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夢破れた11月の一般大会 『これからの時間』 1

 子供の具合が悪く、途中退場してしまったセッター#6マメちゃん。


 さらには、ケガでコートから退かなければならなくなった、#19イケさん。


 自信のなさから、プレーする気力を失ってしまった、#4川さん。


 そして戦力ダウンしてしまった上に、あわや棄権も考えなければならない疲労困憊状態で、力を出し切れず決勝で負けてしまった永竹クラブ。


 家庭婦人の構成員だけで都大会に出場する夢は、この一般大会で果たすことは出来なかった。


 しかし、何があっても『これからの時間』は執り行われる。


 どこからともなく彩姉さん(北極グマ)がやって来て、皆なの都合は関係なく、いつもの中華料理屋を彩姉さんの腹積もりの時間で予約をする。


 「さすがに今日は疲労困憊で、参加者は少なかろう」と思いながら、皆なのシャワー終了を体育館で待っていた陽介のところに、彩姉さんが来て「皆な行けるって!、でも疲れてるから早めに帰るって!、陽ちゃんは最後まで付き合ってネ!」と言った。


 「それはそうだろう!」と陽介は思ったが、同時に「何で僕だけ最後までいなきゃならないんだ!、僕だって疲れてるのに!」とチョッとムッとして、「僕も早く帰りますよ!」と言った。


 彩姉さんは、「分かってる。陽ちゃんだって疲れているもんね。大丈夫出来る範囲で良いから!」と笑顔で言ったが、絶対にウソだと陽介は思った。


 さらに間をおかず彩姉さんは、「皆なまだシャワー終わらないから、先に行って喉を潤しましょう!」と言い、そのたくましい腕で座っている陽介の右腕を鷲掴みにして立ち上がらせた。


 いやいやする陽介ではあったが、抵抗むなしく中華料理屋に連行されて行った。


 道すがら彩姉さんが、「マメちゃんの子供は、インフルエンザじゃなくて、ただの風邪だって連絡があったよ!、後で中華料理屋に来るって言ってたよ!」と話した。


 陽介は、「まさか!?、子供が風邪で病院まで行ったのに、わざわざ飲み会に来なくても…。子供が可哀そうだ!」と思った。


 中華料理屋に着くと、ママさんが「陽ちゃん、今日は残念だったわねぇ~!、マメちゃんも途中で帰ったっていうし、イケさんもケガで途中でベンチに下がったっていうし、川さんは戦意喪失しちゃったっていうし、本当に最後まで頑張ったわよぉ~!」と話しかけて来た。


 陽介は、「毎回思うけど、試合を見に来た訳でもないのに、よく永竹クラブの事情を知っているなぁ?」と感心した。そして「いつも思うんですけど、ママさんはよく直前の情報をご存知ですネ!、まるで試合を見ていたようですよ!、まぁ彩姉さんから電話で聞いたんだと思いますが、それにしても詳しいですネ!」と言ってみた。


 ママさんが笑いながら、「そうね。詳しいわよね!、でも今日は彩ちゃんからの情報じゃないのよ!、今日はね…」と言いかけたところで、「あぁ~ぁ、今日は疲れた!、久しぶりに前衛で動いたから絶対に明日筋肉痛になるネ!」とお腹をかきながら、和気ちゃん(ジャイアントパンダ)が巨体を揺らしトイレから出て来た。


 陽介は、「なるほど今日の情報源は和気ちゃんだったんだ!」と思ったが、「あれっ!?、この人シャワーとか浴びたのかなぁ?」と思い、「和気ちゃん、シャワー浴びたの?」と聞いてみた。


 すると和気ちゃんは、「体育館のシャワーはこみ合うからサ、一旦家に帰ってシャワーを浴びて来たんだよ!」と言った。


 確かに、体育館で着ていた服とは違い、どこでこんなに大きいサイズのものが売っているんだろう?と思うぐらいの、ド派手なしかもダブダブのTシャツに身を包んでいた。


 時は11月である。Tシャツ1枚で自転車に乗れるほど、世間は涼しくない。


 「さすがに猛獣は違いますネ!、第一若くないんだから、例え筋肉痛が出たとしても明日じゃなくて明後日以降ですよ!」と陽介は言いかけたが、後のことを考え思いとどまった。


