#15彩姉さん、事実上の引退宣言 2
「それと…」と話し続けた彩姉さんは、「この前の家庭婦人大会で優勝して、しかも優勝の瞬間コートの中にいれて、本当に嬉しかった。私は皆とバレーボールをやって来て心から良かったと思いました。でも、その後も皆と一緒に練習を続けて来たんだけど、何か陽ちゃんが監督になってくれてから優勝するまでに、練習に取り組んできた気持ちと、優勝した後の練習に取り組む気持ちに違いが出て来ました。お恥ずかしいのですが、私自身はバレーボールをやりつくした感が物凄くあります。つきましては、大御所2人を前に恐縮ではございますが、年齢も50歳を遥かに超えたし、本日をもって永竹クラブを引退したいと思います。
もちろん引退しても部費はお支払しますので、時々OGとして練習にも参加させてもらいたいと思いますし、12月の親睦大会の遠征にも応援団として参加したいです。それに永竹クラブの試合には応援に駆け付けたいと思っています。ただ、もう公式戦で勝つために練習するのは、難しい気持ちです。今日の試合は自分の中でケジメをつける思いで頑張るつもりでしたが、体調不良で願い叶わずでした。どうか皆さん私のわがままを受け入れて下さい。それと陽ちゃん、本当にありがとう。あなたのおかげで、こんな良い思いをすることが出来ました。優勝の瞬間コートに立たせておいてくれて、本当にありがとう!、私の一生の思い出と財産です。」と泣きながら話をした。
どこからともなく、拍手が巻き起こり、メンバー全員が「彩ちゃん、ありごとう!、そしてお疲れ様でした!」と彩姉さんえをねぎらった。
ファミリーレストランでの陽介の席が、珍しく彩姉さんの隣ではないことを若干気にはしていたが、彩姉さんはそばにいた数人のメンバーに、引退をほのめかしていたようだ。
中華料理屋の到着したメンバーが、暗い表情であたったのは、彩姉さんの引退を知っていたからだった。
和気ちゃん曰く、今日彩姉さんが二日酔いだったのは、昨日自分の引退の思いを、和気ちゃんはじめ数人の友人と話をしていて、自分が永竹クラブに入ったころから優勝するまでを思い起こしながら、楽しく飲み過ぎたせいだったとのことだった。
陽介は、彩姉さんがそんな風に思っていたことを、全く知らなかった。むしろチームのムードメーカーとして、これからも活躍を望んでいた。だから車の中でも厳しいことを言ったのに、まさか引退を決意していたとは知らなかった。
陽介は自分の席から立ちあがり、「彩姉さん、お疲れ様でした。しかし、まだまだ老け込むには早すぎますよ!、大御所2人だって頑張っているんだから。でも彩姉さんの気持ちはよく分かります。ついては、これからは永竹クラブの応援団長として頑張って下さい。ただし、12月の親睦大会は全員がユニフォームを着てベンチに入れます。だから応援団長としてではなく、選手として参加して下さい。」とお願いした。
さらに陽介は、「ほんの少し前まで、きょうの試合の結果、皆さんが自分達のレベルを知って、これからどういう方向で行くのかを訪ねてから、練習の内容を考えて行こうと思っていましたが、彩姉さんのためにも彩姉さんが所属していた永竹クラブに、優勝してこそ味わえる喜びを、もう少し伝えたいと思うようになりました。何回優勝しても、その度に味わう喜びは違います。そしてそのことがチームを成長させると思います。もちろんチームの方向性は皆さんが決めることですが、僕はそういう気持ちでいることを前提に考えて下さい。チームの方向性が結論どのようになっても僕の処遇がどうなっても全く問題ありません。皆さんで考えて方向を示して下さい。ただし、今日はこの話をするのはやめて、彩姉さんのために飲みましょうよ!」と、大御所に願った。
大御所も、「皆な、今日は彩ちゃんのために、飲もう!」と言って、全員でグラスを突き上げ、「カンパ~イ!、カンパ~イ!」と何度も繰り返した。
彩姉さんは、号泣している。でも、悔いはないとも言っている。
中華料理屋の料理人が出勤して来た。異様な光景を目の当たりにして、ママさんに「どうしたんですか?」と聞いたが、ママさんも号泣していて全く会話にならない。
すると、「ママぁ~、いつもの頂戴ぃ~!」と像アザラシの雄叫び。そしてまだ作業着に着替えてない料理人に、「えぇ~と、料理はねぇ~」と吠え続けた。
いつもの永竹クラブが戻って来た。試合に敗けたことは、忘れたかのようだ。
まだ日が高いうちから始まった宴会は、結局この日も大宴会となり、22時でお開きとなったが、陽介と和気ちゃんは、明け方まで彩姉さんと中華料理屋近くのファミリーレストランで飲んでいた。