2回目の遠征 親睦大会 1
大御所を巻き込んだ姑息な作戦、しかもあまりにも低レベルな作戦に、「ご自由にして下さい!」とさじを投げた陽介だったが、時はアッという間に過ぎ遠征当日となった。
前回と同様にA区・B区の代表チームと役員が一つのバスに同乗し、C区の代表チームと役員は小型バスで開催某県に向かった。
宿泊先ホテルに到着する前に、昨年とは違う企業の生産地域の某県で昼食をとり、工場見学をすませた。
昨年と生産地域が違うものの、同種類の生産物の工場を見学すると、さすがに新鮮味はない。皆なそれなりに大人の対応でガイドさんの話を聞いているフリをしていたが、頭の中は「昨年よりホテルは良いかしら?、食べ物は美味しいかしら?、海岸沿いだから海の幸は豪華に出るかしら?」など、夜の親睦会のことでイッパイだったであったに違いない。
工場見学が終わり、予定よりかなり早くホテルに到着した。
バスがホテルの玄関前に到着するなり、ホテルの従業員が総出で出迎えてくれた。
各区の代表チームと役員は、「凄~い、このホテルCMでやってる!、超有名じゃん!」と口々に言い、一斉に笑顔になった。
確かにCMなどでよく見るホテルであった。陽介にも『超』が付くほど豪華に見えた。
中に入ると、綺麗に清掃が行き届き、豪華なシャンデリアや絵画、そしてソファーが目に入った。
皆な狭いバスのシートに座っていたので、我先にとソファーに座った。
企業の担当者が受付を済ませ、「それでは、こちらにお集まり下さい!」と声をかけた。
全員が集合したのを確認した企業の担当者は、「それでは、各部屋の鍵をお渡し致します。鍵を渡した後にも話がありますので、この場を離れないで下さい!」と言い、割り当てられた部屋の鍵を渡した。
続いて、「本日は予定より早く到着しました。親睦会は17:30~の予定ですが、現在は15:30です。当然ながらそれまでは自由時間とさせて頂きますが、親睦会の開始時刻の10分前には会場に集合して下さい。遅刻厳禁です!」とアナウンスした。
それを聞いた彩姉さんと和気ちゃんの猛獣コンビは『ニタッ』と笑って、「永竹クラブの皆さんは、16:15に私の部屋に集まって下さい!」と、勝手に音頭をとり、「それまでに、お風呂に行く人はゆっくり温泉を楽しんで下さい。私が調べたところによると、この温泉の効能は、冷え性・滋養強壮・美容・性力回復・頭痛・切り傷・若返りだそうです。」と、何処で調べてか妖しい効能を伝え解散した。
陽介は男性のため、他の代表チームの男性スタッフが到着するまで部屋の鍵を渡してもらえない。
したがって、陽介はロビーで待つことになっていた。
陽介を残し、永竹クラブの面々が各部屋に行くのを確認した猛獣コンビは受付へと向かい、何やらフロントの人と話をして、和気ちゃんはホテルの売店方向に、彩姉さんは陽介の所に戻って来た。
猛獣コンビによると、近所のコンビニのありかをフロントに聞いていたとのこと。しかしながら、さすがに地方の外れに立地しているホテル。近所にコンビニは存在していないと言われたらしい。
一番近くても、タクシーで行かないとならない。フロントの人はコンビニに似た店はホテル内にもあると言ってくれたが、陽介の所に戻って来た和気ちゃんの話しによれば、値段が高いとのことだった。
結局猛獣コンビは、金に物を言わせてタクシーに乗り、コンビニに行ってくると言い出した。
陽介は、「何もわざわざタクシーに乗ってコンビニに行かなくても、二次会のお酒は十分過ぎる位持って来たんでしょ?、今更買い出しに行かなくても…。」と言ったが、猛獣コンビが言うには「親睦会までの時間、永竹クラブの皆で飲む分を買い出して来る!」とのことだった。
陽介は、「ハイ、ハイ。ご自由にどうぞ!、ただし時間は厳守だからね!」と言い、フロントに頼んでタクシーを用意させた猛獣コンビを見送った。
30分位経ったであろうか、猛獣コンビがホテルに帰って来た。両手に物凄い荷物である。
彩姉さんは、陽介の所に来る前にフロントに行き、大きな袋を2つとも預けた。
和気ちゃんの袋の中身を見ると、缶ビール・缶焼酎・ジュース・氷・ツマミなどが、大量に入っていた。
陽介は、「これじゃぁ、ホテルに持ち込み手数料を払わなくちゃならないんじゃない?」と和気ちゃんに言ったが、和気ちゃんは、「だから、彩ちゃんが自分のお土産(海産物中心)を買って、フロントで冷蔵庫に入れて欲しいと頼んでるんだよ。そうすれば私が持ってるこの袋も、冷蔵庫が必要ないお土産だって思うだろ!」と、のたまった。
「この人達は、どうしてそういう事には気がまわるのだろう?、本当に凄い!、いや恐ろしい!」と陽介は思った。
フロントから彩姉さんが戻って来て、「16:15に集合をかけたので、陽ちゃん、和気ちゃんの袋1つ持って、先に部屋に行って!」と言いおき、今度はホテル内の売店に向かって行った。
「僕は、他のチームが来るまでロビーにいなくちゃならないいんで、部屋には行けませんよ!」と陽介は言ったが、和気ちゃんは「行くよ!、部屋に着いたら直ぐにロビーに戻りな!」と言って、無理矢理陽介を帯同させて部屋に向かった。
彩姉さん達の部屋に行くと、温泉から戻った数名が早くも集まっており、「待ってました~!、この袋ビールでしょ?、さすが和気ちゃん!」と出迎えた。
陽介は袋を部屋に置き、ロビーに戻ったが、その戻る途中、ホテル内の売店に行った帰りの彩姉さんとすれ違った。
これまた大きな袋を持っていた。しかもホテルの名前が印刷された手提げ袋が3つである。
陽介が、「何、これ?」と聞くと、「たくさんホテルの売店以外で買って来ちゃったから、「持ち込みは、困ります!」って言われないように、ホテルの売店でもお土産をたくさん買ったのよ!、会社の従業員の分も買ったの!」と彩姉さんは笑いながら言った。
陽介は、「そんなにたくさん買ったなら、発送すればよかったのに!」と苦笑いをしながら言ったが、「発送だと、フロントの人が私がホテルの売店でも買ったことに気付かないないでしょ?、これで大丈夫だから、親睦会まで一緒に飲もう!」と彩姉さんは、満面の笑みで言った。
しかし陽介は、ロビーに戻らなくてはならない。
陽介は、猛獣コンビの気のまわし方にあらためて感服すると同時に、余程この遠征を楽しみにしていたのだなぁ~と、微笑ましかった。
後で彩姉さんに聞いたのだが、ホテル内の売店で購入したお土産は、よくある観光地みやげの箱菓子20個・特産の海産物(保存のきく瓶詰)20個、総額約3万円だったそうだ。
彩姉さんは会社の社長。従業員という扶養家族は多いに違いないが、それにしても、たくさん買ったものだと陽介は思った。(ちなみに、フロントに預けたお土産は、ご近所用だとのこと。翌日朝一番でクール便で発送の手配をするらしい。)
そして、親睦会までの時間を大量の酒で飲み会にふけった永竹クラブは、17:20分定刻の10分前に親睦会の会場に集まった。
ほぼ全員(大御所含む)、出来上がっていた。