都大会 2 全く景色が違う試合前
皆が陽介の車にボールなどの荷物を取りに来た時、彩姉さんは元気に笑顔で「おはよう!」と言って出迎えた。
道中二日酔いで股を広げてゴーゴーと爆睡していた姿を、絶対に予想させない清々しい笑顔と声だった。
皆が荷物を受け取ると、彩姉さんが「トイレはあそこにあるからネ!」と言った。
陽介が事前に調べておいたことだが、いかにも私が気を利かせて調べておいたと言わんばかりに彩姉さんは言った。
すると数人がトイレに向かい、残りは会場の入り口で待機することになった。
陽介には長く感じたトイレタイムであったが、全員が揃ったところで会場に入った。
陽介は皆の最後尾から会場に入ったが、ほのかに香水?・コロン?・芳香剤?のような香りが前方から流れて来た。
陽介が匂いを嗅ぎながら前方に行くと、イケさんがバッチリとメイク。さらにはコロンをつけていた。
陽介が、「イケさん、これから試合なのにそんなにバッチリメイクしてどうするんですか?、ウォーミングアップを始めれば直ぐに汗をかきますよ!」と言った。
するとそれを聞いていた彩姉さんが、「陽ちゃん、いいの!、イケさんはいつもバレーをする前にメイクをするのがルーティーンなんだら!」と言うと、皆が「そう!そう!」と全く気にしていない様子だった。
陽介も、イケさんが公式戦のタイムアウトやコートチェンジのインターバルでメイク直しをしたり、練習試合でコートチェンジした時に相手チームから毛抜きの忘れ物がある旨の指摘をされ、それがイケさんの物であったことで皆が大爆笑をしたことを思い出した。
陽介はそれ以降の公式戦や練習試合などでは全く気になっていなかったが、都大会という大舞台の前で
あらためて気が付いた。
イケさんにとってはいつものルーティーンなので、本人も皆も気になっていなかったのにもかかわらず、陽介が気になったということは、この時点で監督である陽介が一番緊張していたのかも知れない。
そして事前に配布されていた大会要項により、永竹クラブは体育館Aコート上方で『永竹クラブ』と書かれた紙が貼ってある観客席に陣取った。
続いて女子更衣室に向かった。
陽介は、早く着替えて第一試合が始まったら指定されたサブコートでウォーミングアップをするように、言った。
着替えたメンバーが観客席に戻って来たころ、第一試合のチーム練習が始まった。
引き続きプロトコールがあり、両チームの公式練習が始まり、その後試合開始のため第一試合の両チームがコートエンドラインに並んだ。
さすがに都大会。両チーム共身長の大きな選手が多くいる上に、素人が見ても「この人バレーボール選手でしょ!?」と分かるような体型をしている。(筆者の勝手な思い込みだが、レシーブの上手い選手は多かれ少なかれ猫背である)
主審の吹笛があり、双方の選手がコートに入った。
記録員と副審の確認が終わり、主審のプレーボールの吹笛の後サーブ許可の吹笛があった。(この時の9人制バレーボールのルールでは、プレーボールの吹笛があった)
陽介はこの時、主審と副審は公式な資格を持っている人がレフリーウエアーを着用し、胸に資格者のワッペンを付けているのを確認した。都大会ともなるとレフリーも資格者で構成されるものなのだと…。
その後5点までそのゲームを見たところで、永竹クラブのメンバーはサブコートに移動した。
しかし、その5点までのゲーム内容は、A区の地区大会のそれとは似ても似つかないものだった。
サーブは強い上に、そのサーブをレシーブする方も上手い。サーブレシーブが乱れても二段トスが必ず上がりアタッカーがそれを打つ。苦しい体勢の時はリバウンドとりあらてめて攻撃をしなおす。さらにはネットプレーは当たり前。アタッカーがブロックを抜いてもレシバーが必ずいてボールがコートに落ちない。いかに相手のタイミングや隊形を崩しながら攻撃をするかがポイントだ。もちろんそこにはレシーブのミスなどほとんどない。レシーブを信用している上でのプレーだった。
永竹クラブは企業冠の親睦大会で、全国3位の『八葉クラブ』との試合を経験しているが、その時を思い出すとともに対戦相手もレベルが高いと、9人制女子バレーボールの醍醐味を味わえると陽介は思った。
しかし永竹クラブの面々は、陽介ほど驚いたり感心してりはしていなかった。
陽介がヤマちゃんに、「都大会の試合はすごいネ!」と言うと、ヤマちゃんは「八葉クラブさんの方が、凄くて強かった!」とアッサリと言い放ち、サブコートに向かった。
陽介は、プレーをする選手は肌身で感じているので、監督以上に経験が物を言うのだろうと、永竹クラブが経験して来た事に感心をし、頼もしく思った。
そしてサブコートに着くと、陽介は対戦相手のHクラブを探した。
Hクラブがどのような年齢層や体型(身長など)の選手で構成されているのか?、また、Hクラブの練習を見ることにより、何か対策は出来ないかと監督としての仕事をしたいとも思っていたからだ。
しかし、第二試合の複数のチームがサブコートに来ているはずだと思っていたが、永竹クラブの来るタイミングが早かったせいか、永竹クラブを含め3チームしかいなかった。
しかも既にユニフォームを着用しているのは永竹クラブだけ。
完全に浮いていた。
永竹クラブが体操を終え、ウォーミングアップを終えた頃、第二試合の他チームが徐々にサブコートに集まって来た。
練習用のサブコートは2面(試合会場の体育館は4面一度に4試合が出来る)、各コートの次の試合をするチームだけが使用できる。各コートの試合状況で時間差はあるものの、第二試合のチームはほぼ同じ時間にサブコートを使用すると陽介は思っていたが、後から来たチームが体操を始めたのを見てまだ空いているコートを使用してアタックを打つように指示をし、続いてサーブの練習をさせた。
そして他チームがコートを使用してウォーミングアップを始めたころ、陽介はパスやシート練習を指示し、その練習中に必死にHクラブを探した。
しかし、ユニフォームを着用しているのは永竹クラブだけ。一見ではチームの見分けはつかなかった。
三輪さんが、第一試合がそろそろ終わりそうだと知らせに来た。
陽介は、永竹クラブに練習を切り上げるように指示をして、汗を拭き体を休め、第一試合が終わったら直ぐにあらためてパスの練習をするように指示をして、永竹クラブのメンバーの最後にサブコートを出ようとしたその時、アタックの練習を始めていたチームの一人がアタックを打った瞬間に、着ていたトレーナーが動きと共にめくれ上がった。
そしてそのトレーナーの下には、『Hクラブ』と書かれたユニフォームが見えた。
陽介はマメちゃんに、「先に体育館に行ってて!、僕はもうチョッと他チームの練習を見てから行くから!、三輪さんに第一試合が完全に終わったら、あらためて僕に伝えに来てほしいと伝えて!」と頼み、Hクラブの様子を見続けた。
サブコートの外では子供達が騒ぎまくっている。それを見ている大人が数人。パパさんらしき人と中高年の女性が赤ちゃんを抱いていた。
だが、赤ちゃんを抱っこしている中高年の女性が、短パンをはいていたのを陽介は見逃さなかった。
Hクラブの練習を見ていると、構成されているメンバーはかなり若い人が多い。さらにセッターも上手い上に、身長の高い選手も何人かいる。
「これは結構大変な試合になるかも知れない!」と陽介は思っていたころ、三輪さんが第一試合が終わったと報告に来てくれた。
陽介は、子供達にぶつからないように体育館に向かった。