貴重な経験 10
10点も取れずに負けてしまい、疲労困憊の永竹クラブのメンバーに、陽介はこのセットの総括をするのも気の毒だと思い、「たくさん汗をかいたと思うので、ユニフォームを着替えてきたらどう?、連続でY区の代表チームとの対戦だけど、1回休憩を入れさせてもらえるようにお願いしてくるから…」と言って、某体育大とY区の代表チームの監督にお願いに行った。
陽介が永竹クラブの事情を話すと、両チームの監督共快く了解をしてくれたので、永竹クラブは連続してこのレベルの高い練習試合に臨まなくてもいいことになった。
メンバーが着替えている最中、大御所の三輪さんと川さんが陽介の所に来て、「陽ちゃん、この様子だと1日中練習試合を続けるのは、無理だと思うのよ。だから次のY区の代表チームとの一戦が終わったら帰らせてもらえうようにお願いしてもらえないかしら。失礼なのは十分に承知しているけど、この状態じゃ体力がもたない上にケガも心配しなくちゃならないし、なによりも相手チームにも違う意味で失礼な試合になっちゃうでしょ?、私達も一緒にお願いに行くから、そうしてくれないかしら?」
と切願してきた。おそらくメンバーからも依頼されたのであろう。
陽介は、「分かりました。僕もそう思います。お2人共ご一緒して下さい。その方が誠意を示せると思うので…」と言い、「今は試合中なので、このセットが終わったら直ぐに行きましょう!」と申し合わせた。
某体育大は主要メンバーをコートに入れ、本気で試合に臨んでいる。またY区の代表チームも長身の選手を中心にしつこいレシーブと高いブロックで対抗している。練習試合とはいえ白熱した内容だ。
しかし、さすがに若さと実力の面で某体育大に試合は優位に進み、先程の1戦目と同様に某体育大がこのセットもとった。
某体育大とY区の代表チームの試合が終わった直後、陽介は大御所2人を伴って両チームの監督の所にあらためてお願いに行った。
「大変に申し上げにくいのですが、今回練習試合にお誘いいただいたのにもかかわらず、私達のチームはすでに体力を使い果たしているような状況でございます。レベルの高さはもちろんのこと、レシーブに対する意識・攻撃に対する意識、そして何よりもチームというものに対する意識の違いを痛感させられました。つきましては、次のY区の試合を持ちまして本日は退散させていただきたくお願いを致します。誠にお恥ずかしながら、もしこのまま1日練習試合を続けると皆様にご迷惑をおかけするだけでなく、当方にケガ人まで出る可能性がございます。失礼は重々承知致しておりますが、どうかご理解を賜りたいのです。」と陽介は言って、大御所2人と共に頭を下げた。
両監督は、「了解しましたよ。そんなにご丁寧に頭を下げなくとも大丈夫だから心配しないで!」と笑顔で対応してくれた。
さらに某体育大の監督(A区連盟顧問)は、「実はさっきから、Y区の監督と永竹クラブはママさんチームなのに、良く頑張ったネ!と感心してたんだよ!。試合を途中で投げ出すんじゃないかってね!?」
「1日中は絶対にもたないと、最初から思っていたから心配しないように!、それとね永竹クラブはまだまだ弱小チーム。上には上がいるということを知った経験は貴重だったと思うよ。ただし永竹クラブが今目指さないといけないのは、A区という地域で常勝が出来るように頑張ること。今のチームで出来るプレーに磨きをかけて、出来ない事は一生懸命にならないこと。なぜならママさんチームは練習時間が少ないから出来るプレーの練習を重ねる方が理性的だと思うからだよ!」
「そして、A区で常勝することによって、色んな強豪チームからも練習試合や招待試合のお誘いが来るようになるから…。次の本日最後の試合、頑張ってね。!」とねぎらってくれた。
陽介と大御所2人は、「ありがとうございます」と深々と頭を下げ、本日最後の試合に全力を尽くすことを誓った。
迎えたY区との試合。
永竹クラブは陽介と大御所2人からこの試合を本日最後の試合とすることの経緯を聞き、相手チームにも失礼のないように全力で戦うことを約束して、コートに向かった。
そして主審の吹笛があり、勢いよくコートに散ったメンバーだった。
だがこの試合、Y区の代表チームはさすがに某体育大のような部員数は持っていないため、ほぼフルメンバーがコートに入り、その高さとレベルの違いで永竹クラブを圧倒した。
試合は、永竹クラブ5-21Y区代表チームという結果に終わり、永竹クラブの5点も相手チームのドリブルやホールディング・ネットタッチという相手のミスによるものがほとんどだった。
永竹クラブは、全く歯が立たず完敗であった。
試合が終わり、永竹クラブは某体育大とY区の監督とチームに全員でお礼を言って、引き上げようとしたが、その中でただ一人#9井口ちゃんだけが、「もっと練習して結果を出しますから、その時もう一度試合をして下さい。お願いします。今日は本当にありがとうございました。」と決意を述べて、あらためて頭を下げた。
これには、某体育大の学生もY区の代表メンバーも、拍手をしながら「またやりましょう!、是非やりましょう!」と言い、永竹クラブの健闘を称えてくれた。
ありがたいことである。
永竹クラブは着替えが終わり、体育館に頭を下げ帰途についた。
陽介は皆な疲れているので、駅まで歩きながら総括を話していたが、#11和気ちゃんが「今14:00でこれから帰ると中華料理屋に15:00前に到着します。予約をしてありますので今日の総括をそこで聞きましょう!」と、相変わらず何があっても執り行われる『これからの時間』の誘いを始めた。
陽介は、「さうがに今日はやめましょうよ!、体力がなくて途中で試合を失礼したくらいなんだから!」と言って自重をうながした。
しかし、「どうせ帰る方向が一緒で、昼食も食べてないんだから、食事を食べるという意味で行くならいいんじゃない?」と言って全くゆずるつもりはない。
如何なものかと思ったが、大御所も「反省会を兼ねるということなら」と言うので、陽介も渋々了承したが、某体育大とY区代表チームの監督の好意に申し訳ないという念が残った。
永竹クラブは、飲み会だけは強豪チームである。
陽介は、ついて行ってしまう自分に、自虐の念を感じていた。