12月 遠征 親睦大会 3 姑息な策を実行
「それじゃあ、せっかくだから戴きましょうか!」と国吉クラブと八葉クラブの監督が言い、それぞれの選手と、彩姉さん、和気ちゃん、よっちゃん、陽介が日本酒であらためてカンパイをして、親睦会の二次会が始まった。
お酒も入り、和やかな雰囲気になった二次会であるが、彩姉さんは親睦会の一次会で得た情報から、この部屋に呼んだのは、国吉クラブと八葉クラブの監督と、それぞれのエースとセッターとレシーバーの中心的選手だと陽介に言った。
陽介は、彩姉さんが短時間で得た情報から対戦相手の中心選手と接点を持とうしたことに、感心していた。
八葉クラブの監督が、「このお酒美味しいですね。お値段も結構いいんじゃないですか?」と言うと、八葉の選手も「本当に美味しいです!、もっと飲んでいいですか?」と言った。
彩姉さんは、「良かった、気に入ってもらえて。どんどん飲んで下さいネ!」と不気味な笑みを浮かべながらお酒を注いだ。
飲んでいた一升瓶がなくなると、すかさず大きなバックから次の一升瓶を持って来て、「これはまた味が違うんですよ!、美味しいから是非飲んで下さい!」と彩姉さんと和気ちゃんが、両クラブの面々にご丁寧に紙コップを替えて勧めた。
お酒もすすみ、饒舌になり、部屋全体が賑やかになった。しかしただ一人たたんで部屋の端に置かれた布団にうつ伏せで寝てる者がいた。#18ユカちゃんである。子供を産んでから初めての単身お泊り。楽しくて疲れたことも手伝って眠くなったのであろうが、そもそもユカちゃんはお酒が飲めない。寄り添っていたヤマちゃんに聞くと、ずーとウーロン茶を飲んでたらしいが、皆があんまりにも日本酒が美味しいというので、一口飲んだそうだ。よく見れば熟睡している。いや泥酔状態だと言っても過言ではない状況だ。
陽介はヤマちゃんと相談をして、ユカちゃんを別の部屋に連れて行くように頼んだが、正体がなくなったユカちゃんを起こすのは大変で、3人がかりで別の部屋に引きずって行った。いくら陽介と同級の良妻賢母の熟女でも、引きずられて行く姿の醜さは、とても家族には見せられないと思った。勿論、大御所に見つかればお小言をもらいかねないので、大御所とは別の部屋に連れて行った。
さて、二次会も大分進み、明日は試合もあるので、永竹クラブのメンバーも徐々に自分達の部屋に帰り始めたが、陽介とヨシちゃんとよっちゃんとヤマちゃんは、彩姉さんと和気ちゃんの猛獣コンビの指示で、国吉クラブと八葉クラブの面々とまだ飲んでいた。
それにしても、この両チームは監督をはじめ選手もお酒に強い。確かに開催県とその他の生産拠点県の2県は、世間では男性も女性もお酒に強いと言われている日本酒の有名な生産地ではあるが、それにしても強い。
彩姉さんが2本目の一升瓶を出してもまだ飲み足りず、いよいよホテルの売店まで行って地酒を購入してくるほどだった。
さすがに明日の試合を考え、ヨシちゃんとよっちゃんとヤマちゃんは部屋に帰り、それと同時に国吉クラブと八葉クラブの選手2人が部屋に帰った。
残されたのは、陽介と彩姉さんと和気ちゃんそれに猛獣コンビと同室の数人。国吉クラブは監督とエースとセッターの2選手。八葉クラブは監督とエースと中心的なレシーバーの2選手だった。
時刻は23時30分を少し過ぎていたと記憶しているが、「さぁ、これからが本番よ!、ジャンジャン飲みましょうね!」と彩姉さんが言って、ホテルの売店で買ってきた地酒を皆に振舞った。
もちろん猛獣コンビと同室の永竹クラブの数人は、こうなることを了解した上で、部屋の端に布団を敷きなおし、小さくなって寝始めた。
飲んでるメンバーは皆なご機嫌で、お互いの家庭の話しや、チームの話しで盛り上がったが、彩姉さんが陽介に、「明日は試合があるから、陽ちゃんは部屋に帰って寝て頂戴。後は私と和気ちゃんがとことん付き合って相手チームを潰しておくから!、絶対に明日の試合は勝ってね!、それから私と和気ちゃんは明日の試合は出場しなくていいので宜しくね!」と言って陽介を部屋に帰した。
そう。想像の通り、彩姉さんの秘策とは猛獣コンビで相手チームを酒で潰し、永竹クラブが明日の試合で優位に立とうという、実に姑息な策であった。
バレーボールのプレー以外で優位に立とうとは、陽介は考えてもいなかったが、猛獣コンビは真剣だった。何より自分達の出場を辞退してまでも永竹クラブを勝たせようと、本気で思っていたらしいのだから…。
陽介は、親睦大会だから、たまには良いかと思い、「分かりました、頑張って下さい!」と言い残し、部屋に帰った。