかく激闘を制したのだから、Gクラブとの試合も内容のある良い試合をさせてあげたいと思うばかりの陽介ではあったが、正直かなり厳しい試合になるだろうと思った。
Gクラブのアタック練習が終わりサーブ練習に入るころ、永竹クラブのメンバーがウォーミングアップのためサブコートに入って来た。
陽介は体力を温存したいので、サブコートではウォーミングアップだけをしてパスとレシーブは本コートでの10分間で行うようにあらためて指示を出した。
サーブ練習をしているGクラブの選手の一人がユニフォームの上に羽織っていたトレーナーを脱いだ。
ユニフォームの背中には、『G区』と思いっきりプリントされおり、左腕にやはり『G区』というワッペンを付けていた。
#19イケさんが、「G区の選手って、背が高くて若いじゃん!」と言うと、永竹クラブの面々が「どれ、どれ、」と舐め回すようにGクラブの選手を見ながら、「本当だ!、若い!、デカイ!」と口々に言った。
しかし永竹クラブの面々がウォーミングアップしながら見たのは、サーブ練習だけ。
陽介は、皆ながレシーブ練習やアタック練習を見なくて良かったかもしれないと思った。
G区の練習を見て、戦う前から負い目を感じることがないからだ。
三輪さんが、「あと少しで前の試合が終わりますよ~!」と知らせに来た。
陽介は、明るく「ありがとうございます。さぁ、皆な頑張って行こう!」と平静を保つようにした。
永竹クラブのベスト8をかけた試合が、間もなく始まる。