都大会出場をかけた大一番。 秋の一般大会 14
#9井口ちゃんのサーブが続く。
#9井口ちゃんは、いつものように#3キーちゃんと一言交わして、サーブを打った。
低くて速くて強いサーブがスリーメディスンのバックライトに向かって行った。
スリーメディスンは、バックライトが#9井口ちゃんのサーブの勢いに押され、ボールをコート外に大きくはじいた。
永竹クラブは、全員がガッツポーズ。
もちろん、陽介もガッツポーズ。
#9井口ちゃんの所に駆け寄り、ハイタッチ。
そして第1セット終了時の整列ためエンドラインに向かった。
しかし主審の小刻みな吹笛が繰り返される。
主審は、キャプテン#1ヨシちゃんを呼びつけ何かを指示した。
#1ヨシちゃんは、エンドラインになぼうとしていたメンバーに声をかけ、再びコートに入りポジションにつくように言い、コートの中から陽介に「今のサーブ、ネットに触れてたんだって。#9井口ちゃんの第2サーブから再開するって!」と伝えた。
陽介は、「マジで!?」と落胆したが、直ぐに気を持ちなおし、「切り替えて!集中して!」とコートに向かい叫んだ。
#9井口ちゃんの第2サーブ。
#9井口ちゃんは、苦笑いをしながら#3キーちゃんと一言交わし、サーブを打った。
今度も低くて速くて強いサーブがスリーメディスンコートに向かった。
しかし主審の吹笛。
今回もネットに触れたという判定。
キャプテン#1ヨシちゃんが、すぐさま主審に質問に行った。
#1ヨシちゃんが、陽介に施されることなく主審に質問に行くことは、極めて珍しい。
だが、主審の判定は変わらなかった。
永竹クラブ20ー11スリーメディスン
中々簡単には勝たせてもらえない。
決勝戦なのだから当然と言えば当然ではあるが、陽介はこのサーブでの失点が永竹クラブのリズムを変えてしまうのではないかと、心配していた。
スリーメディスンのサーブ。
永竹クラブは、バックレフト#4丘ちゃんがレシーブ。
綺麗にセッターへ向かったボールを、#6マメちゃんが丁寧にライト#1ヨシちゃんにトス。
#1ヨシちゃんは、スリーメディスンの2枚ブロックめがけアタックを打った。
スリーメディスンは、大きな声で「ワンチぃ~」と言ったが、そのボールは大きく山なりで永竹クラブコートに返って来た。
バックライト#9井口ちゃんが、「ハイ!、ハイ!」と言ってアンダーでセッター#6マメちゃんにパス。
#6マメちゃんは、レフト#2ヤマちゃんにトスを上げた。
#2ヤマちゃんは、スリーメディスンの2枚ブロックをはじき飛ばしブロックアウトをとった。
#2ヤマちゃんは、ガッツポーズ。 皆が集まって来てハイタッチをしながら、主審に目をやった。
主審は、笑みを浮かべながらうなずき、永竹クラブの得点を示すジャッジをした。
ようやく第1セットをとった。
永竹クラブ21-11スリーメディスン
スコアーだけを見れば、永竹クラブがスムースに勝った!ということになるのだろうが、陽介は監督として常に心配をしている状況だったと、振り返った。
監督とうい立場は、プロやセミプロまた弱小とチームとレベルの違いがあるにせよ、大一番の試合では常にこういう心境なのだろうと感じた。それは決して選手を信頼していないということではない。永竹クラブの場合、選手は試合のためにしかっりと練習を重ね臨んでいる。しかし試合では練習では培えない偶然のプレーや予期せぬ出来事により、自分達のリズムを崩すことがある。もちろんそういったことでの失点は、仕方ないこととして次のプレーに切り替えられれば良いのだが、公式戦においては練習や練習試合と違い1点の重みが違う。
永竹クラブは、今まで色々な経験を積んで来た。弱小チームであることは今でも変わらないが、他の弱小チームとは経験の量が違う。その意味では陽介の心配は杞憂であるかもしれないが、優勝して都大会出場を決めるまでは不安で仕方なかった。
繰り返すが、選手を信頼していないのではない。前にも言ったが、永竹クラブのメンバーに『勝つことによってのみ得られる喜びを味わってもらいたい!そしてその喜びは、その時々の試合によって違うことも知ってもらいたい』という陽介の思いが、心配を過剰にしているのかもしれない。
陽介が2セット目にに向かうインターバルで、水分補給しながら集まっているメンバーに歩み寄り、「あと1セットとれば優勝だよ!、でも…」と言いかけたところで#2ヤマちゃんが割って入り込み、「皆な、しっかり引き締めて集中しながら2セット目に入ろう!、1点差でも勝ちは勝ち。そのためにはレシーブ。コートにボールが落ちなければ失点は無いから…。格好なんかつけなくていい。泥臭く!泥臭く!。勝った方がよっぽど格好がいいよ!って誰かが言ってたけど、ボールが上がれば私達がアタックを絶対に決めるから…!」と言った。
そして#1ヨシちゃんが、「絶対に勝って、都大会に行こう!」と言い、円陣を組み声がけをして2セット目のコートに向かった。
陽介の話しは途中だったが、陽介の出番は全くなかった。
だが、この団結力が陽介には誇らしかった。
1セット目の最後のサーブがスリーメディスンだったため、2セット目のサーブは永竹クラブの#3キーちゃんからだ。
永竹クラブの出だしとしては、願っても無い形だ。
永竹クラブの夢に向かって、2セット目が始まる。