都大会出場をかけた大一番。 秋の一般大会 1
事情があり、暫く休部しなければならなくなったよっちゃんの穴を埋めるべく入部してくれた青ちゃんと丘ちゃんを交え、一生懸命練習に取り組んできた永竹クラブ。
通常練習では、子供達のためにステージ上保育園で園長を、土曜日や日曜日に行われた練習試合では、子供達を引率し応援団長を引き受け、選手であるママさん達をサポートしてくれた大御所2人と、時折体育館に来て「バレーのお婆ちゃんって言わない!。お姉さんと言いなさい!。」と、笑いながら子供達に強要した彩姉さんを含めた3人の貢献は、永竹クラブに所属する皆なの感謝するところであった。
もちろん、『これからの時間』で泥酔し大目玉をもらった、青ちゃん丘ちゃんのご主人達の練習参加により、ブロックホローの練習が出来たこと等も有意義であった。
いずれにせよ永竹クラブは、選手・選手の家族・永竹クラブを応援してくれる人々と、一丸となってこの大会に臨んだ。
大会当日、永竹クラブはAコートの第一試合で家庭婦人チームとの対戦が組まれていた。
この大会、トーナメントで3試合連続で勝てば優勝となり、念願の都大会出場が決まる。
永竹クラブは運も味方に付けてたか、第一試合でこの大会に家庭婦人の資格を持った者だけを構成員としているチーム、永竹クラブ以外では唯一のママさんチームを抽選で引いていた。
永竹クラブは、A区における家庭婦人大会でここしばらく負けていない。
当然ながら楽に勝てる相手だと皆が思っている。
しかし、今まで話してこなかったが、家庭の事情で永竹クラブを抜けざるを得なかったのは、よっちゃんだけではなかった。
実は、今までの試合でも活躍をし陽介が信頼していたプレーヤー、#8はるちゃんも引越という事情でA区から住民票を移さなければならず、転職もするということで、A区の構成員資格を得ることが出来ずに永竹クラブから退部をしなければならなかった。
今まで#8はるちゃんのこの件について触れなかったのは、何とか永竹クラブに残りたいという#8はるちゃんの思いもあり、せめて住民票だけでもA区に残せないか模索をしていたからだ。
しかしながら、色々な事情がそれを許さず、残念ながら退部することになってしまった。
もちろん、この大会に臨むにあたり事前に分かっていたことなので、#8はるちゃんが大会に出場出来る場合と出来ない場合の練習をしていたが、9月の家庭婦人大会が#8はるちゃんにとって引退試合となってしまった。
当然ながら家庭婦人大会では、力の差を見せつけ優勝した永竹クラブではあったが、その日の『これからの時間』で行われた送別会と称する飲み会で、皆な涙を流していた。
そして#8はるちゃんの引退後、最初の公式戦がこの一般大会となったのである。
青ちゃんは、はるちゃんの意思を継ぎ『背番号8』を背負い大会に臨むべく練習を重ねて来たが、いくら相手が格下とはいいながらも、「何か、物凄く緊張する!!!」と言っていた。
陽介はその言葉を聞き、試合前のウォーミングアップをしているメンバーを集め、「はるちゃんがいない状況での試合はこれが初めてだと思うけど、皆な一生懸命練習して来たから絶対に大丈夫!、失敗を恐れずしかし丁寧に、そして自分の出来ることを精一杯すれば必ず良い結果が待ってるから!、格下の相手といっても遠慮しないで、25-0で勝っても構わないから集中して自分達のバレーボールをやろう!」と言い渡し、あらためてウォーミングアップの続きを指示した。
永竹クラブの布陣は、前衛レフトから
前衛レフト #2ヤマちゃん
中衛レフト #8青ちゃん
セッター #6マメちゃん
中衛ライト #19イケさん
前衛ライト #1ヨシちゃん(主将)
ハーフセンター #16イソちゃん
バックレフト #4丘ちゃん(以前大御所川さんが付けていた背番号、川さんの思いも背負いコートに立つ)
バックセンター #3キーちゃん
バックライト #9井口ちゃん
ベンチには、#10芦さん・#11和気ちゃん・#13シズさんである。
ウォーミングアップが終わるころ、キャプテン#1ヨシちゃんが走ってプロトコールから陽介のところに来た。
サーブ権は永竹クラブだ。相変わらずヨシちゃんの行動は分かりやすい。
第一試合の公式練習(3分ずつ)も終わり、双方のチームがエンドラインに並ぶ。
ちなみに対戦相手は、かつてA区の家庭婦人大会の女王と呼ばれた、『蕨クラブ』。
現状においては、永竹クラブの実力が飛びぬけて上である。
副審と記録係がメンバーチェックを行い、副審が主審に両手を上げた。
それを確認した主審が、試合開始の吹笛をし、双方のメンバーがネットに駆け寄り握手を交わした。
都大会出場に向けて、永竹クラブの第一試合が始まった。
両チームのスターターがエンドラインに並び、あらためて副審と記録係が確認をする。
ちなみに永竹クラブの試合は、同じく優勝候補の企業チームと共に、連盟役員の中で公式の資格を持つ審判が、主審と副審を受け持った。
決勝までの3試合を、つつがなくレフリングが出来るようにという連盟顧問と連盟競技委員長の計らいであった。(通常は、各チームの誰かが主審と副審をやり、決勝戦は連盟役員の中で公式の資格を持つ審判が執り行う)
確認を終えた副審が、両手を主審に向かって上げた。
主審は、軽くうなずき、サーブ許可の吹笛をした。
永竹クラブの第一サーバーは、#9井口ちゃん。
#9井口ちゃんは、バックセンター#3キーちゃんと何か言葉を交わした。
最近の試合では、よく見る光景だ。
#9井口ちゃんのルーティーンになっているのかも知れない。
#9井口ちゃんの、速くて低くて鋭いサーブが蕨クラブコートに向かった。
蕨クラブは、バックセンターがレシーブ。しかしそのボールは高くそして大きく永竹クラブコートに向かって来た。
そのネット上方に向かっ来たボールを、中衛レフト#8青ちゃんがスタンディングジャンプで、思いっきり打ち抜いた。
青ちゃんのダイレクトアタックは、蕨クラブのハーフセンターの前に勢いよく突き刺さった。
最初のラリーでのダイレクトアタック。
あまりの凄さに、コートを含め体育館全体に静けさが走った。
主審の吹笛だけが響いた。
永竹クラブ1-0蕨クラブ
しかし、その直後「ママぁ~、かっこいぃ~!!!」という青ちゃんの子供の声で、静けさが歓声に変わった。
永竹クラブの面々も我に返り、コート中央に集まりハイタッチ。
青ちゃんは、子供に手を振って声援に応えた。
#9井口ちゃんのサーブは続く。