秋の一般大会に向けて…。
新規加入の青ちゃんと丘ちゃん。
中々練習に参加出来ない事情は、青ちゃんの子供は3人。丘ちゃんの子供は2人。その内青ちゃんは未就学幼児が2人、丘ちゃんが1人いることだった。
どうしても夕食の時間と練習時間が重なり、中々練習に参加出来ないとのことだった。
いくら強化のために入部してもらったとは言え、練習に中々参加出来ない構成員をレギュラーで使うのは、感情的にもチームプレー(チームワーク)的にも難しい。
陽介は、『これからの時間』で大御所をはじめ、皆なとその辺のことをいつも相談していた。
そしてある日の『これからの時間』で、大御所やヨシちゃんやヤマちゃんに「青ちゃんや丘ちゃんが、中々練習に参加できないのは、2人の事情から仕方ないと思うんだけど、このままだと今まで積み上げて来た練習が功を奏しなくなってしまうと思うんだけど…、かといって青ちゃんや丘ちゃんを抜きで考えると、前衛のアタッカーが1枚足らずに、よっちゃんの穴は埋められなくなっちゃう。そこで相談なんだけど、11月の一般大会までの間、週2回の平日の練習の他に土曜日と日曜日に練習試合を最低2回、できれば3回やることはできないだろうか?。もちろん青ちゃんや丘ちゃんの都合も聞かないといけないと思うけど…。」と話した。
すると、その日の『これからの時間』に参加していたメンバーから、「そうだよね~、そうでもしないとレギュラーが揃わないもんね~。皆なの都合が合えばそれもアリじゃない!?」とか、「いやいや、何で2人のためだけにわざわざ土曜日と日曜日を追加しなくちゃいけないのよ?」とか、相対する意見が出た。
両方の意見とも至極ごもっともである。
確かに、勧誘した上で入部してくれた2人であるから、入部後の公式戦を含め2人の事情を承知した上で仲間になってもらった経緯はある。しかしながら、試合に勝つためだけに2人の事情を優先して永竹クラブの練習スケジュールを変更するのは如何なものか?と思っても不思議なことではない。決して嫌がらせでそういう発言をしているのではない事も、よく分かる。
しかし陽介には、以前にも話した通り、何としても今年の秋の一般大会で優勝し、都大会を経験させたい思いもある。
皆も青ちゃんと丘ちゃんの2人がいなければ、一般大会で勝ち抜くことが難しいことはよく分かっている。
どうしたらいいのか?
皆な、しばし無言となった。
無言になって1分位経ったであろうか、ヒョットすると30秒位だったかも知れないが、その時は物凄く長く感じた沈黙をヨシちゃんが破った。
ヨシちゃんが言ったのは、「以前、強くなろう!、経験を積もう!と言って、私達は地域連盟の試合に参加したり、某体育大の練習試合に行ったり、その他にもたくさん他チームと練習試合をして来たじゃない?。でもあれって、全部土曜日か日曜日だった。それに比べたら期間を決めての練習日追加はアリで良いと思う。私の勝手な言い分だけど、都大会に行ってみたいし、できれば勝ちたい!。決められた期間が終わったら、その時次の事を考えようよ!。もちろん皆なの都合も聞かないといけないけど、出来る範囲でやってみようよ!」と、実に建設的な意見だった。
いつもは否定的な意見を言うのが得意なヨシちゃんだったが、この建設的な意見に大御所が感心した様子で、「ヨシちゃんの言う通りだわ!、次の練習の時に皆なに伝えましょう!、今は5月末。11月まで5ケ月以上あるんだから、それまでにできる範囲で土曜日と日曜日に練習や練習試合をしましょうよ!、私から青ちゃんと丘ちゃんに連絡しておくわ!、当然ながら子供も連れてきて良いよ!ってね。どう皆な!?」と言った。
悩んでいたメンバーは、大御所の言い分に賛同して、さらに珍しく建設的な意見を言ったヨシちゃんにグラスを合わせ、あらためて乾杯をしハイタッチをした。
陽介は、自分とはいつも気の合わないヨシちゃんが、建設的な意見を述べ、さらには「都大会に行ってみたい!、できれば勝ちたい!」と言ったことに、「色々とワガママが目立つヨシちゃんだが、人一倍バレーボールが好きなんだなぁ~!」と思い、微笑ましかった。
何かヨシちゃんの意見で、すかっり解決したように元気になって、いつものよう明るく大量に飲み始めた『これからの時間』だった。
そしてジョッキを片手にヤマちゃんが、「都大会って、各区の代表とその他(市など)から集まって来るから、相当に手ごわいよ!、私が知っている限りA区の9人制女子はベスト8になったことがないらしいよ!」と話した。
ここまで静かだった和気ちゃんが、「そうそう、A区の一般女子の資格を有する企業チームが都大会に出て、まだベスト8になったことが無いらしいよ!」と付け加えた。
陽介が、「そんなに都大会って大変なところなの?、ちなみにベスト8になると何かもらえるの?」と和気ちゃんに聞いた。
和気ちゃんは、「それは、知らないね。」と言い、ネギチャーシューを口にいっぱい入れ、生ビールを飲み干した。
大御所の三輪さんが、「私も良く知らないんだけど、聞くところによると、各競技種目でベスト8に入るとポイントが出身区に付与され、そのポイントの一番多い区や地域(市など)が、都大会の総合優勝となるらしいよ。」と言った。
一同、「へぇ~、行ってみたいぃ~!」と、再びグラスを合わせ「都大会に行くぞ~!!!」と言ってカンパイした。
そのカンパイの輪の中に、中華料理屋のママさんもいたのを、陽介は見逃さなかった。
後日、大御所から青ちゃん丘ちゃんの両人に連絡がいき、「皆さんのお心遣いに感謝します。一生懸命都合を付けて参加させて頂きます。」と返事をもらい、永竹クラブのメンバーにも賛同を得られ、11月の一般大会に向け、あらためて練習に励むことになった。