11月 一般大会 試合後の『これからの時間』 2
陽介は『これからの時間』で、定位置の彩姉さんの隣の席に座らされたが、いつもは4人テーブルなのに今回は6人テーブルであったため、陽介の左隣が彩姉さん右隣が和気ちゃんの猛獣コンビの他、和気ちゃんの右隣にヤマちゃん、陽介の向かいの席には左から三輪さん・川さん・そして何とヨシちゃんが座った。
ヤマちゃんとヨシちゃんの「犬」と「猿」が向かい合って座ることなど、今までには無い光景だ。皆な平静を装ていたが、内心は絶対に一悶着あるに違いないと心配していた。ましてや今日の試合内容な訳だから…。
それぞれ最初の飲み物を飲みながら何気ない話をしていたが、各テーブルにいつものように料理が出て来た。
中華料理屋では本当に気が利くヨシちゃんが、皆の好みを考えてオーダーした料理だった。
陽介は毎回思うのだが、永竹クラブの全ての『これからの時間』で、料理のオーダーや勘定の徴収などは一切をヨシちゃんに任せていて、誰もそのことについて文句を言う者はいない。そして皆なヨシちゃんに感謝している。チーム内では何かと問題があるのにもかかわらず、『これからの時間』でのこの安定した安心感は一体何だろう?と。
そして今日の一日を考えた時、ヨシちゃんが変わらず気を利かせていることに、陽介は感心していた。
ほどなくして、彩姉さんが、「陽ちゃん、今日ドリーム化繊に勝てた要因は何?」と聞いて来た。
陽介は、「僕が監督をしてるから」と冗談を言った。
しかし誰もその冗談に反応しなかった上に、彩姉さんは続けて「じゃあ、プーアルに負けた要因は?」と聞いたので、陽介はまたも冗談で「僕が監督をしてるから」と答えた。
彩姉さんは少々不機嫌になって、「あのね、真剣に聞いてるんだからちゃんと答えなさいよ!」と言った。
陽介は、「はい。はい。」と言って、「まずドリーム化繊に勝てた要因は、前回対戦した時と違い『地域連盟』の一般大会を経験したことで、相手のサーブのスピードや攻撃の速さを永竹クラブがさほど感じず、自分達のバレーボールをすることが出来たということだと思います。皆な気付かない内にレベルが少し上がったと言ってもいいかもしれませんね。」と答え、「プーアルに負けたのは、相手のサーブやレシーブは大したことはなかったのですが、それにまさる攻撃が永竹クラブを遥かに上回っていたこと。それと今度は『地域連盟』の試合の経験の結果、ドリーム化繊に勝ったことによって自信過剰になってしまったことだと思います。したがって、自分達は強いんだ!何でも出来るんだ!という勘違いを、知らない間にしてしまっている現状があると、言わざるを得ないと思います。」と答えた。
するとヨシちゃんが、「どうして自信過剰になってるって分かるの?」と聞いて来た。
陽介は、「もし僕が、オリンピックに出場したり世界選手権に出場したことのある経験を持った監督であれば、その背景から皆は僕の指示を無条件に受け入れたかもしれません。場合によっては半信半疑でも取り敢えず指示に従ったかもしれません。しかし僕にはそういう指示を説得する背景がありません。ご存知のように、せいぜい高校で一生懸命バレーボールをやってました!という程度です。その意味では僕は皆さんになめられているのかもしれませんが、僕は誰よりもこのチームを勝たせたい、そして勝ってのみ感じることが出来る喜びを皆に味合わせたいと思って、練習や試合で指示を出しているつもりですが、皆さんは自分達のプレーの方が、客観的に見ている監督である僕より優れていると思い、受け入れないという選択をしたからです。誤解しないでほしいのは、皆さんをさげすんでいる訳ではありません。」と答え、続けて
「僕が監督になった当初ならまだ理解出来るのですが、A区の一般大会で数十年ぶりに家庭婦人チームが決勝に上がった状況でのその選択は、チームとしてはまだまだ典型的な弱小ママさんバレーチームの、プレーに対する認識だと思います。勿論それでいいのであれば問題ありません。そういうチームはたくさんあるし悪いことではありません。ただ永竹クラブは、勝ちたい!と言って僕を監督にしたのだから、監督からの指示はやってもらいたいところですね。その上で、どうしても納得いかなければ、監督を解任すればいい訳ですから。」と言った。
「じゃあ、チームが自信過剰になっていたということ?」と、ヨシちゃんは聞いた。
「結果としては、ヨシちゃんの言う通り、チームが自信過剰の状態だったということになりますが、少なくともプーアル戦では、ヨシちゃんあなた一人が自信過剰であったと言わざるを得ません。他のメンバーは半信半疑だったし、僕の指示を取り敢えずやろうとしていたと思います。しかしヨシちゃんのために指示を実行しないという選択をしたんだと、僕は思っています。」
と、ここで彩姉さんが、慌てて「そんなことはないよ!、チームが選択したことだよ!」と言ったが、それを聞いていたヤマちゃんが、「いや違う。確かにプーアル戦では、ヨシちゃんをホローするために監督の指示をやらないことをチームは選択した。試合も始まってしまうし、それしか方法は無かったと思っての選択だったと思う。」と言い出した。




