12月 遠征 親睦大会 35 帰りの車中1
17時30分過ぎ、A区・B区・C区のチームが乗ったバスは、開催某県のチームが手を振って見送ってくれている中、無事体育館を出発した。
A区・B区・C区に到着するのは、20時30分~21時00分頃の予定だと、主催企業の係の人から案内があった。
永竹クラブの面々とA区の役員は、この時間を睡眠時間に充てることにし、皆な目をつむりはじめた頃、A区とB区が乗り合わせているバスの最後部座席付近で、B区のチームは親睦大会の反省会を始めた。
陽介は、永竹クラブだけが優勝した八葉クラブに17点ずつ得点出来たことについて自分なりに総括しようと、今日一日の試合を振り返りながら考えていたが、B区の反省会の話し声が以外にも大きく、永竹クラブが睡眠に入っていて車中が静かであったことも手伝ってか、クリアーに内容が聞こえて来たのですっかり聞き入ってしまった。
その反省会は、弱小チームにはよくある内容で、
「今日負けた原因は何だと思いますか?」とB区の熟年女性監督が、一人一人に質問をし監督がメモをとる。そして全員の話しが出そろったところで、今度はメモを見ながらその一人一人の話しについてまた全員に意見を求める。というようなものだった。
当然話は長くなり、中にはチーム内の上下関係や人間関係を気にして意見を言えない者もいる。
すると熟年女性監督が、「あまり意見も出ないようだから、私から敗因を言いましょう!」と言って話し始めた。
熟年女性監督が言う敗因は、あの時のプレーは誰々がレシーブしなくていけない。
あの時の貴女のサーブレシーブは、ちゃんとレシーブしなければいけない。
あの時の貴女のアタックは、ネットにかけてはいけない。
あの時の貴女のサーブは、相手コートのどこどこを狙って打たなければいけない。
あの時の貴女のドリブルがなければ、良い試合が出来た。
ライトアタッカーをレフトアタッカーとして使えばよかった。
等々で、基本的に試合全体の総括をして敗因を話す訳ではないので、むしろ監督の愚痴のようにさえ聞こえ、さらには個人攻撃に徹しているようにも見えた。
個人攻撃を受けた者は、泣き出す者もいた。
するとチームの同僚が、「何々ちゃんは悪くないよ!、悪いのは私達だから…。」等とその場しのぎの声をかけたりする。
そのやり取りを聞いていた熟年女性監督は、「何か、私が悪いみたいじゃない!」とけげんそうに話しをしだし、「私は、好きで監督をやっているんじゃないのよ。皆が監督をやってほしいと言うからやっているだけなんだら…。」と言い、「もし私がいけないんだったら、遠慮なく言って頂戴。私もあらためるようにするだから!」と追い打ちをかける。
当然その話を聞いたメンバーは、今後のことを考え、争いごとにしたくないので暫く寡黙になる。
陽介は、この沈黙の数分後、どのように展開するのか興味深々で反省会の再開を待っていたのと同時に、バス最後部座席の方に振り返ってB区の面々の様子を見た。
(ちなみにこのバスは、後部座席付近が向い合せになっている、サロンカーのような座席配置であった。昨日出発する時は永竹クラブがその後部座席付近から順番に座り、B区のチームは中程から前方の席に座って開催某県まで来たが、帰りはその逆で座っていた)
すると、監督が最後部座席の真ん中に陣取っていて、周りを囲むようにチームのメンバーが座っていた。
沈黙の数分、個人攻撃をされて泣いているチームメイトを抱擁しながら慰めているメンバーをはじめ、その他のメンバーは一切監督の顔を見ていなかった。
最終的にもめ事に発展するんだろうなと、感じられる雰囲気であったが、「もめ事がはじまるなら、バスを降りてからにしてもらいたい」と陽介は思った。
ところが、この沈黙を破った者がいた。
おそらくはチームのキャプテンであろう人物が、「皆な、楽しくバレーボールをやって、今度は負けないように頑張ろうよ!、また監督(熟年女性監督)に指導してもらって勝てるように頑張ろう!」と言い、「監督も宜しくお願いします」と頭を下げその場をしのいだ。
結局、試合の反省会ではなく、チームを存続していくための結論を導くだけの話しに終わってしまった。
弱小チームにはよくある話しであると先程も言ったが、こうしたうかつな話し合いや反省会などで、チームが解散してしまうこともあるほどだ。
バスが出発して1時間30分程度順調に高速を走ったであろうか、最初の休憩場所に到着した。
陽介は、B区の反省会と称す話に聞き入ってしまったため、永竹クラブの総括を考える暇がなかった。
取り敢えず用を足すためにバスを降りたが、キーちゃんとヨシちゃんがB区の反省会を聞いていたようで、「陽ちゃんが、ああいう監督じゃなくてよかったね!、少なくともサッパリしてるからね!」等と陽介が2人の後ろにいること気付かず話していた。
陽介が、「あれっ、寝てたんじゃないの?2人共反省会聞いてたの?」と聞くと、「あれだけクリアーに聞こえて来れば、嫌でも聞いちゃうでしょ?、他のチームが同乗してるんだから別の場所でやったもらいたいよね!」と話した。
さて、陽介が用を足してバスに戻ると、彩姉さんが主催企業の係の人とバスの運転手さんと何やら真剣に話をしていた。内容は分からなかったが神妙な顔つきで話をしていた。
彩姉さんも席に戻り、19時10分過ぎであったであろうか、再びバスは帰路についた。