ん、『永久欠番』??? 2
川さんが言うところの『永久欠番』とは、何なのか?
普通に考えれば、野球やバスケットに代表されるチームスポーツにおいて、たぐいまれな活躍をしたり、著しく影響を与えた選手が付けていた背番号を、後世に知らしめるため、あるいはチームの誇りとして、そのチームではその背番号を使用しない、いわゆる『永久欠番』とするというのが一般的だが、果たして『弱小ママさんバレーチーム』の永竹クラブに、そのような功績のあった選手がいたのだろうか?
陽介には全くの疑問だったが、川さんが言うには、「まぁ、確かにチームに影響を与えたという意味では、功績があったと言ってもいいかもね、それにその人が付けていた背番号を『永久欠番』にすることにしたのは、全員賛成の結果だしねぇ~」と、苦笑いしながら話した。
陽介は、「具体的には、どんな影響を与えて、どんな功績だったんですか?」と、興味津々で聞いた。
気が付くと、今日の『これからの時間』に参加していたメンバーが、飲んでいたいグラスやジョッキから手を離して、川さんと陽介の話しに、耳をダンボにしていた。
川さんは、陽介の質問に答えて、「かれこれ6年位前だったと思うけど、#12を付けていた人がいて、その人は我が強く、わがままで、人の話しを聞かず、協調性が全くない、絵に描いたような嫌われ者だったのよ。それに、自分が言ってることはチームのためで、自分自身が良く思われたいとか、気遣って貰いたいとかで、言っている訳ではない、ってよく言ってたわ。自分の常識が世間の非常識だとは、全く思ってなかった人だった。」
陽介は、「像アザラシのことを言っているのか?」と、ヨシちゃんを見たが、ヨシちゃんも耳をダンボにして聞いているし、ましてや現役でプレーをしてるんだから、違うのだろうと思ったが、ヨシちゃん以上の人がいたとなると、これはかなりのものだと、さらにこの話しに興味が湧いた。
川さんは、「#12の人がある日、陽ちゃんの前任監督に、「私にセッターをやらせて下さい!、私がセッターをやれば絶対に勝てるし、チームも必ずまとまります!」と言ったの。皆なその時同じことを思ったわ、「#12がいるから、チームがまとまらないんだろ!」と。陽ちゃんの前任監督は、さすがに怒って#12の申し出を断った。私達もプライドの高い#12が申し出をあっさり断られたから、すぐ辞めるだろうと思ったんだけど…」
陽介は、「うん、うん、それで」と身を前にのりだして話しの続きを聞こうとした。
その時、「ママぁ~、いつものちょうだ~い!」と像アザラシの雄叫びが、サラリーマンでいっぱいの中華料理屋に響き渡った。
陽介は、「せっかく、いいところなのに、川さんの話しが途切れちゃったじゃないか!、#12を付けていたのは、本当はヨシちゃんじゃないの?」と思いながら、そうは言っても、丁度いいタイミングだから、トイレに行ってこようと席を立った。
がしかし、座った。いや座らされた。
ご存じ、北極グマの『強引な引き込み』である。
北極グマは、陽介を強引に座らせて、「陽ちゃん、私が先にトイレに行ってくるから、絶対に話を先に進めないでね!」と、バレーボールで一切見かけない素早い動きで、トイレにダッシュした。
陽介は、「やれば、出来るじゃん!」と思ったが、人間は切羽詰まると何でも出来そうだと、あらためて感じた。