弱小ママさんバレーチーム 再び2
そもそも20年近くバレーボールのボールにさえ触っていなかったのだから、レシーブなど出来るはずもないと、陽介は思っていた。しかし、体の正面に来たボールはちゃんとレシーブ出来た。「何~だ、結構やるじゃない!」地元チームにもかかわらず見知らぬオバサン達に褒められ、陽介は不安になりながらもまんざらではなかった。
およそ1時間、遊びながら練習をし、早春なのにもかかわらずドッサリと汗をかいた頃、「今日の練習は終わりで~す!」永竹クラブの中心選手であろうオバサンが声をかけ、練習が終わった。
陽介も「お疲れ様でした。今日はありがとうございました。」と挨拶をして体育館を出ようとした。
その時である。どこかで聞き覚えのある声が陽介の耳に入った。「陽ちゃん、これから飲みに行くから帰らないでネ!」
間もなく時計の針は21時を指そうとしていたが、この人達にはその時計は18時に見えるのだろう。いわゆる『これからの時間』なのであった。
陽介はその聞き覚えのある声の方を見た。ニコニコしているオバサンがその声の主であろうが、地元とは言え全くその顔に見覚えがなかった。
陽介は一緒に練習に参加していた同級生に、「あの人誰?」と聞くと、「彩ちゃんだよ!」と言われ、「彩ちゃんって誰だっけ?」と一生懸命思い出そうとしている陽介に、そのオバサンが歩み寄って来た。
「陽ちゃん、彩子よ、彩子!」、よく見ると陽介の実家からほど近いところにある、ご近所の彩姉さんだった。 「えっ~、彩姉さん?」、陽介は思わず言った。「そうよ、彩子よ!」、「だって僕の知っている彩姉さんは、綺麗でスレンダーな人だったのにぃ~、そりゃ分かりませんよ!」と、江戸っ子の陽介は歯に衣着せずに言った。
確かによく見れば彩姉さんではあったが、化粧がとれ、目のまわりのアイラインがニジミ、まるで歌舞伎役者の隈取りがごとくになっている顔では、それが人であるか猛獣であるかの区別すら難しかった。メンバーほとんどが猛獣で形容できそうだと、恐れながら陽介は思った。
さて猛獣(しいて可愛く言えば、北極グマ)に誘われて、『これからの時間』に付き合うことになった陽介だが、それがこのママさんバレーチームの、本当の練習場所であったことは、この時知る由もなかった。