秋の一般大会に向けての練習。ゲスト(旦那さん達)の『これからの時間』初参加 1
さて、丘ちゃんにしっかりと釘を刺された旦那さんだが、永竹クラブの猛獣御一行に捕獲されながら中華料理屋に入った。
「ママぁ~、また来たよぉ~!」と、いつもの調子でゾウアザラシが吠えながら、明らかに猛獣御一行のために無理矢理空けたと思える席に着席した。
中華料理屋は相変わらず混み合っている。
美味い・安いというのは、やはり庶民の味方であることを証明している光景だ。
陽介は大御所両名の向かいの席に着席。
いつものように、陽介の左隣は空席となっていた。
そう、彩姉さんが後から来る日は陽介の左隣がホッキョクグマの定位置である。
何故左隣なのか?
ホッキョクグマは右利き。陽介がホッキョクグマの意に添わず早く帰ろうとした時に、そのたくましい右腕で席を立ち上がった陽介を引きずり込むためだと、永竹クラブは認識しているからだ。
旦那さん達は、2人並んでヨシちゃんゾウアザラシと和気ちゃんジャイアントパンダの前に座った。いや座らされた。
「生ビールの人ぉ~!?」、ゾウアザラシが吠えると、全員がたくましい腕を高々と上げた。
いつものように、ゾウアザラシの容姿からは全くうかがえない、まるで別人のような可愛い声で発した「生ビールの人ぉ~!?」という言葉に、草原で和んでいる小動物と思しきサラリーマンが、ゾウアザラシの方を見る。
そして、顔を背ける。
大抵は常連であろうに、懲りない人達である。
しかし、それだけゾウアザラシの声は可愛い。練習中や試合中からは絶対に想像できない。
各人に生ビールが届き、「旦那さん達、今日は練習後の飲み会初参加、ありがとうございます。練習でたっぷりと汗をかいたことと思います。ジャンジャン飲んで次回からも練習・飲み会に参加して下さ~い!。それではカンパ~イ!!!」と、飲み会の女王ゾウアザラシの音頭で『これからの時間』が始まった。
皆なジョッキをかわるがわる合わせ、笑顔である。
しかし、旦那さん達は『これからの時間』の怖さをまだ知らない。
一生知らない方が幸せであったであろうに、この怖さは『これからの時間』終了後知ることになる。
さて、生ビールを飲み干した両旦那さんは、頼んでもいないおかわり生ビールがタイミングよく出て来たことに感心をしながら、ご機嫌で話をしていた。
「凄い気遣いですネ!、永竹クラブの皆さんの気遣いには、本当に感心させられます。そしてありがとうございます。」と旦那達さんは言った。
ジャイアントパンダが、「それだけだけじゃないよ、これから料理もたくさん出てくるから、いっぱい食べていっぱい飲んでよ!」と、まるで威嚇をしているかの様に肩ひじを付きながら言った。
旦那さん達は、顔を引きつらせながら「ありがとうございます。お言葉に甘えます。」と返答した。
両旦那さんは、40歳前。
若い♂を前に、猛獣達も意気揚々だ。
料理も出てきて多少お腹も落ち着いたのであろうか、丘ちゃんの旦那さんが「今日初めて永竹クラブの練習に参加させて頂いたのですが、皆さんがかなり厳しい練習をしていること、そして真剣に取り組んでいることに感心しました。うちのママが永竹クラブでバレーをやりたいと言った理由も分かるような気がします。うちのママは前チームでもバレーをしていましたが、きっと不完全燃焼だったんでしょうね。学生時代から真剣にバレーに取り組んでいましたから…。永竹クラブでの練習はそれを思い出しながら楽しんでるように思えます。僕達も子供達もそういうママの姿を見て、応援したくなりました。もっとも我々や子供達は、ボーリングや宴会をやりたいということの方がメインかも知れませんが…。」と話し始めた。
それを聞いた三輪さんが、「そう言ってくれると、嬉しいわ!、貴方飲み物のおかわりは?、生ビール以外もあるから、遠慮なく飲んでネ」と言った。
旦那さん達は突然立ち上がり、「三輪さんと、川さんには心より感謝致します。子供達の面倒をすっかり見て頂きまして、本当にありがとうございます。」と深々と頭を下げた。
川さんは、「いいの、いいの。好きでやってるんだから!、私達は「バレーのお婆ちゃん」ですからネ!」と笑顔で言った。
旦那さん達は、あらためてお礼を言い、そして青ちゃんの旦那さんはウーロン杯、丘ちゃんの旦那さんは、よせばいいのに、お気に入りのヨシちゃんの勧めで、紹興酒のロックをオーダーした。
当然ヨシちゃんが、オオカミふんするお婆さん(お姉さん?)役を演じているとは知らずに…。
陽介は一連の話しを聞きながら、「そうだよなぁ~、僕が永竹クラブに来た時は、バレーに対する今の取り組み方なんて、全く想像が出来ない状況だったしネ!?、この中華料理屋で飲むためにバレーで汗をかくことが目的の練習でしたからネ!」と話した。
旦那さん達は、「へぇ~、そんな時代があったんですか?、今までも真剣に練習してたんだと思ってました。」と不思議そうな顔をして言った。
すると陽介の話を聞いて、慌てて三輪さんが「陽ちゃん、余計なこと言わないで!」と言った。
開始から、1時間位経ったであろうか、時計の針は22時を指していた。
小動物と思しきサラリーマン達が、ボチボチと帰り始めた頃、「遅くなりましたぁ~!、あっ、若い♂がまだ居てくれた!。私を待っててくれてありがとう!」と、見当違いもはなはだしい言葉を発しながら彩姉さんが到着した。
陽介は、「可哀そうに。恐怖はこれから始まるのをこの2人はまだ知らない。」と思いながら、気の毒と思う反面、何か期待をして笑顔でいる自分を感じた。