5月 一般大会 試合後の総括 1
陽介は、永竹クラブの全員が、体育館外の廊下で待っているとも知らずに、靴を履き替えて帰ろうとしていた。
慌てて陽介は、「皆さんお疲れ様でした。今日の一般大会の試合はこれで終了ですが、皆さんも感じた通り、ドリーム化繊との試合は、残念ながら今の永竹クラブの実力では、ここまででした。しかし、日頃の練習の成果を一生懸命出そうと全員が頑張りました。チョッと厳しい言い方をすれば、一般大会で常に決勝戦に進んでいるチームに、ただただ、勝つための練習が足らなかったということです。これは理屈ではありません。しかし、僕はこの試合を通じて永竹クラブに可能性を見ました。それは一般大会で優勝出来るということです。どうかこれからも、しっかり練習をして下さい。以上です。」と言って、解散を促した。
が、しかし、試合中の予想もしなかったポジションチェンジに、メンバーは黙っていられる訳もなく「陽ちゃん、何であのタイミングで、セッターを代えたの?、しかも普段練習ではやったことのないマメちゃんをセッターにしたの?」と言ってきた。
陽介は「きた、きた」と思い、『これからの時間』で集中砲火を浴びるより、ここで説明した方が良いと考た。
そして、陽介が話そうとした時、彩姉さんが「皆な座りましょう!」と言って、車座になった。
陽介は、この車座で話をするのが、大っ嫌いだった。
よく見る『弱小ママさんバレーチーム』の、敗け試合後の光景であるからだ。それに話が長くなる。話が長くなれば、四方から意見や苦言が出て、収拾がつかなくなる。
そして、必ず出来もしないのに、「あの時あーすれば良かった、こーすれば良かった」等、次に向かうためには非建設的な話しばかりになる。さらには自分が良い子になり他を批判するばかり、結果としてもめごとにになり、チーム内が険悪になったり、崩壊への道をたどる。
もちろん、反省は必要だ。その意味で陽介は『総括』を短めに話し、次につなげるようにしている。
しかし、大御所もいることだし、我慢して話さなければいけないと思い、説明を始めた。
陽介の説明は、
一、キーちゃんが負傷したので、メンバーチェンジが必要になった。
二、その時の試合状況は、永竹クラブが点差をはなされ負けていた。
三、それまでの試合内容を見て、2セット目中盤からセッターを代えようと思っていたが、タイミングが合わなく、キーちゃんの負傷交代がきっかけとなった。
その時のメンバーチェンジの候補は、
ⓐ セッター#2ヤマちゃん ⇒ #3キーちゃん
(#6マメちゃんをバックセンターに、#2ヤマちゃんをハーフセンターに)
ⓑ セッター#2ヤマちゃん ⇒ #6マメちゃん
(#2ヤマちゃんをハーフセンターに)
いずれも、ハーフセンターに身長170cmのヤマちゃんを置くかたちではあったが、ⓐは普段からキーちゃんのトスを打ちなれていたので、優先候補として考えていたが、結果負傷退場してしまったので、ⓑを選択した。
ヤマちゃんをハーフセンターのポジションに置いたのは、ⓐ・ⓑ共に3枚ブロックから2枚ブロックに変更になるので、真ん中に大きい選手を置いて、レシーブ陣形のバランスをとりたかった。合わせてセンターからヤマちゃんを打たせ、相手に今までと違う目線を持たせ、挽回したかった。
と、説明した。
詳しく話をして、これで理解をしてもらったと思い、陽介は立とうとした。とにかく他人が見ている中で、車座で話をしている状況から、脱したかった。
ところが、ヨシちゃんから、「負傷のキーちゃんの代わりに、芦さんを入れたのは理解出来るけど、何で他がそのままのポジションじゃダメだったんですか?、やったことのないシステムで試合をするリスクは考えなかったんですか?」との発言があった。