 陽介は、永竹クラブに来て、うかつに物を言ってはいけない事を学んだと、自分で感心していた。


 ママさんが、「はい、陽ちゃんお疲れ様!」と言って、いつものように生ビールとネギチャーシューをお店のおごりで出してくれた。


 このネギチャーシューは、本当に美味しい!、是非食してもらいたい。


 彩姉さん(北極グマ)と、和気ちゃん(ジャイアントパンダ)と陽介が、『これからの時間』の先陣をきって「カンパ~イ!」と、ジョッキを重ねて飲み始めた。


 グ~とっ和気ちゃんが、生ビールを一気飲みし、「あ~っ、動いた後のビールはヤッパリ美味いネ!」と、彩姉さんに向かって満面の笑みで言うと、彩姉さんは「久し振りに長時間コートにいたから、大変だったでしょ?」と和気ちゃんをねぎらった。


 和気ちゃんも、「全く、終始ドキドキしながらコートにいたよ!、いやぁ~疲れた!疲れた!」と言い、満足げな様子だった。


 陽介は、「和気ちゃん、そんなに疲れるくらい動いてたっけ!?、「動かない」って決めてコートで立っていたんだと思ってた!」と笑いながら言った。


 すると和気ちゃんは、「陽ちゃん、いい度胸してるネ!、あたしゃ必死だったんだよ!、あんたには分からないだろうけど…」と言い、「今日は覚悟しておけよ!」と眼光鋭く陽介を威嚇した。


 陽介は、「しまった!、さっき物言いを学んだと思っていたのに、つい言ってしまった!、今日も面倒くさくなる予感がする!」と背筋が寒くなった。


 アッという間に、最初のジョッキを空けた3人は、その後もメンバーが到着するまでハイペースで飲んでいたが、「何で今日は皆な遅いんですかね?」と陽介が言い出すと、すかさず彩姉さんがヨシちゃんに電話した。


 電話が終わると彩姉さんは、「イケさんが1人で歩けないから、交代で肩を貸してお店に向かってるんだって!」と、和気ちゃんと陽介に報告した。


 陽介は、「1人で歩けないのに、飲み会に来るの!?、第一帰りはどうするの?」と思ったが、この連中には何があっても行われる『これからの時間』を、棄権するという選択肢は、全くない。


 恐ろしい限りだ。


 そうこう陽介が思っている内に、「ママぁ~、また来たよぉ~!」といつもの雄叫びと共に、ヨシちゃん(ゾウアザラシ)が店に入って来た。


 その後に、両肩を支えられ、自分の荷物をメンバーに持たせているイケさんが、「遅くなりました!」と顔を歪めながら入って来た。


 すると、ヨシちゃんが、「イケさん、今日はここに座って!、ここが一番トイレに近いから…!」と言って3人がかりで着席させた。


 「ヨシちゃんは、中華料理屋では本当に気が利く。バレーでも気を利かせて欲しい!」と陽介は思ったが、同時に「ここがトイレに一番近いから!って、そんなに長い時間飲むつもりかよ!?、ケガしてるんじゃなかったっけ?」と頭を抱えたが、よく見れば井口ちゃんの友人看護師さんがイケさんの隣に座っていた。


 陽介は、「看護師同伴で飲み会に来るとは、良い根性だ!」と思う反面、いささか呆れていた。


 ヨシちゃんが、「生ビールの人ぉ~!?」といつものようにオーダーをとり始めた。


 大御所の三輪さんと川さんが席から立ち上がり、「皆な手元に飲み物はありますか?」とまわりを見渡しながら、声をかけた。


 都大会を目指し、残念ながら決勝で負けてしまった日の、『これからの時間』が間もなく始まる。

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