経験を積んだ永竹クラブ 5月一般大会 4
タイムアウトでベンチに戻って来たメンバーだが、陽介は#9井口ちゃんと#3キーちゃんに、コートで何を打合せしていたか聞いてみた。
すると「最初は相手のバックレフトのレシーブ力がどの程度か見るつもりでサーブを狙ったんだけど、レシーブが乱れても乱れなくても、基本的に高身長のレフトアタッカーにトスを上げる確率が高いと思ったんだよね。それで#3キーちゃんにバックライトを狙ったら何処にトスを上げるか探ってみようよ!と話をしたんだよ!、そうしたら案の定ライトアタッカーにトスが上がる確率が高いと感じたんで、#16イソちゃんにもバックライトにサーブを打ってもらったんだ。その後皆にその話をしてバックライトにサーブを打つから、最初から相手の前衛ライト側にブロックを寄せて2枚ブロックを確実につけば、レシーバーはブロックのコースに入って楽にレシーブ出来るから…。それと怖いのはフェイントだから#6マメちゃんに早めにカバーに行く用ように話をしたんだよ!」
陽介は監督と選手の関係で、永竹クラブでは比較的年齢の若い#9井口ちゃんの物言いに若干抵抗はあったが、自分が思っていたことと同じだったので、たのもしく思ったし安堵もした。
さらに#3キーちゃんが、「予想がバッチリ当たったんで、今日優勝したら私達2人は陽ちゃんにご褒美として飲み代を払ってもらおう!って言ってたんだよね!、どう陽ちゃん!?」
「アホか!?、確かに永竹クラブは色々な経験を積んだ結果、自分達で考えながらバレーボールをやれるようになったのは、本当に凄い成長だと思ったが、既に優勝したつもりになって『これからの時間』のことを考えているなんて!?、そこまで強くなった訳じゃない!」
「何を思ってそうなるのか?、弱小チームの熟女達は困ったものだ。『思い込みと、勘違い』このオバサンの二大要素は、未だに健在してる。」と陽介は思った。
さらに、「この調子だと、下手に褒めると、また木に登ったまま降りて来なくなる。試合が終わるまで絶対に褒めるのはやめておこう」と心に決めた。
タイム明け、#16イソちゃんのサーブが続く。
またもバックライトを狙った。
プーアルは、このタイムでバックセンターとバックライトをコート内で交代していた。
きっとバックライトを狙われているので、その対応をしてきたのであろう。
しかし永竹クラブの狙いは、その次のプレー。
レシーバーが代わっても、トスがライトアタッカーに上がる確率が変わらなければ、おそらくこの試合のサーブはバックライトを狙い続けるであろう。
高身長のレフトアタッカーに打たせるよりも、確率的にレシーブしやすくコートにボールが落ちにくいと選手が判断しているからだ。
プーアルはバックライトがレシーブ。セッターはやはりライトアタッカーにトスを上げた。
永竹クラブは、レフト#2ヤマちゃんと中衛レフト#8ハリちゃんの2枚ブロック。#2ヤマちゃんがワンタッチ。
そのボールをバックレフト#13シズさんがアンダーパスでライト#1ヨシちゃんに二段トス。
#1ヨシちゃんは、短くネットから離れてしまった二段トスを打ち切れず、軽く相手のバックライト目がげアタックを打った。
プーアルは、そのボールを中衛レフトが下がってオーバーでセッターにパス。セッターはバックトスでレフトアタッカーにトス。レフトアタッカーは、永竹クラブの2枚ブロックの外側を狙ってワンタッチをとるアタックを打った。
ボールがコートの外にはじき出される。
バックライト#9井口ちゃんがそのボールを追う。
そして何とかボールに触り、僅かではあるがボールが上がった。
しかしここで主審の吹笛。
永竹クラブは、まだプレーが終わっていなかったので、何の吹笛だか分からず困惑した。
キャプテン#1ヨシちゃんが主審に質問に行った。
