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『新年会』から始まる永竹クラブ 2

 「生ビールの人ぉ~!?」ゾウアザラシのいつもの雄叫びで、中華料理屋での『これからの時間』が今年も始まった。


 猛獣御一行様が中華料理屋に入ってから間もなくであったであろうか、タクシーの中から電話をして集めた永竹クラブの関係者?が4~5人入店して来た。


 「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。」とご丁寧なご挨拶を頂いているさなか、「生ビールの人ぉ~!?」とゾウアザラシが遮り、挨拶で頭を下げている面々がその状態のまま右手を上げた。


 その姿が異様に面白く、彩姉さんをはじめ中華料理屋のママさんやお店にいた先客が大笑いして、店全体が和やかになったところで、飲み物と料理が出て来た。


 彩姉さんが音頭をとって、「本年も永竹クラブの応援を、宜しくお願い致します。カンパイぃ~!」と発声した。


 陽介の前に、大好物のネギチャーシューがいつものように「これはお店から」と言って置かれた。


 陽介は、「いつも気を遣っていただいて、スミマセン」と言ったが、正直言ってとても嬉しかったし、銀座の「超」の付く天ぷら屋さんで飲み残した焼酎や日本酒を持ち込み、それをはばかることなく飲み始めたが、全く嫌な顔をしない中華料理屋のママさんは本当に寛大な人だと、感謝を通り越し感動さえ思えるほどだった。


 お酒もまわりはじめ皆なご機嫌さんになったころ、ヨシちゃんが「去年は私達も色々な強豪チームと試合をして来たから、その経験を活かして、ネットプレーを使った攻撃や速攻をからめた攻撃を練習して、新しい永竹クラブを目指したらどうかしら?」と言い出した。


 和気ちゃんも、「そうだよね。ネットプレーとか使うとそれだけで強豪チームみたいに見えるし、速攻が決まれば格好良いし、盛り上がるもんネ!」と言ってヨシちゃんの後押しをし、彩姉さんに至っては「私は引退してるから、どんな風にプレースタイルが変わってもずーっと応援するからネ!、それに時間が許せば遠征には必ずついて行くからネ!」と、まるでネットプレーや速攻を絡めるプレースタイルに変えていくことが決定したかのような話っぷりとなっていた。


 陽介は慌てて、「皆なの気持ちは解らないことでもないですが、永竹クラブの今やらなくてはならないことは、正確なパス・強いサーブ・しつこいレシーブです。そして相手の攻撃に対し2枚ブロックを基準にレシーバーの動きをどうすればいいか?チームとしてどのようにポジショニングをするか?など、チームワークの強化を図らなければなりません。行き当たりばったりのレシーブやサーブで勝ってもそれは決して強いチームではないのです。そのためにはくどいようですが、正確なパス・強いサーブがいつも出来るようになることが最優先なのです。ネットプレーや速攻はその後でいいのです。先ずは出来ることを一生懸命正確にやれるように練習しましょうよ!」と言い、皆なの早る気持ちに釘を刺した。


 観戦した試合や経験した試合から、自分達にも出来ると思い込みや勘違いをするのは、弱小ママさんバレーボールチームにはよくある話しであることは、以前にも話をしたが、このオバサンの2大要素である『思い込みと勘違い』を説得するのは、慣れたとは言え陽介には面倒くさかった。


 それにしても、銀座の「超」のつく老舗の天ぷら屋さんで『新年会』をやったところまでは、満足で新鮮であったが、考えてみればこの中華料理屋には大晦日の前日に猛獣コンビに召集をかけられ来店し、さらには年が明けた5日にも来店している。


 ようするに、一昨日も猛獣コンビと中華料理屋で飲んでいた。


 この場所では、年末も新年も、全く感じることがない。


 ちなみに、春夏秋冬着衣は変わるがそれ以外に季節を感じられない特殊な場所だ。


 しかし、また来てしまう。ヒョットすると永竹くクラブは『中華料理屋依存症』なのかも知れない。


 そんなことを考えながら飲んでいる陽介に、タクシーの中から電話をして集めた永竹クラブ関係者?の一人が、「陽ちゃん、今年の永竹クラブの具体的な目標は何?」と質問された。


 陽介は「まず第一に、試合で正確なパス・強いサーブ・しつこいレシーブが出来るように練習を重ねることです。次にどんな形でもいいからA区の家庭婦人の試合には絶対に負けないことです。そのことによって永竹クラブの評価が上がり、他地区から練習試合や招待を受ける可能性が高くなるからです。そしてA区の一般大会で優勝して、都大会に出場することです。」と答えた。


 すると、「都大会に出れたら、絶対に応援にいくからネ!、陽ちゃん頑張って!」と励ましてくれた。


 しかし陽介は、「でも、プレーするのは選手ですから。選手に頑張ってもらわないと…。」と言ってヨシちゃんの方を見ると、こちらの話しは全く聞いていない様子で、


 「でもさぁ~、ネットプレーから速攻とかって、格好良いけど難しいよね!?、だとしたらハーフセンターのイソちゃんをAクイックにはいらせて、その脇でハリちゃんにBクイックをとばしして、ヤマちゃんに低い平行トスで決めるか、あるいはハリちゃんにBクイックをとばせて、和気ちゃんがその間でAクイックを決めるか、和気ちゃんがCクイックにはいってイソちゃんに時間差でそのすぐ後ろで決めさせるかだネ!、ヤッパリ陽ちゃんが言うようにネットプレーを使っての攻撃は難しいから…」と、皆でうなずきながら会話が盛り上がっていた。


 陽介は、「こいつら、全くわかってない!、『思い込みと勘違い』が激しすぎる!」と嫌気がさした。


 するとその様子を見ていた永竹クラブ関係者?が、「陽ちゃん、今年も苦労するネ!、まぁ飲みなよ!」と言って酒を注いでくれた。


 午前1時を回った頃であろうか、新年初の『これからの時間』はお開きになった。


 そして、1月2週目の木曜日、気持ちも新たに練習に励むことになるのだが、ヨシちゃんは「和気ちゃんが速攻に入ったら、私は時間差でその脇からアタックを打ち込むわ!」と言って、ご機嫌で帰って行った。


 全く、懲りない奴である。

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