『新年会』から始まる永竹クラブ 1
永竹クラブの新年の練習は、基本的に1月2週目の木曜日から始まる。
したがって、それまでには永竹クラブの公式飲み会の一つである『新年会』が行われる。
家族を持っている者や仕事を持っている者にとっては、一般的に新年を迎えたばりで、まだバタバタしている時期であるが、永竹クラブのスケジュールが変わることは、ほぼ無いらしい。
前にも述べたが、永竹クラブの『新年会』にかかる会費は欠席しても必ず徴収され、返金されることはない。
故に新年早々の集まりではあるが、出席率は100%に近い。
例えメンバー本人が欠席でも、会費を無駄にしないために旦那や家族を送り込むからだ。
さて、彩姉さんの口利きで銀座の天ぷら屋に集合した永竹クラブの面々だが、店の入り口にある「お品書き」を見て皆な驚愕していた。
確かに永竹クラブの多くのメンバーが在住している地域では有名な店であったが、「超」の付く老舗の「お品書き」は、会費相当の3000円では天ぷら定食一人前を食すことも出来ない。
それを、2500円(税込)瓶ビール大瓶10本付でお刺身も出るような宴会料理とはどのような物なのか、陽介も興味津々だった。
お店の2階に上がると、テーブル席が50席位あるフロアーがあり、そこを人数に合わせてレールの付いているパネルで間仕切りがしてあった。
その間仕切りされた部屋の入口には、「永竹クラブ新年会御席」とご丁寧に案内板が立ててあった。
それぞれ適当に着席をしたが、陽介には相変わらず選択権がなく猛獣コンビに両脇を固めらた席に座らされた。
各席の前にはすでにお通しが並べてあったが、これがまた品の良い物で、フグの煮凝り・梅の甘露煮・ただ者ではない紅白の蒲鉾と少量の本わさび・サヤエンドウのダシ煮などが、これまた品の良いお皿にのっていた。
大御所の三輪さんと川さんが、「皆さん、お席は決まりましたか?」と言い、続けて「それでは、『新年会』を始めます。まず初めに監督の陽ちゃんから一言いただいて、続けてカンパイの発声をしていただきます。それでは陽ちゃんお願いします。」と開会宣言をした。
しかし、陽介は何も聞いていなかったので、「皆さん、新年あけましておめでとうございます。突然の指名でご挨拶の言葉をご用意していませんでしたので、気の利いた事は言えませんが…」と前置き、「昨年は、初めての地方遠征も経験しましたし、また色々な強豪チームとも対戦する経験もしました。こうした経験を基に一生懸命練習をして、まだ経験をしたことがない『都大会』を目指しましょう!、そして勝つことによってのみ味わえる喜びを、一緒に味わいましょう!、一度優勝した大会でもあたらめて優勝すると、また違った喜びを味わえることも皆さんには経験をしていただきたいのです。」と言ったところで、彩姉さんと和気ちゃんが、
「陽ちゃん、話しが長い!」と突っ込みを入れて来た。
陽介が「そう!?」とまわりを見ると、全員がその突っ込みにうなずき、「早くしろ!」というオーラを出していたので、「それでは、グラスをお持ち下さい!」と声をかけた。
すると、その言葉を待っていたかのように、奥からお店の人が瓶ビールを運んで来てくれて、各々グラスにビールを注ぎ、カンパイの準備が整った。
陽介は、「今年も一生懸命練習して、良い結果が出せる年にしましょう!、ご唱和下さい。カンパ~イ!」と発声し、皆ながグラスを合わせた。
拍手でカンパイを終えた直後、彩姉さんが立ち上がり「今日、瓶ビールはこのテーブルに出ているだけですが、ビールが飲み足りに人はすぐ裏に酒屋さんがあるので買ってきますので遠慮なく言って下さい。それと焼酎と日本酒とカシスソーダはここにありますので、飲んで下さい。アルコールがダメな人は、ウーロン茶とオレンジジュースがありますから、こちらも遠慮なく飲んで下さいネ!、グラスと氷と水はこのテーブルに置いておきます。セルフでお願いします!」とアナウンスした。