すると主審曰く、明らかにブロックアウトが決まる状況だったので、思わず吹笛してしまったとのこと。
主審の勘違いだった。
誰もがブロックアウトが決まったと思ったに違いない。しかし#9井口ちゃんは必死にそのボールに突っ込み、ボールに触ったのだ。
本当にしつこいレシーブということに徹した、ナイスプレーだった。
主審は、あらためて副審とプーアルのキャプテンを呼び、自分の勘違いだった旨を伝え、ノーカウントのシグナルを出した。
あらためて#16イソちゃんのサーブ。
プーアルはバックライトがレシーブ。セッターはやはりライトアタッカーにトス。ライトアタッカーは永竹クラブの2枚ブロックを避けてインコースにアタックを打った。
しかし永竹クラブは中衛レフトの#8ハリちゃんがワンタッチ。
コースが変わった難しいボールを、ライト#1ヨシちゃんが何とかホロー。中衛ライト#19イケさんの頭上に上がったボールを、#19イケさんが苦し紛れにプーアルコートに押し込む。
プーアルは、中衛レフトがレシーブ。セッターは高身長のレフトアタッカーに低い平行トスを上げ、レフトアタッカーは今度は間違えなくブロックアウトをとった。
永竹クラブ11-3プーアル
プーアルのサーブ。
永竹クラブは、バックセンター#3キーちゃんがレシーブ。セッター#6マメちゃんはライト#1ヨシちゃんにトス。
#1ヨシちゃんは、プーアルの高身長レフトアタッカーのブロックめがけアタックを打ち、ブロックアウトをとった。
永竹クラブ12-3プーアル
永竹クラブのサーバーは、#13シズさん。
陽介は、サーブの良い#17よっちゃんをピンチサーバーに送った。
メンバーチェンジをする際、陽介は#17よっちゃんに「ミスってもいいから、思いっきりサーブを打ってきて!」と指示を出した。
コートのメンバーも、#17よっちゃんのサーブの威力は認めているが、バックライトを狙えるほど器用ではないことも十分に承知していた。
皆な「思いっきり打てぇ~!」と#17よっちゃんの背中を押す。
#17よっちゃんのサーブ。
物凄いサーブがプーアルコートに向かう。
プーアルは、バックセンターがレシーブを試みるも、あまりの威力にサーブレシーブを空振りしてしまった。
#17よっちゃんはガッツポーズ。コートのメンバーも#17よっちゃんに駆け寄る。
しかしラインズマンは旗を上げている。ジャッジはアウト。
きわどいジャッジだが、仕方ない。
#17よっちゃんの第二サーブ。
陽介は、「今度も思いっきり打てぇ~!」と大きな声で指示をした。
#17よっちゃんは軽くうなづき、思いっきりサーブを打った。
ボールは同じようにプーアルのバックセンターを襲う。
だがボールの軌道は、さっきより明らかにアウトの軌道。
プーアルのバックセンターは、体を開いてアウトのジャッジをしようとした。
しかし、#17よっちゃんのサーブの勢いが凄く、体を開ききる前にボールが体に当たってしまった。
サービスエース。
#17よっちゃんは、あらためてガッツポーズ。メンバーも駆け寄ってきて口々に「あぶねー、あぶねー」と言いながらハイタッチ。
それにしても#17よっちゃんの地肩は恐ろしく強い。
永竹クラブ13-3プーアル
この後、#17よっちゃんの迫力あるサーブが5本連続で決まり6本目をダブったところで陽介は、#17よっちゃんに代えて#10芦さんをコートに送った。
(当時の9人制バレーボールのルールでは、6人制にはないこのような通称三角メンバーチェンジが出来た。例えばバックレフト#13シズさん ⇒ ピンチサーバー(バックレフト)#17よっちゃん ⇒ バックレフト#10芦さん ⇒ #13バックレフトシズさんのように。しかしメンバーチェンジは3回までだったので、この三角メンバーチェンジでメンバーチェンジの回数は終了となる。)
永竹クラブ18-4プーアル