結団式後の『これからの時間』、あれっ彩姉さんは!?
結団式後の三次会として始まった『これからの時間』。
参加者は、結団式に参加した時の様相のままいつもの中華料理屋に向かい、到着するなり化粧直しをして席に着いた。
陽介は、女性の気持ちが全く分からず、着ている服などが汚れないか心配で苦笑いをしていた。
しかし、彩姉さんの姿が見えない事を今さら気付いた。
良く考えてみると、結団式でも姿はあれど全く目立つことなく、むしろ静かにお酒と会話を楽しんでいたように見えた。
陽介ともほとんど会話をしなかった。
挨拶を交わしたくらいだったであろうか。
もっとも陽介はA区の区長をはじめ色んな人と話しをしていたので、永竹クラブのメンバーとはあまり話すことが出来なった。
そして結団式お開きの時も、今思えばいなかったような気がする。
だが、酒の匂いがするところには必ずあらわれる彩姉さんが、ましてや『これからの時間』に参加してないのは違和感ががある。
陽介は彩姉さんに何かあったのではないかと思い、「ねぇ、彩姉さんどこか具合が悪いの?、今日は来ないの?」などと和気ちゃんに聞いた。
すると和気ちゃんは、「具合が悪いと言えば悪いんだと思う。もうすぐしたら来るから、直接聞いてみな!」と、やや意味深な言い方で返答した。
服装談義に話しがはずんでいる席では、「ママぁ~、生ビールおかわり頂戴~ぃ!」とマメちゃんがこれ見よがしに立ち上がり、自分の様相をママさんに見せつけるように言った。
ママさんが苦笑いをしながら「ハイどうぞ!」と生ビールをマメちゃんの前に出した。
そして、「マメちゃんは若いから何を着ても似合うけど、今日は一段と綺麗に見えるわ!、帰り道に気を付けないと悪い人に連れてかれちゃうよ!」と笑顔で言った。
それを聞いたマメちゃんが、「そうでしょ!?、私誰かに連れってもらいた~い!」と言ったのをかわきりに、「ねぇ、私はどう?」、「私は?」、「私は?」…と、皆ながママさんに聞いた。
ママさんは再び苦笑いを浮かべながら、「皆な見違えるように綺麗よ!、悪い人に気を付けてネ!」と言った。
和気ちゃんはそれを見ながら、「20年前なら私も様相自慢に参加したけど、今はお酒を楽しく飲めれば幸せ。」と言った。
陽介は、「そうだよね。和気ちゃんの20年前ってきっと綺麗だったんだろうなぁ~って、思えるもんね。その面影はあるもんね。でも何でそんなに…」と言いかけたところで、「アブナイ、アブナイ!、また余計なことを言っちゃうところだった!」と口を結んだ。
しかし和気ちゃんは予想に反して、「何だよ陽ちゃん。どうせ何で太ったんだ?って聞きたいんだろ?、聞きたいかい?」と言い出した。
陽介は、「言いえ、結構です。}と丁重に断った。
ここで和気ちゃんがそのことを話し始めたら、話しがながくなって絶対に帰れなくなると思ったからだ。
和気ちゃんは、「何だよ、せっかくゆっくり話してやろうと思ったのに。少しだけ聞いてみるかい?」とあらためて言ったが、陽介は再び丁重に断った。
和気ちゃんは、「ママぁ~、いつものお酒セット頂戴~ぃ!、あっ、紹興酒はロックで飲むからロックグラスもね!、焼酎の割物はウーロン茶があれば大丈夫だと思うよ!」と、たくましい右腕を高々と上げて吠えた。
と同時に、「ゴメンねぇ!遅くなっちゃって!」と、彩姉さんがいつものジャージ姿で登場した。
彩姉さんは、「ヤダー、皆なそのままの格好で来たの?、若いっていいわネぇ~!」と満面の笑みで言った。
そして、「陽ちゃん、今日はお疲れ様。今からはゆっくり飲んでネ!」と優しく言ったが、時刻は23:00をまわっている。
陽介は、「今からゆっくり飲んだら、また朝方になっちゃいますよ!(笑)、ところで彩姉さん、今日は結団式からあまり目立った行動がなかったけど、どこか具合でも悪いんですか?、ここにも遅れて来たし…。」と不安げに聞いた。
すると彩姉さんは、「陽ちゃんだがら言うけど、実は今日結団式で着ていた服は5年位前に会社のイベントに主賓で参加するために、大枚叩いてオーダーしたスーツなのよ。しかも来たのはその時一回だけ。勿体ないから着るのはこの時ぞ!と思って昨日袖を通したんだけど、スーツが縮んだみたいで全く入らないの。でも大枚叩いた過去もあるし悔しいから、慌てて補正下着を買って何とか着たんだけど苦しくて苦しくて、人と話が出来る状態じゃなかったのよ!、確かに補正下着を買ったお店で、「かなり無理をするので、着用は1時間位にしないと具合悪くなりますよ!、それと座るのは無理ですから…。」と言われたけど、本当に具合が悪くなっちゃった。結局懇親会もほどほどに娘に連絡して車で迎えに来てもらったって訳。車の中で全部脱いで家の駐車場から家にバスローブで駆け込んだわよ。ハッハッハッ…。」と言った。
そして、「私もジャージが一番似合う年頃になったと、自覚したわ!」と笑って見せた。
陽介は、「似合う年頃ではなく、着ざるを得ない体型になった!の間違えだろ!、第一スーツが縮んだと言うのは、デブの常套句。「自分は決して悪くない!太ったのは人のせい物のせい!」」と言いたかったが、自重した。
陽介は、漫才のやコントのネタのような話を真剣に聞いてしまい、あまりのバカバカしさに本気で心配した自分が可愛そうになった。
彩姉さんは、「陽ちゃんだけに言ったんだから、絶対に他言無用だよ!」と陽介に釘を刺し、「さっ、飲みましょう!」と言って生ビールを一気飲みした。
陽介は和気ちゃんに、「僕以外、誰にも言ってないって言ってたけど、和気ちゃんは聞いてたんでしょ?」と聞いたが、和気ちゃんの答えは「私は聞いてないよ。だけど見れば分かるから…。私もそういうの経験してるから…。ハッハッハッ…。」と言った。
恐ろしや猛獣コンビ。色々な修羅場をくぐって来た強者だ。
そして1:45、ご機嫌の酔っ払いを多数放出することになった、結団式後の『これからの時間』は終了した。
タクシーに乗った連中は特にご機嫌だった。運転手さんは大変だったと思う。
さて永竹クラブは、いよいよ一週間後に迫った都大会に向け、一生懸命練習をしチームプレーの確認をし、士気を高めた。
迎えた都大会前日の練習日、当然の如く『これからの時間』も執り行われた。
例え翌日に大一番を控えていても、その日が練習日であれば『これからの時間』までが永竹クラブの練習メニューとなっている。
いや、今となっては「義務」になっているとさえ思える。