カンパイから間もなく、小鉢に入ったお刺身の盛り合わせが人数分出て来た。
量は少ないとは言え、築地で仕入れた新鮮な魚が盛り合わさっていて、中でもマグロとおそらく伊勢海老であろう身の厚い切り身は、絶品であった。
続いて出て来たのは、これまた小鉢に入った旬の野菜の煮物。
さらには、鯛でダシをとったと思われるお吸い物。それとアゴでダシをとったのであろうか、小さな器にお餅が一口だけ入ったお雑煮。
まるで料亭で食べているようにさえ思えた。
普通にこのお店で食べていれば、少量とはいえここまでの料理だけでも相当な金額になるのだろうと、陽介に限らず皆な思っていたに違いない。
暫く間があって、いよいよ天ぷらの盛り合わせが出て来た。しかも一人ずつ籐で出来ている器にかえ紙が敷かれ、その上に盛り合わさっている。
エビ・イカ・キス・アナゴ・しし唐だったであろうか、素材が良い上にごま油が程よく聞いた天ぷらを、何とも言えないダシが利いた天つゆで食す。実に美味だった。
そして最後は、揚げたての小さなかき揚げが、丼にのっている物が配膳されて来た。
この丼は、全員一緒には出てこない。どうやら揚げたてをごはんの上にのせるので、出来た順番に配膳されるらしい。
そして配膳されると、丼の蓋を開けて、そこに熱いダシが注がれる。そう、「天ぷら茶漬け(天茶)だ!」。
揚げたてのかき揚げに熱々のダシがかけられる。「シューッ!」っと音が聞こえ、無茶苦茶良い香りがする。
それを、箸でかき揚げを割りながらごはんと一緒に口へかきこむ。絶品だ!
一緒に配膳されたキュウリのぬか漬け3枚も、天茶との相性が良い。
最後にほうじ茶が出て来た。
このほうじ茶、ただ者ではない。香りが良く天ぷらの後に飲むには実によく考えて選択された味だった。
さすがに「超」の付く老舗だ!
皆な大満足だった。
気付いてみれば、それほどお酒の量が減っていない。皆な食事を堪能して飲むことすら忘れてしまっていたかのようだった。
全員が残さず食べ終わったころ、お店のおかみさんが挨拶に来てくれた。
「今日はありがとうございました。お料理のお味は如何でしたか?、ご満足いただけましたでしょうか?」と。
三輪さんが代表して、「大変に美味しくいただきました。予算が少ないのにここまでしていただき、感謝しております。これで今年一年一生懸命頑張れます。本当にありがとうございました。」とお礼を言った。
するとおかみさんが、「同級生の彩ちゃんに恥をかかす訳にはいきませんから。ねぇ彩ちゃん!」と笑顔で言ってくれた。
一同、おかみさんと彩姉さんに拍手で感謝を伝え、2時間弱にわたった今年の『新年会』はお開きとなったが、これだけでは終わらないのが永竹クラブ。
猛獣コンビとゾウアザラシが、「想像以上にお酒が残っちゃったから、二次会に行く人数だけだと飲みきれないんで、他に何人か呼び出そう!」と言ってタクシーに乗り、電話をし始めた。
運が良いのか悪いのか、銀座から二次会の会場の中華料理屋は帰宅する方向なので、乗り合いをすると自動的に二次会会場についてしまう。
それでも猛獣コンビの誘いを振り切って帰る者もいたが、結局5人位は二次会に行くことになった。
聞けば毎年のことのようだ。
陽介は、「せっかく美味しい物を食べた後なのに、何も中華料理屋で〆なくてもいいだろうに…。」と思ったが、帰ることは許されなかった。これもいつものことだが…。
タクシーが中華料理屋につくと、あらかじめ銀座で中華料理屋のママさんに買っておいたお土産を片手に、猛獣御一行様が「ママぁ~、また来たよ~」と店内に入って行った。




