弱小ママさんバレーチームの諸事情 1
弱小ママさんバレーチームには、大会に参加することに意義を持っているチームや、練習後の飲み会或いは茶話会などをメインにしているチームなど、目的は様々であり、それ自体が間違っている訳でないことは、以前お話しした通りである。しかし現在永竹クラブは、勝負にこだわることを目的としたチームとして練習を重ねていた。チームの構成員は、地元の住民。中には結婚して永竹クラブの地元民になった者もいる。当然ご近所付き合いもあれば、子供が同じ学校に通っていてPTAなどでの付き合いもある。そうした環境の中で、どうやら女性同士の事情というものがあるらしい。
陽介が監督を引き受けてから、練習試合などを数試合したが、日頃の練習の成果が徐々に見受けられるようになり、試合の内容もそれなり良くなってきていた。しかし、試合中劣勢な場面でも、どうやらその女性同士の事情が優先することが分かってきた。
勝負にこだわることを目的としていたバレーボール経験者なら、劣勢の場面では、チームの中で一番得点を取れる者(例えばチームのエース)にトスを集める。永竹クラブで言えば、ヤマちゃんやヨシちゃんであろう。しかしながら、永竹クラブのセッターは、そのような状況であっても前衛アタッカー4人に、ほぼ均等にトスを上げる。もちろん前衛レフトのヤマちゃんと、前衛ライトのヨシちゃんには、比較的多くトスを上げた上での話だが、いずれにせよ総合的に均等にトスを上げているように見える。
いつだったか、敗戦した試合の後、セッターに聞いてみた。「どうしていつも均等にトスをあげるの?10球に1球しか決まらないアタッカーにトスを上げれば、確率は低いじゃない?」と。永竹クラブのセッターはバレーボール経験者。そのセッターが言うには「十分承知してるけど、10球に1球の確率の人も、私に打たせて!って言うの。勝負にこだわれば絶対に上げないんだけど、家も近いし子供同士が同級生で、PTAとかで一緒に活動したりしてるから、勝負にこだわる以上に後のことが面倒になるのが嫌で…」とのことだった。ちなみにこのセッター、春高バレーで全国制覇した高校出身の本物であったが、ママさんバレーと人間関係はどうしても割り切れなかったようだ。
一事が万事、当時の永竹クラブは、勝負にこだわりたいと言ったものの、いわゆるバレーボールをするチームではなかったことに、陽介は気づいた。陽介は、自分が男性であること。父親ではあるが母親や主婦ではないことなどによる、今までにない経験や感情をあらためて考えさせられた。そしてその事情を受け入れながらチーム作りをしていく難しさを、身に染みて感じた。
しかし陽介にとってこの諸事情は、貴重な経験となった。