夢破れた11月の一般大会 『これからの時間』 3
マメちゃんが中華料理屋に入ると、彩姉さんが、「子供大丈夫?、家にいなくてもいいの?」と声をかけた。
「彩姉さんは、マメちゃんが後から来ることを知っていたくせに、よく白々しく聞けたものだ!」と陽介は思った。
それにヨシちゃんに至っては、「マメちゃん、最初は生ビールでいい?」と何も無かったかのようにオーダーをとる始末だ。
要するに、マメちゃんが『これからの時間』に来ることは、全員が分かっていたことのようだった。
マメちゃんが、指定された席に座ると、彩姉さんが「マメちゃんが到着したので、あらためてカンパイをします。マメちゃん自分で音頭をとってネ!」と言った。
マメちゃんは、ヨシちゃんが頼んだ生ビールを既に飲み干していたので、おかわりを頼み2枚目のジョッキを手に持って、席を立ち上がった。
そして、「皆さん、遅くなってスミマセンでした。子供はおかげさまでただの風邪との診断を頂きました。インフルエンザじゃなくて良かったです。もしインフルエンザだったら、ここ来ることが出来なくなってしまうので…。それと試合の途中で離脱してしまい本当に申し訳ありませんでした。これからは私の体調はもとより、子供の体調管理も試合に向けて万全にしたいと思います。それでは今日は残念ながら優勝出来ませんでしたが、私も引き続き練習に精進をしますので、これからも宜しくお願い致します!」と言ったところで、「マメちゃん、良く言った!!!」と、和気ちゃんから声がかかった。
マメちゃんは、少し照れながら、「あらためて、カンパ~イ!」とジョッキを高々と上げた。
グラスを重ね、各々の飲み物を口にすると、拍手でマメちゃんの音頭を称えた。
マメちゃんが、一気に生ビールを飲み干すと、「ママぁ~、生ビールおかわりぃ~!」とゾウアザラシの雄叫び。続いて「こっちはレモンサワーお願いぃ~!」と北極グマが吠えた。
いつもの『これからの時間』のように思えた。
しかし、ここでよっちゃんがマメちゃんに、「マメちゃんが離脱した後、結構大変だったんだよ!」と話をし始めると、急に皆なが静かになり、その話を聞き入った。
話の内容は、
①川さんが狙われて、戦意喪失になった。(今回はタブーのハズだが、お酒の力は恐ろしい)
②イケさんがケガをして、和気ちゃんがコートに入ったが、動かないから大変だった。
③シズさんもサーブで狙われてしまい、井口ちゃんとシズさんが相手がサーブを打つタイミングでポジションチェンジして、乗り切ろうとした。
④今日は、皆な体力的にもいっぱいいっぱいだった。
大きく分けると、このようなないようだった。
お酒の席とは言え、よっちゃんの発言に、四方八方から「チョッと、待った!」と声がかかり、「よっちゃん、それは言い過ぎだ!」、「よっちゃんだって普段から頼りない!」、「よっちゃんのプレーだって酷いじゃないか!」等々。
大御所の三輪さんまでもが、「よっちゃん、バレーボールは1人では出来ないのよ。自分を棚に上げて人の事を言うのはやめなさい!」と言い出した。
ママさんバレーの飲み会では、『あるある』の状況だが、永竹クラブは他のママさんバレーチームと比べると、こうした『あるある』状況になるのは珍しい。
それは、他チームのママさん選手が『これからの時間』に参加した時に、永竹クラブの飲み方は綺麗だ!と驚いていた事でも明らかであるし、陽介が永竹クラブに来るようになった時、「バレーの話しは出来るだけやめましょう!、ボールの無い所でいくら言っても揉めるだけですから!」と釘を刺した事にもよるかも知れない。
小さな『あるある』は以前にもあったが、大御所の三輪さんまでが顔をこわばらせて物を言い出すのは、珍しいことだった。
よっちゃんに話しかけられたマメちゃんが、席をスクッと立ち上がった。
皆な、何が起こるのか固唾をのんだ。
しかしマメちゃんが発したのは、「ママぁ~、生ビールおかわり頂戴ぃ~!」だった。
取り敢えず、胸を撫で下ろしながら笑った面々だが、マメちゃんがその生ビールを一口飲んだ後、「よっちゃん、そんな言い方はないよ!、私はよっちゃんより遥かに年下だけど、よっちゃんのプレーを責めたことはないよ!、それなのに人の事を名指しで責めちゃダメだよ!」と戒めた。
陽介は、状況が良くない方向に向かっていると思い、彩姉さんに、「今日はお開きにしましょうよ!」と申し出たが、それを聞きつけたマメちゃんが、「陽ちゃん、いい機会だから、もう少し話そうよ!」と言い出した。
皆な疲れているので、早く帰そうと気を遣った陽介だが、あえなく陽介の提案は却下された。
マメちゃんは、途中離脱をしたので体力は十分に残っている。
このマメちゃんの「いい機会だから…」発言で、『これからの時間』は修羅場となった。
永竹クラブ解散の危機を、伺わせるような状況となってしまった。
陽介は、この状況に巻き込まれたら大変だと思い、「それじゃぁ、僕はこの辺で失礼しますから、後は皆さんでよく話し合って下さい!」と彩姉さんに行って席を立ったが、ご想像の通り彩姉さん(北極グマ)のたくましい爪の尖った手で鷲掴みされ、思いっきり引き込まれ、座らされた。
「陽ちゃん、この状況で帰れる訳ないでしょ?」と彩姉さんは言ったが、陽介は、「でも今の状況は、皆さんの問題で、僕の問題ではありませんので…」と言って帰ろうとした。
すると、今まで下を向いていた、今日は戦意喪失で早々にベンチに下がった川さんが、怖い顔をして、「皆な、少しいいかしら?」と言いながら、席を立ち上がった。




