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12月 遠征 親睦大会 23

 弱小ママさんバレーボールチームの永竹クラブと、全国大会ベスト8の実績がある国吉クラブの親睦試合が間もなく始まろうとしていた。


 しかし弱小ママさんバレーボールチームにとって、対戦相手が「全国大会ベスト8」という情報は、試合をする前から既に敗戦の結果をもたらしていた。


 もちろん、中堅チームや強豪チームでも、対戦相手が自分達よりも「強い」という情報が入れば、『相手のサーブやアタックに対してどう対応しようか?』とか、『私はブロックの内側を狙ってアタックを打つから、ブロックホローをお願いネ!、ホローしてくれれば何べんでも打つからトスを持って来て!』とか、それなりに構えるに違いない。


 ただ弱小チームは中堅チームや強豪チームのそれと構え方が違う。


 弱小チームは、対戦する前から敗けることと前提に構えている。


 例えば、「10点取られた時点で私は交代するから、ベンチはそのつもりでいてね。きっと早い段階で交代になると思うから、試合が始まったらすぐにウォーミングアップしておいてネ!」とか、


 「私のアタックは、きっと相手には通用しないから、私にトスは上げなくてもいいよ!」とか、


 対戦する前から、負けを決め込んでいる。


 陽介はその会話を聞かないふりをしていたが、内心は「だから余計な情報は入れたくなかったんだ!、第一永竹クラブのメンバーは、八葉クラブが全国大会3位だったっていう事実を知らない…。国吉クラブはベスト8なのに!」と思った。(確かに、全国大会ベスト8も相当に凄いが…)


 ともあれ、キャプテン#1ヨシちゃんが走ってプロトコールから陽介のもとに戻って来た。


 サーブ権は永竹クラブ。


 国吉クラブとの試合が始まる。


 双方のメンバー全員が、キャプテンを先頭にコートエンドラインに並び、主審の吹笛でネットを挟み握手を交わした。


 次に永竹クラブはサーブ順にエンドラインに並ぶ。


 永竹クラブのスターターは、バックライト#9井口ちゃん・バックセンター#3キーちゃん・ハーフセンター#16イソちゃん・バックレフト#4川さん・レフト#17よっちゃん・中衛レフト#8ハリちゃん・セッター#6マユちゃん・中衛ライト#11和気ちゃん・ライト#1ヨシちゃんであった。


 あらためて主審の吹笛があり、双方のスターターがコートの中に入り円陣を組んで声を出し、試合に臨んだ。


 陽介は円陣がとけたタイミングでベンチを立ち上がり、「皆な、大きな声を出して頑張ろう!、サーブは思いっきり、パスとレシーブは丁寧に!」と声をかけた。


 主審のサーブ許可の吹笛。


 永竹クラブのサーバーは、#9井口ちゃん。


 #9井口ちゃんは、速くて低くてエンドラインまで届くサーブを思いっきり打った。


 国吉クラブは、バックセンターがそのサーブの勢いに押され、ボールを後ろにはじいた。


 サービスエース。


 #9井口ちゃんは、右手の拳を高々と上げてガッツポーズ。#9井口ちゃんは永竹クラブの中でも極めて負けず嫌いだけに、対戦相手が強ければかえって燃える。(実にたのもしいが、あまり口のききかたを知らないのが、たまにきず)


 永竹クラブは、#9井口ちゃんの所に駆け寄りハイタッチ。


永竹クラブ1-0国吉クラブ


 #9井口ちゃんの強烈なサーブが続く。


 国吉クラブは、バックライトがレシーブ。少し乱れたボールを小柄なセッターが追いかけてボールの下に入り、レフトアタッカーに低めのトスをジャンプトスで上げた。


 実に華麗なジャンプトスだった。


 レフトアタッカーはそのトスを、これまたシャープに永竹クラブコートに打ち込んだ。


 永竹クラブは、レフト#17よっちゃんがナイスレシーブ。セッター#6マメちゃんはライト#1ヨシちゃんにトス。


 #1ヨシちゃんは、国吉クラブの決して高くないブロックにシャットアウトされた。


 #1ヨシちゃんはセッター#6マメちゃんに、「私にトスを上げなくてもいいからね!、私じゃぁ通用しないから!」と言ったが、それを聞いた#9井口ちゃんが、「あんた、キャプテンだろ!、私の所にトスを持って来てって言うならまだしもだけど、トスを持って来るな!っていうのはどういう訳だ!、さっきは試合前だったから黙ってたけど、試合が始まってもそんなこと言ってるなら、辞めちまえ!」と怒鳴りつけた。


 陽介も「そうだ!、そうだ!、辞めちまえ!」と#9井口ちゃんに同感していたが、さすがに試合中に感情を表に出せない立場なので、無言でうなづくにとどめ、この事態を静観した。


 その時、#11和気ちゃんが#9井口ちゃんの所にノソノソと歩み寄り、「まぁ、落ち着きなよ。あんたが言ってることは正しいよ!」とだけ言って、ノソノソと自分のポジションに戻った。


 さすがに泣く子も黙る猛獣コンビ。その一角をになう#11ジャイアントパンダの気の利いた一言であった。


 この一言で、#9井口ちゃんは、取り敢えず落ち着きを取り戻した。


永竹クラブ1-1国吉クラブ


 しかし、さほど身長が高くない国吉クラブの2枚ブロックだったが、ブロッカー同士の間もあかず、綺麗に2枚揃って実にタイミングの良いブロックだったと、陽介は思っていた。さすがに全国大会で結果を残すチームだと…。

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